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体験が未来を拓く:たかつえスキー場に見る、共創型リゾートの新潮流

雪山リゾートの新たな挑戦:「集客重視」から「体験重視」へ――スキー場の未来戦略とは

かつてはウインタースポーツの聖地として賑わった日本のスキー場。しかし、少子高齢化、若者のスキー離れ、気候変動による積雪量の不安定化など、さまざまな要因によりスキー場の経営は厳しさを増しています。そうした背景の中、これまでの「集客重視」戦略に限界を感じ、運営方針の大きな転換を余儀なくされているスキー場が出てきています。

今回の話題は、福島県・南会津町のたかつえスキー場の事例を中心に、スキー場がいま直面している課題と、これからの持続可能な観光をめざす新たな方向性について掘り下げていきます。

「人数」よりも「価値体験」を重視する転換

たかつえスキー場を運営するリステルグループは、これまで多くのスキー場が目指してきた「とにかく人を集める」という集客重視型の戦略に疑問を抱くようになりました。大規模な人出に合わせて施設整備や対応スタッフを増やすことで、収益の拡大を図るこのモデルは、人口が減少し続ける日本では徐々に現実とかけ離れつつあります。

そのため、リステルグループがとった新たな方針は、「より深い体験を提供するスキー場」へと方向転換することでした。単に滑るだけの施設ではなく、滞在型で、学びや癒し、地域とのつながりが感じられるような場所へとスキー場を進化させていく試みです。

この戦略の一環として、たかつえスキー場では2024年12月、リゾート施設「会津高原星の郷リゾート」の開業を予定しています。この施設は、スキーやスノーボードだけでなく、星空観察、自然散策、温泉、里山の文化体験など、四季折々の自然や文化資源と調和した多彩な体験を提供することを目指しています。

大量動員型の観光から持続可能型観光へ

今までの「観光=大量動員」というイメージは、地域の暮らしや自然環境に過剰な負担をかけることもありました。特に地方では、観光客急増による交通渋滞やゴミ、マナー問題などが顕在化し、「観光公害」と呼ばれる現象も報告されています。

しかし、会津高原星の郷リゾートが目指しているのは、大都市からの一時的な大量流入を招くのではなく、少人数でも長く滞在し、地域と自然に配慮した過ごし方ができる「持続可能な観光(サステナブル・ツーリズム)」の実現です。

これは日本各地の観光地に共通する新しい課題でもあり、ただ人を呼ぶだけでは意味がなく、観光の在り方そのものを見直す必要があることを示唆しています。

リゾート地の未来を拓く「地域との共創」

こうした新たな観光への取り組みには、地域住民や地元企業との連携が欠かせません。たかつえスキー場の再生プロジェクトでは、地元の農家と組んだ食の体験、古民家を活用した宿泊施設、伝統工芸のワークショップなど、地域に根付いた資源を活かした新たなサービスを計画しています。

ただ観光客に“消費”される場所ではなく、訪れる人と地域の人が一緒になって楽しみ、学び合えるような“共創の場”としてのスキー場の可能性を広げていく構想です。

また、この戦略は冬だけでなく、春・夏・秋と年間を通じた観光需要に対応することも視野に入れています。グリーンシーズンにはトレッキングやキャンプ、マウンテンバイクなど、アウトドア好きにも満足してもらえるよう整備が進められています。

気候変動との向き合い方

スキー場の未来を語る上で、避けて通れないのが気候変動による雪不足の問題です。一部地域では例年に比べて降雪量が減り、予定通りにスキーシーズンを迎えられないという事態も珍しくなくなってきました。

そのため、ウインタースポーツ一本槍の経営から、気候の影響を受けにくい通年型の体験リゾートへのシフトは、環境リスクへの柔軟な対応策として極めて現実的です。単一の収益モデルに依存しないことで、経営の持続可能性を高める効果も期待できます。

それはただ単に生き残りを図る施策ではなく、自然と共生し、子どもたちや次の世代にも価値ある山の魅力を残すための責任ある選択でもあるのです。

地域の未来を切り拓くスキー場

いま、日本全国のスキー場が似たような課題に直面しています。そして、たかつえスキー場の挑戦は、これからのローカル観光地のあり方に貴重なヒントを与えてくれます。

大量集客から体験重視へ、観光消費から地域共創へ――視点を変えることで、人と自然、都市と地方、訪れる人と地域の人をつなぐ新しいスキー場のカタチが模索されています。

それは「スキーをしに来る場所」から「心身ともに癒される場所」、そして「また帰ってきたいと思える故郷のような場所」へと、価値の再構築でもあります。

コロナ禍を経て、人々の旅行の目的やスタイルが変化する中、その変化に柔軟に対応し、かつ地域全体を巻き込んだ変革を進めていくことこそが、持続可能な観光地の鍵となるでしょう。

この冬、もしあなたがスキー旅行を計画しているなら、ぜひ一度、こうした新たなスタイルのスキー場を訪れてみてはいかがでしょうか。雄大な自然と人のぬくもりに触れながら、これまでとは一味違う旅の魅力がきっと見つかるはずです。