被爆3世の決意——記憶と命に寄り添い、平和を紡ぐ医師の道

広島に生まれ育った19歳の大学生、高橋颯太さんは「被爆3世」として、自身のルーツに向き合いながら、人々の健康と平和に貢献する医師を目指しています。戦争や原爆といった過去の悲劇が彼の家庭に深く根差しており、それが彼の進む道に確固たる意志を与えています。この記事では、高橋さんの思いに触れながら、被爆の記憶とともに生きる若者の姿を多くの人に伝えるとともに、私たちが未来への希望をどのように紡いでゆけるかを考えていきます。

被爆3世としての出発点

高橋颯太さんは、広島で被爆した祖母を持つ「被爆3世」です。被爆1世とは、広島や長崎で原爆を直接経験した人々を指し、2世、3世とその代を経る中で、身体的・精神的な影響を心配する声がありました。高橋さんの祖母は、爆心地から約2キロの地点で被爆し、以後長い間、放射線による健康被害を不安に思いながら生活してきました。その背景を聞いて育った彼は、幼いころから「戦争とは何か」「原爆とは何をもたらしたのか」を自然と考えてきたと言います。

彼の家族から語られる被爆体験や、祖母の抱えた長年の不安は、高橋さんにとってただの過去の話ではありません。「過去の出来事」が家族の中に今も息づいているという事実が、彼の人生観を形作っています。そして、それが彼に課せられた使命であり、同時に希望でもあるのです。

医師を目指す理由

高橋さんが医師を志した理由には、被爆体験を背景にした「人の命に寄り添いたい」という強い思いがあります。原爆の影響は、被爆者本人だけでなく、その家族にも様々な形で影響を及ぼしてきました。不安、偏見、そして病気への懸念。そうした状況を自分の身近に感じながら育った高橋さんは、「人を安心させられる存在になりたい」と強く願うようになりました。

被爆者の健康診断や支援制度がある一方で、医療に対する信頼や自分の体に対する不安を抱える被爆者は今も少なくありません。高橋さんは、こうした方々に寄り添える医師になりたいと考えています。ただ病気を治すだけではなく、患者の思いや背景まで理解し、それに耳を傾ける医師。それが彼の目指す理想像です。

記憶の継承という役割

高橋さんのもう一つの大きな関心は、「記憶の継承」です。被爆者の高齢化が進む中、原爆を直接体験した１世たちの声を未来につなげる必要性が増しています。高橋さんは、大学での活動だけでなく、SNSなどを通して積極的に平和への思い、自らのルーツについて発信しています。

「被爆者が減っていく今、残された僕たちが伝えていかなければならない」と彼は話します。過去の悲劇を記憶としてとどめておくだけでなく、今を生きる人々、そして次の世代に平和の重要性を伝える—その使命感が、彼の行動を支えています。

「被爆3世」という立場には、重荷と感じる側面もある一方で、だからこそ語れること、伝えられることがある。医師として、命を預かる責務を担いながら、同時に「平和の語り部」としても生きる彼の存在は、私たち一人ひとりにとっても考えるきっかけになります。

平和と健康、その両方を育てるために

被爆の影響を受ける家族の中で育った高橋さんは、命の尊さのみならず「安心して生きられる社会とは何か」も深く見つめてきました。彼にとって医師とは、ただ治療を行う人間ではなく、「人が安心して生きられること」を支える存在です。それを支える基盤として「平和」が必要不可欠であるという認識が彼の中にはあります。

原爆投下によって傷ついた人々の多くが、健康だけでなく、暮らしの中の安心や尊厳をも奪われてきました。だからこそ、「健康」と「平和」は切り離すことができない、と高橋さんは語ります。被爆の悲劇を知る者として、医師を目指す者として、彼には果たすべき役割があると感じているのです。

教育と平和、そして未来

高橋さんのような若者が、自らのルーツを受け止め、それを使命として未来に生かそうと行動している姿は、多くの人々に希望と勇気を与えてくれます。一人の若者の誠実な歩みが、社会を動かす力になる。そう信じられることが、どれだけ心強いことでしょうか。

また、高橋さんのような「被爆3世」が前向きに自身と向き合い、医師として社会貢献を目指すことは、教育の力、家族の絆、そして社会の平和への意識の賜物でもあります。これからの時代を担う若者たちが、過去を忘れず、未来を切り開く姿勢を持ち続けることは、社会全体にとってかけがえのない財産となるはずです。

まとめ：次の世代へ託す希望