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性別問わないトイレが映す社会の現在地──多様性と安心の両立に向けて

近年、多様性とインクルージョンの観点から、性別を問わない「ジェンダーニュートラルトイレ」(以下、性別問わないトイレ)が国内外で注目されています。トランスジェンダーやノンバイナリーといった、多様な性のあり方を持つ人々が快適に利用できるよう、従来の男女別トイレに代わり、こうした新しい形のトイレを導入する動きが広がりつつあります。一方で、実際に設置が進むにつれ、「抵抗を感じる」「敬遠したい」という声も少なからず上がっており、社会的な議論が深まっています。

今回は、Yahoo!ニュースに掲載された「性別問わないトイレ 敬遠の声も」という記事(https://news.yahoo.co.jp/pickup/6544671?source=rss)をもとに、性別問わないトイレをめぐる現状と課題、そして今後の社会のあり方について考えてみたいと思います。

■ 性別問わないトイレとは?

性別問わないトイレとは、その名の通り、利用者の性別に関係なく誰でも使用できるトイレのことです。「オールジェンダートイレ」や「ジェンダーニュートラルトイレ」とも呼ばれ、性別で区切られた従来の「男性用」「女性用」トイレとは異なります。

このような形態のトイレは、性自認と身体的特徴が一致しないトランスジェンダーの人々や、そもそも男女どちらかに分類されることを望まないノンバイナリーの人たちからは、安心して使える環境として支持されています。

また、小さな子どもを育てる保護者が異性の子どもと一緒に入る場合や、介護が必要な家族と一緒に利用するケースなど、実は多くの人にとって便利で使いやすい面もあります。

■ 設置が進む一方、身構える声も

文部科学省は2023年度、全国の大学約800校に対し、性別に関係なく使えるトイレの整備について調査を実施し、結果を公表しました。それによれば、実際に「性別問わないトイレ」を設けている大学は約3割にとどまっていますが、今後の導入予定を含めれば、約5割にものぼることが明らかになりました。

しかし、設置が進む一方で懸念の声も上がっています。特に、「異性と鉢合わせになるのではないか」「防犯上、安全性が確保されているのか」といった不安や、「やはり従来の男女別が落ち着く」といった心理的な抵抗感が報告されています。

特に女性利用者からは、「一人で性別問わないトイレに入るのは心配」「パウダールームのように一息つける空間があるか不安」といった声もあり、「誰もが快適に使える」ための配慮が求められていると言えるでしょう。

■ なぜ今、性別問わないトイレが求められているのか?

ここ数年で社会が急速に多様化し、LGBTQ+の権利をめぐる議論が数多く交わされるようになりました。その中でも特に注目されているのが、「性自認に基づいて生活できる環境をどう整えるか」という点です。

トイレという非常にプライベートで日常的な空間において、自分の性別が受け入れられない、嫌な思いをしてしまうという現実は、見過ごすことのできない課題です。実際、トランスジェンダーの方の中には、学校や職場などでトイレを使うことそのものを避けてしまい、体調に支障をきたす人も少なくありません。

また、「第三のトイレ」とも言われる性別問わないトイレの導入は、同時に誰もが安心して使える「ユニバーサルな空間」を象徴するものでもあります。性別や年齢、身体的な制限の有無にとらわれない設計は、社会全体の包摂の象徴とも言えるでしょう。

■ 海外ではどうなのか?

海外を見てみると、アメリカやカナダ、欧州諸国を中心に、公的施設や学校などで性別問わないトイレの導入が広がりを見せています。例えば、アメリカの一部の州では、公立学校における「オールジェンダートイレ」の設置を義務付ける法律が制定されているケースもあります。

また、企業や商業施設でも、ユニバーサルデザインの一環として性別を問わない個室トイレを設ける企業が増えており、多くの人々がそれを自然に受け入れつつあります。

ただし、海外においても「一部の人を優遇しているのではないか」「女性の安全が脅かされるのでは」などの議論があるのも事実で、こうした新しい仕組みが示す課題は万国共通であることが分かります。

■ 柔軟な選択肢と工夫が鍵

性別問わないトイレの導入にあたっては、「誰もが安心して利用できる」ことが何より大切です。一律に性別問わないトイレだけを設けるのではなく、男女別トイレや多機能トイレと併存させる形で、利用者が自由に選べるような仕組みが求められています。

また、トイレの入り口に明確な案内表示をし、利用者が自分の意思で選べる環境整備も重要です。併せて、照明や監視カメラなどの「防犯面の工夫」、個室間の壁の高さを十分に確保した「プライバシー設計」、「換気」「衛生対策」といった基本的なトイレの質の確保も不可欠です。

加えて、学校や企業などの現場では、教職員や社員へのガイドラインや研修などを通じて、多様な価値観を理解し合える文化を醸成していくことが、トイレ空間の心理的なハードルを下げる鍵になってきます。

■ 共に、生きやすさを考える社会へ

性別問わないトイレをめぐる議論の根底には、「すべての人が尊重され、安心して過ごせる社会にしていこう」という願いがあります。そこには、トランスジェンダーの人だけでなく、日常や人生の中で「トイレに困った経験」を持つすべての人の声が含まれています。

私たち一人一人が、自分だけの価値観や当たり前にとらわれず、多様な立場から物事を見つめる視点を持つことが、よりよい未来への第一歩になります。

もちろん、急激な変化に不安を覚える気持ちもまた、人として自然なことです。そのような気持ちを否定するのではなく、共に話し合い、最良のバランスを見つけていける社会こそが、真の「共生」を目指す社会ではないでしょうか。

性別問わないトイレは、単なるインフラの問題ではなく、多様性と包摂が試される、社会の縮図でもあります。今後、日本がこの課題とどう向き合い、どのように前向きな解決策を見出していくのか、注目していきたいところです。