2024年5月、元横浜DeNAベイスターズの外野手・乙坂智選手が、わずか9試合で米マイナーリーグのチームから自由契約となったニュースが大きな話題を呼んでいます。2021年に日本プロ野球(NPB)からアメリカ独立リーグ、さらにはメキシコリーグ、オーストラリアリーグなど海外を渡り歩いてきた乙坂選手。その飽くなき挑戦の精神は、多くの野球ファンだけでなく、すべての挑戦者にとっても深い共感と刺激を与えるものではなかったでしょうか。今回は、彼のこれまでの挑戦の軌跡と、今回の「わずか9試合で自由契約」という現実が語るものについて、改めて考えてみたいと思います。
■ DeNAからの旅立ち:勇気ある決断
乙坂智選手は、2011年ドラフト5位で横浜DeNAベイスターズに入団し、2014年に一軍デビュー。その後は外野手として勝負強い打撃や堅実な守備で存在感を発揮し、ファンからの支持も高かった選手です。2020年にはキャリアハイのシーズンを送り、今後の活躍が大いに期待されていました。
しかし、2021年シーズン終了後、乙坂選手はFA(フリーエージェント)権を行使せず、球団からの契約延長の打診も受けながら自ら海外挑戦の道を選びました。日本では一定の地位と収入が約束されていた状況でのこの決断は、まさに未知への挑戦であり、野球人生をかけた賭けでもありました。
■ 海外を渡り歩いた3年間
乙坂選手が最初に移籍したのは、アメリカの独立リーグ。その後メキシコリーグ、さらに冬季にはオーストラリアリーグにも参加するなど、プレー機会と成長の場を求めてグローバルに活躍の場を広げていきました。これまで国内でのプレーに留まる選手が多いなか、このような行動を取る日本人選手は稀です。
とくにメキシコリーグでは、環境や生活面でも大きな違いがある中で、乙坂選手は現地の文化にも溶け込みながらシーズンを完走。実力だけでなく、人間としても成長を遂げた期間だったといえるでしょう。このように、彼のキャリアのなかで「結果」以上に注目すべきは、異文化に飛び込んででも野球と向き合いたいという強い情熱だったのかもしれません。
■ わずか9試合での契約解除に込められた現実
2024年シーズンからは、アメリカ3A(トリプルA)のサクラメント・リバーキャッツに所属。これは、MLB球団サンフランシスコ・ジャイアンツの傘下チームであり、ここで好成績を残せばメジャー昇格も見えてくる、という重要なシーズンになるはずでした。
ところが開幕からわずか9試合、打率1割台前半と極度の不振により、リバーキャッツから自由契約、すなわち契約解除となってしまいました。自由契約とは、日本で言う「戦力外通告」に近い形であり、プロ野球選手としての次の道を模索しなければなりません。
スポーツの世界は実力が全てという厳しい現実があります。いくら過去に輝かしい実績があろうと、「今」のパフォーマンスが評価されるのです。加えて、外国人枠や年齢、将来性といった複合的な要因がチームの判断に影響を与えるため、一概に成績だけで語れるものでもありませんが、それでも今回の結果は、挑戦者にとって重く受け止めなくてはならない事実です。
■ それでも、挑戦の意味は失われない
今回の契約解除によって、「失敗だった」「無駄だった」と一部では囁かれるかもしれません。しかし、決してそんなことはありません。挑戦とは、結果が伴わなかったとしても、それまでの過程で得られる成長、経験、そして心の充実にこそ価値があります。
乙坂選手は、日本にとどまれば安定したキャリアが続いていたかもしれません。しかし彼は、自らの可能性を広げるために、より高いレベルの野球に身を投じました。言葉も文化も異なる地で、自分の野球を評価してもらうために努力を続けてきた彼の姿勢は、まさにプロフェッショナルそのもの。
また、過去には日本球界を離れて再起した選手も少なくありません。一度自由契約となっても、再びチャンスを掴み取った選手の事例はいくつもあります。乙坂選手はまだ30歳。野球選手としては、まだまだこれからの年代です。
■ 応援の声、止まず
今回の報道を受けて、SNS上では「まだやれる」「日本でもう一度見たい」「ここで諦めないで」という声が数多く上がっています。多くのファンが乙坂選手の努力と情熱を見てきたからこそ、今回の報道に対する反応も温かいものが多く見られました。
乙坂選手のように、自らの道を切り拓く選手の姿勢は、確実に多くの人の胸を打ちました。それがある限り、ファンは彼の次の一歩を信じて応援しつづけるでしょう。
■ 最後に:挑戦するすべての人へ
乙坂智選手の今回のニュースは、プロアスリートのキャリアの厳しさと共に、挑戦という行為の尊さを私たちに問いかけています。挑戦には成功も失敗もつきもの。それでも一歩踏み出すことでしか、自分の可能性を広げることはできません。
今後、乙坂選手がどのような道を選ぶかはまだ分かりません。しかし、彼が再びグラウンドに立ち、バットを振る姿を見るその日まで、私たちは静かに、そして熱く応援し続けたいと思います。
乙坂智という野球人の次なる物語が、また新しい挑戦とともに始まることを祈って――。