「おばあちゃんの歌」に込められた平和の願い--小学6年生がつむぐ希望のメッセージ
「平和」と聞いて、私たちは何を思い浮かべるでしょうか。戦争のない世界、争いから解放された社会、笑顔で過ごせる毎日。けれど、その「平和」の大切さは、日常の中では当たり前のように見えてしまいがちです。そんな中、福井県越前町に住む小学6年生・大嶋心春(こはる)さんが作詞・作曲した「おばあちゃんの歌」は、多くの人々に平和の尊さと、命の重みについて改めて考えさせてくれました。
戦争を体験したおばあちゃんの記憶から生まれた歌
「おばあちゃんの歌」は、心春さんが自身の祖母から聞いた戦時中の体験をもとに生まれた曲です。心春さんのおばあちゃんは、太平洋戦争中に空襲を逃れるために福井県内へ疎開し、終戦を迎えたという経験の持ち主。そのおばあちゃんが語った「人が死ぬ戦争は二度とあってはならない」という言葉が、心春さんの心に深く刻まれました。
幼いながらもその言葉の重みを理解し、心春さんは「平和への願い」を込めて曲を作ることを決意しました。音楽はプロではなく、学校の授業の一環として作られた要素もありますが、その一語一語には、自らの思いと、おばあちゃんを通して受け継がれた歴史が込められています。
音楽コンクールで最優秀賞を受賞
この「おばあちゃんの歌」は、2023年に行われた「NHK全国学校音楽コンクール」の福井県大会に出品され、見事小学校の部で最優秀賞を受賞しました。共演したのは越前町立織田小学校の同級生たちで、学年一丸となって歌に取り組みました。
歌詞には、「命があることのありがたさ」「家族とともに笑える日常の幸せ」「過去に目を向け、未来を想う心」が優しい言葉でつづられており、大人顔負けの表現力で聴く人の胸を打ちます。特に多くの審査員から評価されたのは、戦争の恐ろしさを直接的に表現するのではなく、家庭や家族、そして「平和とは何か」を穏やかに問いかけるような構成の美しさでした。
祖母から孫へ受け継がれる歴史と願い
「戦争を知らない世代」と呼ばれる今の子どもたち。しかし、彼らが無知というわけではありません。どのようにして正しい歴史を知り、次の世代にその教訓を引き継いでいくか。心春さんの取り組みは、まさにその一つの形と言えるでしょう。
祖母が体験した過去の記憶を、心春さんは歌という形で未来に残しました。面と向かって話すと重くなってしまう話も、音楽という表現手段を通じれば、同じ子どもたちにもやさしく届きます。そして、その積み重ねが、戦争をしない社会、誰もが幸せに生きられる文化・価値観の形成につながっていくのです。
学校という場が育む平和学習の意義
今回の歌が評価された背景には、教育現場の支えも大きく影響しています。織田小学校では、戦争や平和について学ぶ授業にも力を入れており、地域の人々の協力を得ながら、「命の大切さ」や「歴史を振り返ることの意味」などを継続して子どもたちに伝えています。
また、音楽を通じて自分の思いや考えを発信する力を育むことにも注力。心春さんのように、身近な家族の記憶から社会の課題につながるテーマを発見し、自分なりの方法でそれを表現することは、まさに「生きる力」を養う原点ともなります。そのような教育環境が、今回のような感動的な取り組みを支えたのです。
歌がもつ力-言葉にできない心の叫びを伝える
音楽には、言葉を越えた力があります。言葉では伝えきれない感情、理屈では語れない願い……。心春さんの「おばあちゃんの歌」は、まさしくそうした音楽の力を感じさせる一曲でした。
歌詞の細部に感じられる温かさや憂い、繰り返されるフレーズの中にある切なる願い。戦争の悲惨さを直接知っていない心春さんだからこそ、その思いを他者の体験に寄り添い、自身の言葉で紡ぎ出せたのかもしれません。
この歌は、これから先、心春さん自身が成長し、大人になっていく中で、きっと何度も振り返るであろう原点のひとつになるでしょう。そして、聴いた私たち一人ひとりの心の中にも、小さな「平和への種」を残してくれたはずです。
未来に託す想い--今を生きる私たちにできること
戦争は遠い過去の出来事ではありません。世界のどこかでは今もなお争いが続き、その中で苦しむ人々がいます。しかし、だからこそ、私たち一人ひとりが「今、何を感じ、何をするか」が大切です。
心春さんのように、自分の身近にある「記憶」や「体験」に耳を傾けてみること。そして、それを学びへ、表現へと変えていくことは、大人にとっても非常に大切な姿勢です。家族との会話、地域とのふれあい、学校や職場でのコミュニケーションの中に、小さなヒントが隠れているかもしれません。
「おばあちゃんの歌」は、小学6年生の少女が、過去と未来をつないだ希望のメッセージです。その透き通った思いに、私たち一人ひとりが心を寄せ、「平和とは何か」を立ち止まって考えてみること。それがきっと、より良い未来につながっていく第一歩になるのでしょう。
音楽を通じて、世代を超えて平和をつなぐ--そんな奇跡のような輪が、これからも日本の、そして世界のいたるところで広がっていくことを願ってやみません。