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「災害時の命を支える“薬の司令塔”不足—全国18府県で未配置の薬事コーディネーター、その現状と課題」

近年、日本各地で自然災害が頻発しています。地震、豪雨、台風といった自然災害は、私たちの生活に甚大な影響を及ぼすだけでなく、特に医療体制にも大きな試練を与えています。その中でも、医薬品の適切な供給と調整を担う「薬剤師」の役割は極めて重要です。特に、災害発生時に被災地で薬の調整を担う「災害薬事コーディネーター」の存在が注目を集めています。

しかし、2024年6月3日に報道された記事によれば、この「災害薬事コーディネーター」が全国の18府県でいまだに配置されていないという現状が明らかになりました。緊急時に人々の命をつなぐ役割を果たすはずの薬事コーディネーターの不在は、災害時の医療体制に深刻なリスクをもたらしかねません。本記事では、この現状に注目し、災害薬事コーディネーターの役割、導入が進まない背景、そして今後の課題についてわかりやすくご紹介します。

災害時の「薬の司令塔」—薬事コーディネーターの役割とは?

「災害薬事コーディネーター」とは、災害が発生した際に医薬品の供給や適正使用を管理・統括する役割を担う薬剤師のことです。被災地では、医療機関の機能が低下したり、薬の流通が滞ったりといった問題が発生します。そんな中、患者ごとに必要な薬を判断し、調剤支援や医薬品の調整、避難所での服薬管理支援といった、多岐にわたる業務を担うのがこの薬事コーディネーターです。

災害によって避難所生活を余儀なくされた方々の中には、高血圧、糖尿病、心臓病などの持病を抱える高齢者も多く含まれます。こうした人々にとって、服薬管理は命に直結すると言っても過言ではありません。しかし、通常時とは異なる混乱した環境の中で、正確に薬を使い続けることは非常に困難です。そこで、薬剤師が現場で主導的役割を果たし、医薬品の確保や調整、服薬サポートを行うことは、安全な避難生活につながります。

全国でも未配置の府県が多数

この重要な役割を担う薬事コーディネーターですが、厚生労働省の調査によれば、2023年度までにこの制度を導入し、事前にコーディネーターを指定している都道府県は29にとどまり、18府県ではいまだに配置ゼロという実態が浮き彫りになっています。

特定の地域に限らず、こうした未配置地域は全国各地に点在しており、何らかの大災害が発生した際には十分な薬事支援が行われない可能性があります。特に、南海トラフ地震の発生が予測される太平洋岸の府県においても、準備が進んでいない現状は大きな懸念材料です。

なぜ普及が進まないのか?

では、なぜこのように薬事コーディネーターの配置が全国で進んでいないのでしょうか。理由として挙げられるのは、まず制度や役割に対する理解の浸透不足です。薬剤師といえば主に病院や薬局での調剤業務と思われがちですが、災害時にどのような活躍が期待されるかについては、医療関係者の間でも十分に認識されていない場合があります。

また、薬事コーディネーターの育成や配置には、自治体ごとのスムーズな連携と教育体制の整備が不可欠です。都道府県ごとに災害対策の進捗にはばらつきがあり、地域によっては予算や人材が追いついていないケースも少なくありません。さらに、他職種との連携体制づくりや訓練の実施など、実際の災害発生時に即応できる体制を整備しておくためには相応の労力が必要です。

命を守るためのインフラ整備を

災害薬事コーディネーターの導入は、単なる薬剤師の配置にとどまらず、自治体全体の防災医療体制の一環として考えることが重要です。災害時に医薬品が不足したり、誤って使われたりすることは、避難者の健康を深刻に脅かします。こうした事態を未然に防ぐためには、専門知識を持つ薬剤師が適切に現場を指揮し、行政や他の医療職種と連携して医療物資を管理・調整していく必要があります。

また、高齢社会が進む現在、避難所での医療ニーズはますます複雑化しています。常用薬を服用している高齢者が突然薬を中断すれば、病状が急変するリスクがあり、災害による二次的被害を拡大させかねません。こうした医療の切れ目を防ぐためにも、事前に医薬品のリストを整備し、薬事コーディネーターが中心となって対応できる仕組みづくりを進めることが急務です。

全国的な取り組みと地域の連携が鍵

このような課題を解消するためには、まず厚生労働省をはじめとする中央行政機関が率先して制度化を進めるとともに、全国どの地域でも薬事コーディネーターが機能できる標準化された教育体制やマニュアルを整備することが求められます。

加えて、地域医師会や薬剤師会、自治体の防災部門、消防、保健所といった様々な機関との連携強化も重要です。災害という非常事態においては、それぞれの役割を明確にし、連携・協力体制を築いておくことが迅速な対応を可能にします。

まとめ:一人ひとりの命を守るために

災害大国である日本において、災害薬事コーディネーターの役割は今後ますます重要性を増していくことでしょう。現時点ではまだ全国的に配置が進んでいない現状に課題が多く残されていますが、この制度が全国隅々まで行き渡ることで、有事の際にも誰もが安心して必要な医療を受けられる社会が構築されることを願っています。

災害に強い地域づくりは、一朝一夕には実現しません。しかし、今からできる準備と啓発によって、未来の災害への備えを確実なものにしていくことが大切です。私たち一人ひとりも、防災意識を高め、地域のこうした取り組みに関心を持っていくことが、命を守る第一歩となるのです。