2022年に施行された「AV出演被害防止・救済法」、いわゆるAV新法の成立から3年が経過しました。この法律は、アダルトビデオへの出演をめぐるトラブルや被害を防ぐことを目的に、多くの議論と注目の中で制定されたものです。当初は出演者の権利保護と業界の健全化を目的とし、高い期待とともに導入されましたが、実際に運用が始まってからは、さまざまな現場の声や課題も明らかになってきています。
今回は、このAV新法の背景と内容、そして施行から3年が経った現在の状況をふまえ、どのようなトラブルが未だ解決されていないのか、また、今後どのような改善が求められているのかについて考えてみたいと思います。
AV新法の背景と目的
AV新法が制定されるに至った背景には、過去に起きたアダルトビデオ出演に関する強要事件や、本人の意図とは異なる出演契約など、さまざまな被害事例がありました。特に、SNSの発達により情報が拡散しやすくなったこともあり、こうした被害の実態が社会的に大きな問題として認識されるようになったのです。
この法律の主な目的は、出演者が自分の意思に基づいてAV出演に合意すること、さらに契約後にも一定期間内であれば出演を取りやめることができるようにするなど、出演者保護のための制度を整備することでした。また、制作会社や販売業者に対しても法律遵守が求められ、業界全体の透明性と信頼性の向上にもつながることが期待されていました。
実際の施行内容と影響
法律の施行により、AV出演者と制作会社との契約には「契約書の取り交わし」「撮影前4日間のクーリングオフ期間」「出演映像の販売・配信の前に4か月間の同意確認期間」が義務付けられました。これにより、出演者が冷静に判断し、本当に自分の意思で出演する機会が確保されるようになりました。
また、未成年者の出演を確実に防ぐための年齢確認の義務化や、契約時の説明責任、専門相談窓口の設置など、具体的な保護措置も強化されました。これらの取り組みは画期的なものであり、多くの関係者にとって安心材料となったことは事実です。
一方で、法律の導入により、業界の現場には新たな混乱も生まれました。撮影スケジュールの調整や契約手続きの煩雑化により、制作側の負担が増加したほか、フリーランスの出演者にとっても制度の理解が進まないままトラブルに巻き込まれるケースも報告されています。
3年が経過した現在の課題
AV新法の施行から3年が経過した現在、思わぬところで制度の穴や運用上の課題が明らかになっています。たとえば、法律自体は出演者の権利保護を目的としていますが、逆に悪用されるケースもあるといわれています。出演後に取り消しを主張することで、法律の回避や無効化を盾に金銭的なトラブルが発生するなど、一部では「新たなリスク」となる可能性も懸念されています。
また、制度が複雑なために契約書類の形式ばかりが重視され、本来重要であるはずの意思確認が形式的なプロセスになりがちだという指摘もあります。このように、制度が正しく機能するためには、関係者全体の理解と適切な実施が不可欠です。
さらに、AV業界全体の構造的な課題にも目を向ける必要があります。業界にはフリーランスで活動する人が多く、契約や収益、権利の取り扱いに一貫性がないことが多いです。そのため、新法ができたからといってすぐにすべてのトラブルが解消されるわけではなく、根本的な業界改革が引き続き必要であることが浮き彫りになっています。
被害者支援と教育の重要性
AV新法の施行により、出演者にとって自分の権利を知り、守るための制度整備が進んだことは大きな前進です。しかし、法律だけではすべての問題は解決できません。出演者が判断を誤らないよう、適切な情報提供や相談体制の整備が必要です。
各種NPOや専門機関による無料相談や被害者支援は、今後ますますその重要性を増すでしょう。また、教育の側面も見逃せません。特に若年層に対して、インターネットやSNS上での情報発信や自己表現が安易に浮上するリスクについて、学校教育などでも適切な啓発が求められています。
今後の課題と社会のあり方
AV新法は、出演者の権利を守るという趣旨からも、必要不可欠な制度であることは明らかです。しかし、それだけにとどまらず、法律が本来の目的を果たすためには、各関係者の意識と理解、運用の徹底が求められます。
また、社会全体として「性的表現」や「表現の自由」といったテーマと向き合いながら、健全で安全なコンテンツ制作と消費のあり方について考え続ける必要があります。一部の問題だけを取り上げて過度に規制するのではなく、多様な立場に配慮し、バランスの取れた制度設計を行うことが大切です。
まとめに代えて:制度と現実のギャップを埋めるには
AV新法が目指す「出演者の自主性と安全の確保」という理念は、間違いなく支持されるべきものです。その一方で、制度の運用現場ではまだまだ多くの課題が山積しています。重要なのは、法律を「施行したから終わり」とするのではなく、現場の声を丁寧にすくい上げ、制度のアップデートを継続していくことです。
私たち一人ひとりが安全な社会の実現に関心をもち、必要な知識を身につけることで、誰の人権も踏みにじられない社会が形成されていくのだと思います。AV新法を通じたこの3年間の歩みは、その第一歩にすぎません。今後もよりよい制度と社会のあり方を模索し続けていく必要があります。