実質賃金 5カ月連続でマイナス:私たちの暮らしへの影響とは
2024年6月、厚生労働省が発表した毎月勤労統計調査によると、日本の実質賃金は5カ月連続で前年同月を下回りました。この「実質賃金」とは、働く人の賃金から物価上昇の影響を差し引いたものであり、私たちの生活水準に直結する重要な指標です。
今回の報道では、2024年4月の実質賃金が前年同月比で0.7%のマイナスだったことが明らかになりました。名目賃金は増加しているものの、消費者物価の上昇に追いつかず、実質的な「手取り感」は減少しているという状況が続いています。
本記事では、実質賃金が減少している背景、私たちの生活への影響、そして今後注目すべき動きについて、わかりやすくご紹介します。
実質賃金とは何か?
実質賃金は、名目賃金(実際に支払われる賃金)からインフレ(物価上昇)分を差し引いたものです。たとえば、毎月の給料が前の年と同じ30万円であっても、物価が5%上昇していれば、実質的には前年と比べて「生活できる量の商品・サービス」が減っている、つまり相対的には収入が減っているのと同じことになります。
したがって、実質賃金が下がるということは、「稼いでも稼いでも生活が苦しく感じる」状況を意味します。
実質賃金が下がる理由は?
今回の実質賃金減少の背景にはいくつかの要因が考えられています。
まず第一に、物価上昇の影響です。特にエネルギー価格や食品価格の高止まりが続いており、家庭の支出に直結する生活必需品が高くなっています。政府のエネルギー支援策の一部終了や、為替レートの円安傾向も物価上昇を後押ししています。
次に、賃金上昇のペースが物価上昇に追いついていない点も大きな課題です。2024年の春闘では、多くの大企業が賃上げを実施したものの、その効果が中小企業や非正規雇用者にまで波及しきれていないのが実情です。実際、今回発表された調査でも、パートタイム労働者の実質賃金の伸び悩みが見て取れます。
また、労働人口の年齢構成の変化や働き方の多様化も影響していると見られます。高齢化が進み、シニア層の労働参加が進む一方で、全体の平均賃金が抑えられる傾向があり、これが実質賃金の伸び悩みに繋がっているという分析もあります。
生活への影響は?
実質賃金の低下は、私たちの日々の生活にさまざまな影響をもたらします。
まず最も直接的に感じられるのが、家計の負担増です。同じ給料でも、買える食品や日用品が少なくなっているため、節約意識が高まりやすくなります。特に、子育て世帯や一人暮らしの世帯では、例えば外食を控える、自炊の回数を増やす、光熱費を抑えるなどの対応が必要になってきます。
さらに、生活必需品の価格上昇に加えて、教育費や医療費、保険料などの固定費が増える傾向にもあります。結果として、可処分所得(自由に使えるお金)が減少し、消費活動が冷え込む可能性が高まります。
このような生活実感が冷え込むと、消費を控える行動が連鎖的に経済全体の需要を下支えする力を弱めることにも繋がるため、企業の収益や雇用環境にも影響を与える恐れがあります。
私たちができることは?
このような状況の中で、個人として何ができるのでしょうか?
まずは、生活防衛術として支出の見直しを行うことが大切です。特に、固定費(通信費、保険料、電気ガス代)を見直すだけでも、月々の支出を軽減することができます。また、ポイント還元やキャッシュレス決済などを賢く使って、日々の支出を効率化することも1つの手段です。
次に、スキルアップや資格取得によって、自分の市場価値を高め、将来的な収入アップを目指すことも重要です。最近ではオンラインで学べる講座やセミナーも充実しているため、無理なく学びを続ける環境が整いつつあります。
また、国や自治体から出されている給付金や補助制度の情報をしっかり把握し、必要に応じて活用することも生活を支える上で大切なポイントです。
企業や社会の動きにも注目を
一方で、企業や社会全体の取り組みにも注目していく必要があります。
今年の春闘では大手企業を中心に高めの賃上げが実現しました。しかし、中小企業や非正規労働者への波及が課題として残っています。今後は、こうした取り組みを一過性ではなく、継続的なトレンドとして定着させる必要があります。
また、政府も「構造的な賃上げ」を進めるために補助金や税制優遇などの政策を展開しています。企業にとって賃上げが持続可能な仕組みとして成立するためには、労働生産性の向上、イノベーションの推進、人材投資など長期的な視点が求められます。
今後の見通しは?
今後の実質賃金の動向は、物価動向や為替相場、国際情勢の影響を大きく受けます。特に、エネルギー価格や円安によるコストプッシュ型インフレが続く場合、名目賃金の上昇だけでは生活への恩恵は限定的になってしまいます。
その一方で、今年後半には労働需給のひっ迫が人手不足を背景に賃金上昇を後押しする可能性もあります。また、次年度以降の経済政策や企業戦略によっては、より広い層への実質賃金改善が期待されます。
まとめ:物価と賃金のバランスがカギ
私たちの生活に直結する「実質賃金」は、名目賃金と物価のバランスの上に成り立っています。今回の5カ月連続マイナスという状況は、働く人にとって決して軽視できない現実です。
変化の激しい時代においては、賃金の増加が単に「額面の上昇」だけではなく、物価というもう一つの軸と調和できているかを見極める必要があります。
今後も、個人としての生活防衛を進めるとともに、企業や国全体の取り組みにも関心を持ち続けることで、より良い社会と働き方を築いていくきっかけになるのではないでしょうか。
私たち一人ひとりの意識と行動が、経済の大きな流れに影響を与える可能性を秘めています。だからこそ、自分の生活と向き合いながら、前向きに将来を考えていきたいものです。