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徒弟制が生んだ“こってり”成長神話──天下一品の現在地と揺らぐフランチャイズモデル

ラーメンチェーン「天下一品」の成長とその背景にあるフランチャイズモデルの問題点

日本はラーメン文化が非常に豊かな国として知られています。全国津々浦々、多種多様なラーメンが存在し、それを支える無数のラーメン店が日々しのぎを削っています。その中でも「こってりラーメン」で独自の地位を築いてきたのが「天下一品」です。濃厚でドロッとしたスープ、独特の風味は一部のファンにとって絶対的な存在であり、一度ハマると抜け出せないという魅力を持っています。そんな「天下一品」に現在、ビジネスモデルとしての大きな転換点が訪れています。「徒弟制型フランチャイズ」という独自の方式を貫いてきた天下一品ですが、その限界が指摘され始めているのです。

この記事では、天下一品の成長の歴史、そのビジネスモデルの特徴、そして今抱えている課題と今後の展望について解説します。

■天下一品の独自路線:こってりラーメンと徒弟制

1971年、京都・北白川に「中華そば専門店」として始まった天下一品。創業者・木村勉氏が独自に開発した濃厚スープは、当時のラーメン業界にはなかった革命的な存在でした。その味わいは瞬く間に地元で評判となり、やがて全国展開のフランチャイズ方式によって成長していきます。

通常、日本でよく見られるラーメンチェーンや飲食店の多くは、直営店によるノウハウ共有や法人格を持つフランチャイジーによる出店が主流ですが、天下一品は「徒弟制」に近い形態でのフランチャイズ展開を採用してきました。

この「徒弟制型FC(フランチャイズ)モデル」とは、従業員が直営店で数年間の修行を積み、ラーメン作りの技術や店舗運営を現場で学び、その後、本人がフランチャイズのオーナーとして独立出店するという形です。いわば「職人制度」に似た形式で、単なるマニュアル通りの運営ではなく、味やサービスに対して強いこだわりを持つ店舗展開が可能とされてきました。

■職人気質と地道な成長の代償

職人気質で細部にこだわる天下一品のラーメンは、こうした徒弟制度型フランチャイズによって支えられてきました。しかし、このモデルは時間と人材を要するため、急激なスピードでの店舗拡大が難しく、人手不足が深刻化する現代においてはその限界が顕著になりつつあります。

徒弟制ではある程度長期の修行期間が求められるため、簡単に出店計画が進むわけではありません。また、人材確保そのものが困難になっている昨今、「将来的にフランチャイズオーナーとして独立したい」という志を持つ人材を確保するハードルも上がっています。

全国には約230店舗(2023年時点)あるとされる天下一品ですが、その維持や新規出店には相応の労力が必要であり、近年では新規出店が伸び悩んでいるとの指摘も出ています。

■直営店との落差、マニュアル化の課題

徒弟制を経て独立したオーナーたちは「自分の店」という強い意識と責任感をもって運営していますが、その分、実際の運営にも個性が大きく出やすく、店舗ごとの味やサービスのばらつきが課題として顕在化しています。

完全に同じレシピや指導を受けても、最終的に厨房に立つ人によって味の微細な違いが生まれます。また、接客などのサービス面でも店舗ごとの方針に差が出てしまい、「あの店の天下一品はうまいけど、こっちはイマイチ」という声が出ることも少なくありません。

結果として、本部と現場店舗との距離感や意識のズレが顧客満足度の一貫性に影響を与えることは否めません。このような課題は、味や接客の標準化が重要とされるチェーン展開においては大きな痛手になりうるのです。

■社会構造の変化と対応の重要性

外食産業全体が慢性的な人手不足に苦しむ中、徒弟制にこだわることで人材調達のハードルがより高くなることは避けられません。また、若年層の働き方に対する価値観も大きく変わってきています。終身雇用や一つの場所で修業して独立するというスタイルが必ずしも支持される時代ではなくなっており、より柔軟で効率的な人材育成と店舗展開のモデルを模索する必要が出ています。

天下一品にとっては、伝統的な価値観と現代のニーズの間でバランスをとることが新たな挑戦となっています。既存の「育てて離す」方式だけでなく、例えば短期育成プログラムや他業種からの参入者への門戸開放、柔軟なフランチャイズ条件の提示など、時代に合わせたアプローチも必要不可欠といえるでしょう。

■進むべき次の一手とは

これまで天下一品が「味のブレが少なく」質の高い店舗を維持できていたのは、まさにこの徒弟制型FCモデルによるものです。しかし、時代は常に変化し、飲食業界を取り巻く外部環境も大きく動いています。

本部が今後、より多くの店舗展開やブランドの持続的な成長を目指すのであれば、従来の強みである「質」を損なうことなく、より柔軟で開放的な人材戦略とフランチャイズ制度の見直しが必要になるでしょう。

一方で、それは同時に「天下一品らしさ」や「一杯のこってりラーメンに込めた情熱」を損なわないようにするという難題にも直面することを意味します。天一ファンの多くは、その味だけでなく、「志」にも共感して店舗に足を運んでいます。変化の中で守るべき核が何であるかを見失わないことが大切です。

■おわりに

天下一品が築いてきたラーメン文化と、その背景にある人材育成・店舗運営の哲学は、まさに日本型ビジネスの一つの典型として見ることができます。その美点と限界が今、浮かび上がろうとしている中、私たち消費者もまた、変わりゆく飲食業の在り方についてもう一度考えるきっかけを得ているのかもしれません。

「こってり、だけど真面目」。そんなイメージを大切にしつつ、天下一品が次のステージへとどう進んでいくか、今後もその動向に注目していきたいと思います。