近年、多くの企業が消費低迷の影響を受け、苦境に立たされているなかで、衣料品チェーン「しまむら」が好調を維持していることが注目を集めています。特に新型コロナウイルスの感染拡大を経て、消費者の購買行動が大きく変化し、価格に対する意識が一層高まる中、しまむらのようなディスカウント業態の企業が支持を集める構造となっています。本記事では、消費が冷え込む現状の中にあって、しまむらがなぜ今もなお堅調な業績を維持できているのか、その背景や戦略について紐解いていきます。
消費低迷と家計への影響
新型コロナの影響、物価高騰、円安など、内外の様々な要因によって日本の経済は停滞し、特に個人消費は長期的な低迷に直面しています。総務省の家計調査によると、一般家庭の消費支出は前年と比べて減少傾向が続いており、特に衣料関連は「必要最低限にとどめている」という声も多く聞こえるようになっています。また、エネルギーコストの上昇や生活必需品の価格上昇などにより、消費者は支出の優先順位を見直さざるを得ない状況となっています。
その一方で、「必要なものをより安く、賢く買う」という意識が一層強まり、消費者はコストパフォーマンスを慎重に判断して商品を選ぶようになりました。このような消費マインドの変化は、全体的には小売業界を縮小させる方向に作用しましたが、低価格帯で高機能な商品を提供する企業にとってはチャンスでもありました。
好調を維持するしまむらの戦略とは
しまむらは、「ファッションセンターしまむら」ブランドを中心に、全国で1,400店舗以上を展開しており、都市部だけでなく地域密着型として郊外のニーズも捉えています。しまむらの最大の強みは、商品の価格設定にあります。トレンドをカバーしつつも1,000円〜3,000円程度の手に取りやすい価格帯を実現しており、家計にやさしい買い物ができることが消費者から高い支持を得ている要因です。
さらに、しまむらは「トレンド性」「機能性」そして「低価格」のバランスを保ちながら商品を提供することに長けています。トレンドファッションを身近にしつつ、肌触りや伸縮性、通気性といった機能性を持たせたアイテムを数多く展開し、ファッション感度が高い層だけでなく、子育て世代や高齢者層など幅広い世代のニーズをカバーしています。
プライベートブランドやSNS活用の巧みさも業績を後押し
しまむらはプライベートブランド(PB)の展開に非常に積極的で、自社で商品企画から流通までの一貫した体制を整えることで、コストダウンと品質管理を同時に実現しています。その代表的な例が「CLOSSHI(クロッシー)」や「HK WORKS LONDON」などのブランドです。こうしたPBは、他社との差別化を図る上でも大きな武器となっており、根強いファンを生み出しています。
さらに、SNSの活用にも注力しています。しまむらの商品は、InstagramやTwitterなどのSNSで情報が広まりやすく、インフルエンサーや主婦層による「しまパト」(しまむらパトロール)といった投稿を通じて、自社商品が日々話題となっています。このような口コミ効果やバズの力は広告費の削減にもつながっており、低コスト運営を支える一助となっています。
ECサイトやアプリ展開による利便性の向上
近年ではEC市場の拡大に伴い、しまむらもネット通販に注力しています。以前まで実店舗中心の販売体制だったしまむらですが、2020年以降、公式オンラインストアの整備が進み、スマートフォンアプリを通じて商品購入や在庫確認、コーディネート提案などができるようになりました。
好調の背景には、こうしたIT投資による利便性の向上もあります。従来は「店舗でしか買えない」という印象があったしまむらですが、ネットとリアルの垣根を徐々に取り払うことで、より多くの層にリーチできるようになりました。
また、リアル店舗での「取り置き受け取りサービス」や、店舗在庫を活用した配送体制など、ECと実店舗のハイブリッド型運営を展開しており、これが新たな購買客の獲得にもつながっています。
地域密着と顧客目線の店舗運営
しまむらは展開エリアの多くが郊外に位置し、生活圏に密着した立地が特徴です。大型ショッピングモールや駅前のファッションビルとは異なり、生活圏内で「ついでに寄れる」「気軽に立ち寄れる」といった利便性の高さが、消費の落ち込みがある中でも継続的に集客できる理由の一つです。
また、各店舗にはそれぞれの地域性に合った品揃えを重視する傾向があり、中央集権的な商品展開ではなく、店舗ごとの自由度をある程度認めているため、地域ニーズへの対応力が高まっています。たとえば、季節ごとの売れ筋や地域ごとに異なる売れ筋の傾向を反映した仕入れや陳列が行われており、消費者の“今欲しい”に応えることでリピーターを獲得する姿勢が見られます。
競争激化の中における生き残り戦略
価格訴求力を武器にしただけでなく、しまむらは業績改善に向けた組織改革や効率運営も進めています。特に注目すべきは、在庫の最適化への取り組みです。売れ残りリスクを減らすため、小ロットによる多品種展開を採用しており、短期間で次々と新商品を投入するサイクルも確立しています。これにより、常に新しい発見がある店舗づくりを実現し、消費者の「また来たい」という気持ちを刺激しています。
また、従業員の働きやすさにも配慮した制度整備も業績の安定に寄与しており、近年ではデジタル技術を活用した業務の効率化も進めています。これにより、人手不足の課題に対しても対応しつつ、利益率の向上を図る体制構築が進められています。
まとめ:しまむらが持つ独自の“強み”とは
消費低迷が長引く現在、価格に敏感な消費者のニーズに徹底的に寄り添い、商品開発から販売体制、顧客とのコミュニケーション施策に至るまで、あらゆる面でユーザー目線を重視したしまむらの取り組みは、多くの企業にとっても参考になるものと言えるでしょう。
「安さ」「品質」「利便性」の3つをバランスよく提供しながら、地域に根差した運営と柔軟な戦略で堅実な成長を遂げているしまむら。今後の持続的成長を支えるためには変化する環境への対応力がより求められることでしょうが、既存の強みをさらに磨き、安全・安心・高評価なブランドとして、引き続き広い世代に愛される存在であり続けることが期待されます。