2024年5月、東京都内で自転車に近い見た目を持ちながらエンジンが搭載された「モペット」と呼ばれる乗り物による違法走行が問題となり、販売業者2人が道路交通法違反(無免許運転幇助など)の容疑で逮捕されました。この事件は、見た目は普通の自転車とよく似ていても、エンジンや電動モーターなどを搭載していることで本来は原動機付自転車(以下、原付)に分類されるモペットの取り締まりに関する重要な問題を浮き彫りにしています。
本記事では、モペットとは何か、なぜこのような違法走行が問題になるのか、そして今回の逮捕に至った背景や今後の対策について詳しく解説し、自転車やバイク、あるいは電動モビリティを利用するすべての方に向けて、交通ルールを守る上での注意点をお伝えします。
■ モペットとは?—原付と自転車の“間”にある乗り物
モペット(moped)とは、元々は「motor(エンジン)」+「pedal(ペダル)」を組み合わせた言葉で、エンジンまたは電動モーターに加えて人力でこぐためのペダルを備えた軽量乗り物を指します。もともとはヨーロッパなどで普及した形態ですが、近年、日本国内にも同様の構造を持つ乗り物が輸入されたり、国内で販売されたりするケースが増加しています。
これらのモペットは、見た目こそ自転車と酷似しているものの、モーターやエンジンの力で人力負荷ほぼゼロで走行できるため、道路交通法上は明確に「原動機付自転車」、つまり原付として分類されます。つまり、原付の免許、ナンバープレートの取得、自賠責保険への加入が必要で、法律上の取り扱いはバイクとほぼ同じになります。
■ 「自転車のように乗れる」という誤解と責任
事件で問題となったのは、東京都豊島区に拠点を置く業者が販売していた、電動アシスト自転車風のデザインを持つモペットです。購入者の中には「自転車と見た目が一緒で、ナンバープレートなども付けていない人もいた」と証言する人もおり、業者が利用者に十分な法的知識を提供せず、「気軽に乗れる電動バイク」として販売した疑いが持たれています。
警視庁の調査によると、販売されたモペットの中にはアクセル操作のみで走行できる、いわばスクーターに近い構造のものも含まれており、これは明らかに原付としての登録が必要な車両です。それにもかかわらず、ナンバー未登録・保険未加入・ヘルメット未着用で公道を走るケースが多発していたとのことです。
これは購入者だけでなく、販売者にも大きな責任があると見られ、販売業者は違法性を知りながらモペットを販売・整備し、公道で運転されることを黙認していたとして逮捕に至りました。
■ 法的に原付であることの意味:資格、保険、ルール
モペットが原付に該当する場合、自動車運転免許や原付免許の所持が必要なのはもちろん、ナンバープレートの取得、自賠責保険への加入、法定速度制限(30km/h)、ヘルメット着用義務など、多くのルールが課せられます。これらのルールは交通安全を守るために定められており、違反した場合には運転者本人だけでなく、車両を提供した業者にも法的責任が問われる可能性があります。
特に、これらの車両が事故を起こした場合、ナンバーがついていなければ逃走車の特定が困難であったり、無保険での事故補償がされなかったりと、多くの社会的・法的リスクが伴います。モビリティが多様化する昨今では、乗り物を「見た目」だけで判断せず、法律上の区分や制度をきちんと確認することが重要です。
■ なぜ取り締まりが難しいのか?
モペットは自転車とそっくりな外見により、一般市民や一部の販売者ですら「これが原付?」と感じてしまうことがあります。また、ナンバー未登録の状態では警察による現場での即時判別が難しいことも、違法使用が黙認されてしまう要因のひとつとなってきました。
さらに、インターネット通販などで簡単に個人が購入できる環境が整っており、個人が車両の性質を知らないまま「普通の電動自転車感覚」で使用してしまうことも問題視されています。特に都市部では、「手軽さ」「環境性能」「コストの低さ」などが一部の層に好まれ、不適切な車両が公道を走行する実情が放置されてきた背景もあります。
■ 今後の課題とわたしたちができること
今回の事件は氷山の一角に過ぎず、日本国内における「モビリティの法的なグレーゾーン」の整理が急務であることを示しています。2022年以降、電動キックボードの制度整備が進められてきたように、新しいタイプの乗り物に対し、法整備も柔軟かつ迅速に対応していく必要があります。
消費者として大切なのは、「この乗り物は法律上どう扱われるのか?」を自らも調べ、理解し、安全かつ適切な方法で利用することです。ただ便利で簡単だからといって法を無視してしまえば、事故や罰則の対象になり、自身や他人の命を危険にさらすことにもなりかねません。
また、販売業者やメーカーにも大きな責任があります。丁寧な説明、法令遵守、登録手続きのサポートを行うことが、業界の信頼性を守り、多くの人が安全に新たなモビリティを使うための鍵となります。
■ まとめ:便利だからこそ、ルールを知ることが大切
テクノロジーの進化とともに、私たちの日常にはさまざまな交通手段が登場しています。その中でもモペットのような新しい乗り物は、時に法の枠組みが追いつかず、混乱を招くこともあります。
しかし、どんなに便利な乗り物であっても、その背景にある法律やルールを正しく理解せずに使うことは、自分自身のみならず、社会全体の安全を脅かすことになります。
「似ているから自転車」「見た目は可愛いからOK」といった判断をせず、利用する際にはその乗り物の法律上の扱いをきちんと確認すること。これが、新しいモビリティ時代を安心・安全に活用するための最初の一歩です。
今回の事件をきっかけに、私たち一人ひとりが「乗り物と法律」をもっと身近に感じ、正しい知識を持つ責任があることを改めて認識することが必要です。交通社会の一員として、安全な街づくりに貢献する姿勢を持つことが、これからのモビリティ社会の未来を明るくする鍵となるでしょう。