近年、「旅しながら稼ぐ」という新しいライフスタイルを選択するシニア世代が注目されています。かつては定年退職後、ゆっくりと余生を過ごすことが一般的な過ごし方とされていましたが、価値観の多様化とともに、定年後も「働く」「動く」「挑戦する」ことを選ぶ人々が増えています。2024年現在、この流れはさらに加速し、「旅をしながら働く=ワーケーション」や「車中泊をしながら各地で短期労働を行う」といった新たな働き方を取り入れるシニア層が拡大しています。
本記事では、旅しながら働くシニア世代が増えている実態や背景、どのような仕事に従事しているのか、そしてそのライフスタイルが持つ魅力や課題について、多くの方が共感しやすいかたちでご紹介します。
旅するシニア「アドレスホッパー」の実態
「アドレスホッパー(住所を持たず、各地を転々とする人)」という言葉をご存知でしょうか。インターネット環境の進化や仕事の多様化により、若い世代を中心に浸透してきたこのライフスタイルが、今やシニア世代にも広がりつつあります。
70代の元教員の男性は、退職後にキャンピングカーを購入し、全国各地を巡りながら、設営が必要なイベントの手伝いや、市場での商品陳列の短期アルバイトなどをこなしています。彼の言葉によると、「旅行だけでは物足りない。時間も元気もあるので、誰かの役に立ちたい」といいます。
こうした人たちは、固定の住居にとらわれず、働きながら旅を楽しむという自由な暮らし方を選び、それに伴う収入で旅を続けています。完全なリタイアではなく、自分の能力やスキルを生かして一線で活動することが精神的な充足にもつながっています。
背景にある要因1:健康意識とアクティブな生活
かつてのシニア世代と比べて、現在の60代・70代は驚くほど元気で活動的です。平均寿命が延び、健康寿命も伸びていることから、引退後の人生が20年以上続くことも珍しくありません。その長い期間を「何もしないで過ごす」より、「何かに貢献しながら自分を保っていく」ことを望むシニアが増えているのです。
また、「老後資金2,000万円問題」に象徴されるように、年金制度の将来に対する不安や、生活費の補填を目的に少しでも働き続けたいと考える方も少なくありません。しかし単なる労働ではなく、「旅」と「仕事」を融合させることで、生活にハリを持たせながら理想的な老後を築く。それが新しいライフスタイルの形として、受け入れられてきているのです。
背景にある要因2:人とのつながりと地方との交流
旅をしながら働くということは、同時に多種多様な人々との出会いの連続でもあります。都市部ではなかなか味わえない地域とのふれあいや、地元の人々との交流、伝統文化への触れ合いが、旅の魅力としてシニア世代から高く評価されています。長年職場で築いた人間関係が途切れた後、地域社会とつながりながら新たな居場所を見つける場として「旅先での仕事」が注目されているのです。
中には、「ある町で1か月間農業の手伝いをし、そのまま地域の人々と親しくなって移住を決めた」というような人もいます。このように、単なる一時的な仕事を超え、「その土地での新たな人生の一歩」に繋がる可能性もあるのが、この働き方の魅力といえるでしょう。
どんな仕事があるのか
では、実際にシニアが行っている「旅先での仕事」にはどのようなものがあるのでしょうか?以下に代表的なものを紹介します。
1. 農業ヘルパー
農繁期に人手が足りない地方の農家で、種まきや収穫の手伝いなどをする仕事です。自然の中で身体を動かすことで健康にもよく、やりがいを感じる方が多いようです。
2. 観光地での短期アルバイト
旅館やホテル、観光施設などでの接客業務、清掃、調理補助といった仕事も人気です。観光シーズンに合わせて働くことで、地域活性化にも貢献できます。
3. イベントスタッフ
各地で開かれる地域イベントのスタッフとして、会場設営や案内係を務めるケースも多々あります。祭りやマルシェに関わることで、地域文化に触れる絶好の機会ともなります。
4. オンライン業務
地方にいてもインターネットさえあれば可能な仕事もあります。例えば、過去の経験を活かした文章制作や講座配信、コンサルタント業務など、形式にとらわれない働き方も増えています。
課題もあるが、それを乗り越える自由と達成感
もちろん、このような働き方にも課題はあります。まず、体力的な負担。いくら元気なシニアとはいえ、慣れない仕事や移動の多さに疲れてしまうこともあります。また、収入が不安定になること、医療施設へのアクセスが難しい地方での滞在など、健康面での不安もついてまわります。
しかし、その一方で「自由な時間」と「新たな環境に飛び込める勇気」は、まさにシニア世代ならではの特権ともいえるでしょう。決まった場所や時間に縛られず、自分のペースで働くことができる。そんな生活こそが、人生100年時代の新たな豊かさなのかもしれません。
シニアが「旅する働き方」を選ぶ理由
1. 旅と仕事の融合による豊かな生活体験
2. 第2・第3の人生を自ら切り拓く楽しさ
3. 地域社会とのつながりによる充実感
4. 健康維持や生きがいにもつながる日々の活動
5. 新しいことに挑戦し続ける喜び
こうした理由から、ますます多くのシニアが「旅をしながら働く」という道を選んでいます。
おわりに
時代とともに働き方も、人生のあり方も変化しています。かつては「定年=引退」と考えられていた時代から、「定年後=再出発」と捉え直す人が増えている今こそ、柔軟な価値観や働き方が求められています。
今日紹介した「旅しながら稼ぐシニアたち」の姿は、自由な生き方を体現した一つのモデルです。「年を重ねることは衰えることではなく、選択肢が増えること」。そう前向きにとらえ、自分なりの「豊かな後半人生」を歩むヒントとして、これからのライフスタイルに取り入れてみてはいかがでしょうか。
旅しながら稼ぐ。そんな新しい選択肢が、きっとあなたの未来にも彩りをもたらしてくれることでしょう。