2024年の参議院議員選挙に向けて、各政党の公約が次第に明らかになってきています。その中でも注目を集めているのが、「賃上げ」に関する施策です。長年にわたる物価上昇と経済の停滞によって、国民の生活は一層苦しくなっています。こうした状況下で、与野党を問わず「賃金引き上げ」が重要な選挙戦の争点となり、各党がその実現に向けた具体策を公約に掲げています。
本記事では、参院選における「賃上げ」公約の背景と各党の主張内容、さらには政策としての実効性や国民生活への影響について、分かりやすく解説していきます。
■ 「物価高騰」から「持続的な賃上げ」へ
近年、エネルギー価格の高騰や円安、さらには国際的な供給網(サプライチェーン)の混乱などの要因によって、日本でも物価が緩やかに、しかし確実に上昇しています。一方で、賃金の上昇はそれに追いついておらず、実質賃金の低下が続いているという指摘もあります。このような背景から、物価高騰に耐えうる「安定した収入基盤の確立」が国民的な関心事となっています。なかでも、実質的な賃上げをどのように実現するかが、各政党にとって最大の課題となっています。
政府の総合経済対策や日銀の金融政策に対しては評価が分かれる中、政治的な解決策への期待が高まっており、参院選では「賃上げ」が争点として中心的なテーマとなることは確実です。
■ 各党の「賃上げ」へのアプローチ
【与党のスタンス】
与党の自民党は、これまで「成長と分配の好循環」の実現を目標に掲げてきました。特に岸田政権になってからは「新しい資本主義」を前面に打ち出し、企業収益の向上を踏まえて、その果実を労働者へ還元する仕組みづくりを模索しています。今回の選挙公約でも、企業に対して賃上げを促す税制優遇や、「賃上げ促進税制」の強化が盛り込まれる方向です。
また、中小企業への支援を強化し、賃上げ原資を確保できるようにすることや、人手不足解消のための労働環境整備—たとえば、働き方改革の推進や育児・介護の両立支援—なども合わせて強調されています。
【野党の主張】
一方、立憲民主党や日本維新の会、共産党など野党もそれぞれ異なる視点から賃上げ実現への政策を公約に掲げています。
立憲民主党は、最低賃金を全国一律で1,500円に引き上げることを大きな柱としています。また、公的部門で働く職員(保育士や介護士など)の待遇改善を訴え、国が率先して賃上げを実施する姿勢を明言しています。これは、すでに始まっている政府の処遇改善策をさらに進め、公的支出を積極的に活用して内需拡大を目指すものです。
日本維新の会は、行政改革とあわせて「家計負担の軽減」と「分厚い中間層の形成」を掲げており、社会保障制度の見直しと企業の組織スリム化による生産性向上と所得向上の実現を目指しています。つまり、「賃上げ」単体ではなく、経済構造そのものの再設計を通じて給与水準の底上げを図る方針です。
共産党も、最低賃金引き上げや非正規労働者の正社員化を政策の中核に据え、労働者の待遇改善を前提とした経済政策を展開しています。
■ なぜ「賃上げ」がここまで注目されるのか?
「賃上げ」がこれほどまでに注目されるのは、それが庶民の生活と直結するからです。物価が上がっても賃金が上がらなければ、その分家計の実質的な負担は増してしまいます。特に低所得層や子育て世代、高齢者などは、日々の生活が逼迫する傾向が強く、賃上げ政策が生活を改善する唯一の「希望」として受け止められている面があります。
また、日本経済の長期的な低成長や、所得格差の拡大、若年層の将来不安なども、根底には「安定した収入を得られない」という問題があります。この問題を解決するために、単なる一時的支援策ではなく、構造的な賃金改善が求められているのです。
■ 賃上げは実現可能か? — 実効性に課題も
ただし、賃上げを公約に掲げることと、それを現実の経済に反映させることとはまったく別の話です。企業にとっては原材料や人件費の高騰によって経営が圧迫される中、賃上げには慎重な姿勢をとらざるを得ないという実情があります。特に、中小企業は利益率が限られており、政府の支援がなければ賃上げを継続的に行うことは困難です。
また、最低賃金の大幅な引き上げも、一歩間違えれば雇用の減少や価格転嫁による物価上昇につながるとの懸念もあります。そのため、財源確保や企業支援の具体策とセットでない限り、有権者の納得は得られにくいといえるでしょう。
さらに、少子高齢化や労働人口の減少が進む中で、日本が持続的に賃金を引き上げていくためには、単に数値目標を掲げるのではなく、教育・人材育成、生産性向上、外国人労働者との共生といった多角的な施策を組み合わせる必要があります。
■ 私たちにできることは?
選挙は、国民が自らの生活をどのようにしたいのか、どのような社会のあり方を望むのかを示す大切な機会です。今回の参院選では、「賃上げ」という一見シンプルながらも非常に多方面に関わるテーマについて、各政党の主張を丁寧に読み解き、自分の意思を票に込めることが求められます。
「どうせ変わらない」とあきらめるのは簡単ですが、ひとりひとりの行動は、少しずつでも社会に意味ある変化をもたらす力となります。
物価高と生活不安の時代だからこそ、「何を変えるか」ではなく「どう変えるか」に注目し、持てる一票に託していきましょう。
■ まとめ
2024年の参議院選挙は、これまで以上に「生活に密着した政策」が問われる選挙となります。各党が掲げる「賃上げ」の公約は、単なる選挙戦略の一環ではなく、私たちの社会の在り方、将来の働き方や暮らし方に直結する問題を象徴しています。
物価上昇に負けない安定した収入の実現に向けて、実効性ある政策が期待される中、有権者一人ひとりの賢明な選択が、これからの日本経済と私たちの暮らしを左右していくこととなるでしょう。