2024年、ステーキ店の倒産が過去最多に迫る ― 飲食業界に何が起きているのか？
近年、外食業界は大きな転換期を迎えています。特に2024年に入り、全国各地でステーキ店の閉店や倒産のニュースが相次ぎ、その数が過去最多を記録する勢いであることがわかりました。
日本全国における外食市場、とりわけ“ステーキ”という業態は長年にわたって一定の人気を保ってきました。ボリューム感に加え、近年では“手軽にがっつり食べられる高たんぱく質”という健康志向の消費者の間で再評価される局面も見られていた一方で、今まさにその構造に大きな揺らぎが生じています。
今回は、なぜステーキ店の倒産がこれほどまでに増加しているのか、その背景にある要因と、今後の飲食業界がどのような道を歩むべきなのかについて考えてみたいと思います。
倒産件数の増加背景：数字に見る現実
東京商工リサーチの調査によると、2024年1月から4月までに倒産したステーキ専門店はすでに14件に上っており、これは年間データとしては過去最多となった2020年（19件）や2023年（15件）を上回るペースで推移しています。
この数字が意味するものは単なる個別の事業体の不振ではありません。業態全体の構造的課題であり、単なる景気循環を超えた変化が浮き彫りになっているのです。
コロナ禍後の景気回復とその陰で
ステーキ店に限らず、コロナ禍は外食産業全体に大打撃を与えました。営業時間の制限、来店客の減少、テイクアウトやデリバリーへの急なシフト――これらが飲食店の経営に与えたインパクトは計り知れません。
その後、徐々に社会活動が日常を取り戻してきた2023年から2024年にかけて、お客さんの外食意欲は確かに回復傾向にあります。しかし、その背後には「人手不足」「原材料価格の高騰」「電気・ガスなどの固定コストの上昇」といった、飲食経営にとって深刻な問題が山積している状況なのです。
ステーキ業態ならではの課題
なぜ「ステーキ店」が特に倒産数を伸ばしているのか。いくつかの理由が考えられます。
まず一つ目が、原材料コストの上昇です。ステーキに使用される牛肉は輸入を中心としていますが、円安の影響や世界的なインフレ、物流の混乱などが重なり、仕入れ価格が大幅に上昇しています。これにより、利益率の確保が困難となっている店舗が多いようです。
加えて、ステーキという料理は調理に専門性を要し、さらに運営にはある程度の厨房スペースやグリル設備、十分なスタッフが必要です。手軽に運営できる業態に比べて固定費が大きく、特に人材不足の現状下では慢性的な人手不足が深刻化し、営業体制が維持できない店舗もあります。
さらに、競争の激化も見逃せません。いわゆる「ステーキ業態ブーム」が一段落し、マーケットの成熟によって“選ばれる店”と“そうでない店”の二極化が進んでいます。味・価格・サービス・立地――すべてにおける総合力が問われ、少しでも消費者の期待に応えられないとすぐに淘汰される厳しい市場環境なのです。
全国展開を目指した企業にも逆風が
ステーキ店の中でも特に目立った存在だった「いきなり！ステーキ」を運営するペッパーフードサービスも、かつての急成長から一転して、多くの店舗を閉鎖しています。
この例からもわかるように、急速な多店舗展開戦略が必ずしも成功に結びつかない時代となっており、従来のスピード重視の経営手法が見直されつつあります。地元密着、品質重視、独自性――こうしたキーワードこそが、これからの飲食業界に求められてくるのかもしれません。
消費者の志向の変化も一因
消費者のライフスタイルや志向の変化も無視できません。健康志向やミニマルライフを重視する人々の増加により、従来型の「ガッツリ」「脂っこい」料理は敬遠されがちです。
また、物価高騰により外食そのものへの支出を控える人も増えており、外食をする際には「価格以上の満足感」が強く求められるようになっています。いくらボリュームがあっても、味やサービス、店舗環境に満足できなければリピーターにはなりません。これは、飲食店全体にとって大きな課題です。
これからのステーキ店の在り方とは？
現状厳しい状況が続くステーキ店業界ですが、それでも未来に希望がないわけではありません。むしろ、今こそ業態を見つめ直し、魅力を再発見し、再構築するチャンスとも言えるのです。
例えば、サステナビリティに配慮した肉の選定や、女性や高齢者も入りやすい店舗設計、1人でも気軽に楽しめるメニュー開発など、これまでの常識にとらわれない柔軟な発想が業界全体に求められています。
また、店舗型にこだわらずにキッチンカーやデリバリー専門といった営業形態の多様化も、今後の生き残り策として有効かもしれません。
飲食店とは、単に食事を提供する場ではなく、「体験を提供する場所」でもあります。おいしさはもちろんのこと、居心地のよさ、スタッフのおもてなし、空間の雰囲気などが総合的に重なって「また来たい」と思える店舗になります。
変化を恐れず、時代に合わせて自らの価値を再構築していく姿勢が、これほど不安定な時代を乗り越える鍵となるのではないでしょうか。
結びに ― 私たち消費者にできること
飲食店を守るのは、実は私たち消費者一人一人でもあります。気に入ったお店があるなら、応援の気持ちを込めて通い続けること。口コミやSNSでお店の感想を広めること。テイクアウトやデリバリーでも売上の一助になります。
外食は、単なる食事の手段ではありません。それは人生の彩りであり、人々をつなげる大切な存在です。
破綻や閉店が続く現実は決して明るいニュースとは言えませんが、それをきっかけに業界がより強く、優しく、柔軟に変わっていくことを、心から願っています。
