「中国の推し活 ファンの過熱行動」:熱狂するファンダム文化の裏側にある光と影
中国ではここ数年、アイドルや俳優、そしてeスポーツ選手など、いわゆる「推し(推しメン=応援する存在)」への熱烈な応援活動「推し活」が社会現象となっています。日本でも「推し活」はおなじみの言葉になっていますが、中国のそれはさらに桁違いの規模と熱量を誇り、ときに加熱しすぎた行動が問題視されることもあります。
この記事では、近年の中国の推し活の実態を紹介しながら、その根底にある社会的背景や倫理的な課題、そして政府の規制動向までをわかりやすくお伝えします。大量の資金を投入して自らの「推し」を応援しようとする中国のファンたち。その行動はどこまでが応援で、どこからが行き過ぎた行為なのでしょうか。
爆発的な熱量と支出:推しの成功は自分の誇り
中国の若者、特にZ世代といわれる1995年以降に生まれた層の間で、「推し活」は日常の一部となっています。彼らにとって、推しの存在は単なる娯楽の対象ではなく、人生のモチベーションそのもの。推しの活躍が自分の誇りであり、推しの成功が自身の成長と重なる感覚を持っています。
そのため「応援のためならお金も手間も惜しまない」という精神で行動するファンは珍しくなく、アイドルの誕生日にあわせて列車や飛行機にラッピング広告を出したり、公共の広告ポスターを買い占めたりする動きも出ています。これらを実現するために、複数のファンが集まった「応援団(飯圈=ファンダム)」が結成され、クラウドファンディングを通じて億単位の資金を調達するケースすらあります。
実際に、K-POPアイドルグループの音楽チャート上位を目指す「応援活動」として、数百万円相当の商品を買い占めたり、架空アカウントでSNSのトレンド入りを狙ったりするなど、活動はますます組織化・システム化されてきました。
過熱行動が引き起こす問題:倫理の境界を超えて
推しを応援したいという思いが強すぎるあまり、一部のファンの行動が社会的に問題視されるケースも増えています。
例えば、有名アイドルの過去の映像を巡って他のファンとSNS上で過激な論争に発展したり、空港やホテルに押しかけて推しに接近しようとしたりするファンの存在が報じられています。さらには、他のファンとファンダム内で序列争いを繰り広げ、「あの人は寄付額が少ないから本気のファンではない」と非難し合う、いわばファン同士の“マウント合戦”が日常的に行われています。
また、アイドルを支援するために大量の商品を購入し、そのパッケージ(特典目当て)だけを取り出し中身を廃棄するといった「食品ロス」や「環境破壊」に繋がる非常に深刻なケースも確認されています。このような行きすぎた“応援消費”が環境や社会倫理に直接的なマイナス影響を与えていることに、多くの人々が懸念を示すようになってきました。
政府の介入と規制:健全なファンダム構築のために
過熱するファン文化に対して、中国政府も対応をとるようになっています。中でも、2021年に中国の国家広播電視総局(中国版の総務省)が実施した「清朗(クリーン)キャンペーン」は、特に大きな影響を与えました。
このキャンペーンでは、「非理性的なスター追っかけ行為の禁止」や未成年による過度な芸能活動参加の制限、ファンドを通じた過剰な金銭支援の取り締まりなど、ファンダム文化の“ブラックボックス”を整理する目的で大規模な規制が実施されました。著名なオーディション番組の中止や、特定の芸能人のSNSアカウントが一斉に削除されたことも大きな話題になりました。
さらに、2021年には「アイドルに牛乳を買わせ、キャップの中のQRコードを読み込ませる」仕組みを使った投票制度が、大量の牛乳廃棄とともに社会的非難を受け、当該番組の放送中止にまで発展。この出来事は、推し活のモラルを改めて問い直す転機となりました。
ファン文化の見直し:健全な応援とは何か
中国の「推し活」は、SNSという強力な拡散手段と若者の自由な消費力を背景に急速かつ大規模に拡大しています。推し活がきっかけで社会貢献につながるような活動(慈善活動や寄付など)が展開されることも事実です。そのため、完全に「良い」「悪い」という一面だけで判断することは難しい構造になっています。
だからこそ重要なのは、「どのように応援するか」というファン一人ひとりの意識です。応援することで自分や社会が幸せになる形は何か。誇りと責任をもって自分の推しを支えることができる方法は何か。過熱するファン文化の中でも、倫理と理性を失わず“共に成長する”視点が求められていると言えるでしょう。
まとめ:推し活の未来に向けて
中国の推し活文化は、中国社会の変化やインターネットの普及、若者の価値観の多様化など、さまざまな要因が複雑に絡み合いながら進化してきました。ファン一人ひとりの思いが、時に奇跡のような応援行動として実を結ぶ一方で、過熱しすぎるあまり他人や社会に負担をかけてしまうリスクもあるのです。
いまや世界中に広がる“推し”という文化。中国の事例を通じて、「自分はどう応援するか」「推し活が社会に何をもたらすか」を見つめ直すことは、日本を含む他国の若者たちにとっても非常に意義あるテーマとなることでしょう。
応援の力は、時に社会を変え、文化を動かす可能性を秘めています。それだけに、その力をよい方向に使うための倫理とバランスが、これからのファン文化を支える鍵となるのではないでしょうか。