天皇ご一家の愛犬「由莉」死す──19年の歳月とともに歩んだ温かな絆
2024年6月5日、宮内庁より一つの悲しい知らせが伝えられました。秋篠宮ご一家が長年大切に育ててこられた愛犬「由莉(ゆり)」が、5月31日に亡くなったとのことです。享年19歳、人間の年齢に換算すれば90歳を超える高齢でした。慎ましやかで平穏な天皇家の日常の中にあった由莉の存在は、家庭の温かさ、命の大切さ、そして家族との絆の深さを多くの人々に改めて伝える出来事となりました。
愛犬「由莉」との出会い
由莉は雑種の雌犬で、2005年、当時皇族の飼育ボランティアの一環として保護された犬の中から選ばれて秋篠宮邸に迎え入れられました。保護犬出身である由莉は、元々過酷な環境に置かれていた一匹の命でした。しかし、天皇ご一家はその命を慈しみ、家族の一員としてともに過ごす日々を大切にされてきました。
動物愛護に深い理解を示されている秋篠宮さまは、飼育されている魚や鳥と同じように、昨今のペットと人間との共生の在り方についても積極的に考えられてきました。由莉が迎えられた背景には、動物を家族として迎え入れ、共に生きるというメッセージも込められていたのです。
皇室の中でともに歩んだ日々
由莉はご一家の生活の中に自然に溶け込み、特にご姉妹である眞子さま、佳子さまと共に多感な時期を過ごされました。茶色がかった穏やかな顔立ちと、控えめでありながら人に寄り添う性格だったとされる由莉は、ご一家だけでなく、関係者からも深く愛されていました。
記録として広く残されているわけではありませんが、由莉が登場した家族写真では、いきいきとした表情とともに、家庭の温かい雰囲気がにじみ出ていました。その姿が国民に公開されるたび、多くの人が「自分も大切なペットとともに過ごす日々を大切にしよう」と思わせてくれるような、そんな存在であったことは間違いありません。
老いと向き合う日々
近年は年齢とともに体調を崩すこともあり、獣医師の指導のもとに慎重に介護が行われていたとのことです。19年という長い年月を重ねた由莉は、家族の見守る中、静かに息を引き取ったと伝えられています。
動物と人との関係も、年月の蓄積がとても大きな意味を持ちます。特に高齢になってからのケアは、ただの「飼育」ではなく、まさに最期まで責任を持って見送る覚悟と愛情が求められる時期です。秋篠宮ご一家が由莉を最期まで丁寧に看取られたという事実は、命への深い敬意と信頼を改めて示してくれました。
国民に寄り添う姿としての象徴
由莉が特別な存在であった理由のひとつは、ただの「皇族のペット」というだけでなく、「保護犬」、「家族」、「癒し」、「老い」など、私たちの日常と直接つながっている数多くのテーマを体現する存在だったことにあります。
近年、ペットを取り巻く社会環境も大きく変化しています。保護犬・保護猫の認知度が高まり、譲渡や里親制度が広がる一方で、動物虐待や飼育放棄の問題も数多く表面化しています。そんな中、由莉が皇族の家庭で大切にされ、大往生を迎えたというニュースには、動物との共生の理想的な一例として、静かに心を打たれた人も多いのではないでしょうか。
特に保護犬への関心が高まっている今、そのような犬を迎え入れるという選択肢を提示し、愛情を注いで生涯を共にすることの素晴らしさを多くの人たちに伝える役割を由莉は果たしてくれました。その意味では、小さな命がもたらす影響力の大きさを実感する出来事でもありました。
別れとともに残されるもの
ペットを家族に迎えたことのある方なら、最後のお別れのつらさを想像することは難しくないでしょう。共に過ごした年月が長ければ長いほど、思い出も涙もまた深いものになります。それでもそれだけの時間の中で交わされた言葉のない会話や癒やし、成長を見守るまなざしは、何ものにも代えがたいものです。
おそらく秋篠宮ご一家にとっても、由莉の存在は、ただ犬としての存在にとどまらず、ご家族の成長と共にあった「時の証人」のような存在であったことでしょう。眞子さまと佳子さまは思春期を、悠仁さまは幼少期から少年期を、由莉とともに過ごされました。家族の喜びも悲しみも共有しながら、家の中に絶えず流れる安心感をもたらしてくれたであろうその存在は、ご一家の記憶の中で永く輝き続けることでしょう。
未来に向けて──命と向き合う姿勢を
今回の出来事は、一般の私たちにとっても大切な問いを投げかけてくれます。家族の一員として命を迎え入れるということ、それを最後まで大事にすること、そして別れの時まで丁寧に寄り添うこと。その三つが織りなす関係は、人と動物との絆にとって何よりも大切な基礎であるように思います。
由莉の死は確かに悲しい出来事でしたが、それと同時に私たち一人ひとりに、命と向き合い、大きな愛情とともに生きる時間の尊さを教えてくれました。その記憶がやがては新たな命と向き合うきっかけとなり、多くの人がペットや家族、そして他人に対して優しさや思いやりを育んでいける未来につながっていくことを願ってやみません。
由莉の穏やかな眠りを心より祈りつつ、この小さな命が与えてくれた温かい記憶と教訓を、私たちも心に留めて日々を丁寧に過ごしていきたいものです。