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「ザポリージャ原発一時外部電源喪失――戦争と隣り合わせの原子力リスクを再考する」

2024年4月11日、国際社会に衝撃を与えるニュースが報じられました。ロシアが占領中のウクライナ・ザポリージャ原子力発電所において、一時的に外部電源が途絶し、約3時間半にわたり緊急電源によって運転を維持するという重大な事態が発生しました。これはウクライナのエネルゴアトム(Energoatom)社が発表したもので、同国および国際的な原子力安全に対する懸念が改めて浮き彫りになった出来事です。

今回は、なぜこのような事態が発生し、どのような影響を及ぼしたのか、そして私たちがこの出来事から学べることについて、分かりやすく解説していきます。

■ ザポリージャ原発とは?

まず最初に、この問題の舞台となったザポリージャ原発について簡単に説明します。

ザポリージャ原子力発電所はウクライナ南東部に位置し、6基の原子炉を持つヨーロッパ最大規模の原子力発電施設です。ウクライナの電力供給の約20%を担っていたこの原発は、2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻によりロシア軍に制圧され、それ以降国家運営から事実上切り離される形でロシア側の管理下に置かれています。

この原発は、軍事的な衝突が絶えない中で稼働しており、その安全性に対して以前から国際原子力機関(IAEA)などが強い懸念を表明していました。

■ 今回の電源喪失の経緯

2024年4月11日、ザポリージャ原発は、一時的にではありますが外部からの電力供給が遮断されるという深刻な事態に見舞われました。この時、外部電源が完全に喪失され、発電所は緊急非常用のディーゼル発電機によって電力をまかなっていたと報告されています。

原子力発電所では、電力は単に発電のために必要なだけではなく、安全装置を動かし、使用済み核燃料の冷却を継続するためにも絶対的に確保されなければならない重要インフラです。特に原子炉の冷却が停止すると、過熱による大事故に繋がるリスクがあるため、電力の継続供給は何よりも優先されるべき要件です。

緊急電源によって事なきを得ましたが、これが長時間続くような事態にでもなれば、2011年の福島第一原発事故と似たような深刻な事故に発展する可能性もあったと言われています。

■ なぜ電源喪失が起きたのか?

今回の電源喪失の原因について、ウクライナの国営原子力企業エネルゴアトムによると、外部の送電線が損傷を受けたことが原因とされています。具体的には、占領地域にある送電インフラがロシア側の管理下に置かれており、保守や点検、修理に支障が出ていることが背景にあると考えられています。

また、戦争という特殊で不安定な状況下では、故意または偶発的な損傷のリスクが常に存在しています。送電設備の脆弱性は、戦域にある原発にとって最大のリスク要因のひとつであり、今回のような電源喪失が頻発すれば、原発が制御不能になる可能性も否定できません。

■ 国際社会はどう反応したのか?

この電源喪失の報告を受け、国際原子力機関(IAEA)のラファエル・グロッシ事務局長は、原発の安全性に対する「極めて憂慮すべき出来事」であると声明を出しました。IAEAはこれまで何度もザポリージャ原発に専門家を派遣し、安全監視を続けてきましたが、こうした事件が発生するたびに現地の不安定さが浮き彫りになります。

また、西側諸国を中心とする複数の国々が懸念を表明し、ロシアに対しザポリージャ原発の安全確保と即時の民間主導管理への移行を求める声も再び高まっています。

■ 日本から見る原子力と戦争のリスク

日本にとっても、この出来事は決して「遠くの国の出来事」とは言えません。日本はかつて原子力発電所の事故を経験した国であり、原発の安全性をめぐる議論は今なお続いています。加えて、地震大国であるという地理的特性から、常に安全策の見直しと万全の備えが求められています。

今回のウクライナのケースでは「戦争」という特殊かつ極限状態にある中で起きたことですが、自然災害や人的エラーなど、他のリスクも含めて、原子力施設というものがいかに高い安全要求を持つ施設であるかが改めて示されました。

■ 原発の占領は何を意味するか?

原子力発電所は本来、国家の主権と民間の技術力に基づき運営されるべきインフラです。それが戦争の中で占領されるということは、単なる電力供給の問題以上の意味を持ちます。

第一に、原発が軍事的な目的でコントロールされることで、その設備が人質のような状態になり得ます。敵国への圧力手段として機能する場合もあり、これが国際的な安全保障の面で重大な問題を引き起こします。

第二に、占領下での原発は保守・管理体制の確保が困難になり、事故のリスクが平時よりはるかに高くなります。職員の交代、定期点検、安全評価が通常通りに行えなくなるため、原子炉が老朽化しても対応が遅れ事故を誘発する可能性も否定できません。

■ 今後に向けて求められること

今回の電源喪失は一時的なもので解決されたものの、それ自体が「重大な警告」であるといえるでしょう。私たちがこの出来事から学ぶべきことは、原子力の安全性は、絶え間ない平和と安定、安全管理体制に依存しているという現実です。

国際社会は今後もIAEAを通じて、現地の原子力施設の監視を継続し、紛争地における原発の非軍事化と安全管理を求めていく必要があります。そして、日本を含めた各国も、原子力を利用する以上、非常時における対応能力を高め、万が一の事態に備えた継続的な安全対策の強化が求められています。

■ 最後に

今回のザポリージャ原発における一時的な電源喪失は、わずか3時間半という短時間とはいえ、原子力施設における電源の喪失がもたらし得るリスクの大きさを再認識させるものでした。

私たちがエネルギーを日々使っていることの裏には、目には見えない危機管理体制と、多くの人々の努力があります。それだけに、戦争や自然災害など、私たちの想定外の事態に対しても、どのように備えるかということは、国を問わず誰にとっても重要な課題と言えるでしょう。

平和な社会と共に、安全なエネルギー供給体制を築き上げていくことが、これからの私たちに最も求められる使命なのかもしれません。