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最高裁が示した「最低限の生活」の重み――生活保護費減額違法判決が私たちに問いかけるもの

2024年6月26日、生活保護行政に大きな影響を与える可能性のある注目の判決が、最高裁判所において言い渡されました。それは「生活保護費の減額は違法」という判断です。本記事では、この判決の背景とその意義、今後の生活保護制度への影響などについて、わかりやすく解説していきます。

■最高裁が「生活保護費の減額は違法」と判断

今回の判決は、2013年から2015年の間に行われた生活保護費の減額に関するものです。厚生労働省は、当時の経済動向や物価の変動を考慮し、生活保護の基準額を引き下げました。しかし、この減額措置に対して、全国の生活保護受給者らが「違法である」として国を訴える訴訟を各地で起こしていました。

そして、6月26日、最高裁は愛知県に住む原告の訴えについて、「厚生労働大臣の減額決定が生活保護法に基づく調査や検証を十分に行わずに行われたものであり、生活保護基準の決定手続きに違法性が認められる」として、減額は違法という判断を示しました。この判決は、全国各地で起こされている同様の訴訟にも影響を与えることが想定されます。

■生活保護費減額の背景

そもそも、なぜ生活保護費が減額されたのでしょうか。

平成24年(2012年)、政府は生活扶助基準(衣食などの日常生活に必要な費用)について見直しを始めました。背景には、総務省が公表する消費者物価指数が下落傾向にあったことなどがありました。これに基づいて、2013年から3年間にわたり段階的に生活扶助基準が引き下げられ、最大で約10%、平均でも6.5%ほどの減額が全国で行われました。

この見直しについて、当時の政府はあくまで「物価下落に対応した合理的な調整」であると説明していましたが、現場で生活する受給者にとっては大きな痛手となりました。なぜなら、生活保護受給者にとって、毎月もらえる保護費は生計を支える唯一の収入である場合がほとんどだからです。

■原告たちの主張と司法の判断

今回、判決の対象となった訴訟で原告となったのは、愛知県名古屋市に住む60代女性でした。彼女は生活保護費の減額により日常生活に支障が出たと訴え、国と市を相手取って訴訟を起こしました。

女性側の主張は、「厚労大臣が基準を見直す際に、十分な調査や検討を行っていなかった」という内容を中心に展開されました。この主張に対し、最高裁は、厚労大臣が生活実態の把握や専門的な分析を伴わずに決定した点を問題視し、「行政裁量の逸脱があった」と認定しました。

生活保護法では、受給者の生活水準を維持するため必要な保護を施行するために「最低限度の生活」を保障することが定められています。今回の判決は、その理念に立ち返り、制度の目的を再確認するものとなったとも言えるでしょう。

■判決の波紋と今後の課題

今回の最高裁判決は、単に一つの個別訴訟に対する決定以上の意味を持ちます。というのも、同様の訴訟は全国29の地裁で起こされており、全体で1,000人以上の受給者が原告となっています。この判決は今後、他の裁判においてもひとつの基準として参照されることが確実視されており、国や自治体の政策判断にも大きな影響を与えることが予想されます。

また、現政権や行政としても、今後の生活保護基準の見直しにおいて、より一層の慎重さが求められることになるでしょう。現場の声や実際の物価、生活実態などに対する綿密な調査と透明性の高い検証プロセスが不可欠であり、生活保護受給者の人権や生活を軽視しない制度運用が必要とされます。

■生活保護制度の意義を再確認する機会に

生活保護制度は、日本において最後のセーフティネットとして、困窮者が最低限度の生活を営むことを可能にする非常に重要な制度です。しかし、しばしば「不正受給」や「働かないことの正当化」といった誤ったイメージで語られ、社会的な偏見に直面することも珍しくありません。

実際には、病気や高齢、障害などにより働くことができなかったり、労働市場から排除されてしまったりして、切実な事情を抱える方々が多く受給しています。こうした方々に対し、社会がどのように関わり、どのように支えていくのかが、今後の課題でもあります。

今回の最高裁判決は、生活保護を受ける方々の人権や尊厳を守るために、制度がいかに機能すべきかを示した重要な一歩といえるでしょう。また、国民一人ひとりが社会保障や制度のあり方について見直し、考える機会ともなるのではないでしょうか。

■まとめ

2024年6月26日の最高裁判決により、2013年~2015年にかけて実施された生活保護費の減額措置が違法であると判断されました。この判決は、多くの生活保護受給者にとって大きな支えとなり、同時に制度の運営に関わる行政にも、より丁寧で慎重な対応を促すメッセージとなっています。

困っている人を助け合う社会づくりには、制度とそれを支える意識の両方が必要です。今回の判決が、より公平であたたかい社会保障システムの実現に向けた一歩となることを願います。今後も生活保護制度の改善と適正な運用が進むよう、私たち一人ひとりが注目し、議論を深めていくことが大切です。