近年、ネット通販の利用が急増する中で、私たちの日常に急速に浸透してきた「置き配」。その利便性の高さから多くの利用者に支持されている一方で、盗難などのトラブルも報告されており、配送のあり方について議論が深まっています。そんな中、国が置き配を「標準」とする新たなルールの検討に入ったというニュースが注目を集めています。
今回はこの取り組みの背景や目的、利用者・配送業者への影響、今後の課題などを幅広く整理し、みなさんとともにこれからの配達のあり方について考えてみたいと思います。
■ 置き配とは?そのメリットと現状
置き配とは、受取人が在宅していなくても、荷物を玄関前や宅配ボックス、ガスメーターボックスなど、指定された場所に届けてもらう配送方式です。
利用者にとっての主なメリットは、何といっても「時間を気にせず荷物を受け取れること」。共働き世帯や一人暮らしの人にとって、配送時間に自宅にいるのは難しいことも多く、再配達を依頼する手間や時間が省けるのは大きな利点といえるでしょう。また、配送業者にとっても再配達の回数が減ることで、人件費や燃料費の削減、ひいてはCO2排出削減など、環境面へのプラス効果も期待されています。
ヤフーニュースの記事(2024年6月13日)によると、ヤマト運輸を含む大手宅配会社がすでに置き配サービスの拡大を進めており、Amazonなどのネット通販業者ではすでに標準サービスとして設定されているケースも多く見られます。
■ 置き配の拡大によるトラブルと課題
しかし、便利な一方で課題も存在します。最もよく指摘されるのが「盗難」の問題です。玄関前や共用スペースに置かれた荷物が持ち去られてしまうケースは、特に集合住宅などでは深刻です。また、雨風による荷物の濡れや破損、第三者に荷物の内容を見られるというプライバシーの懸念もあります。
こうした課題を解決するには、利用者側の理解と協力が必要であり、適切な置き場所の選定や防犯対策の重要性が増しています。宅配ボックスの設置やスマートキーなどの導入も一つの解決策として注目されていますが、全ての家庭でこれらを導入するのは現実的ではありません。
■ 国の新ルール検討の背景とは?
こうした背景のもと、国(経済産業省と国土交通省)が置き配を「標準」とする方向で制度整備を進めようとしているのは、一つの転換点といえるでしょう。2024年夏ごろには関係省庁と業界団体を交えた会議が行われ、安全性や利便性、消費者の理解度などを踏まえたルール作りが本格的にスタートする見通しです。
国が置き配を推進する背景にはいくつかの社会的要因が重なっています。特に大きいのが宅配業界における「人手不足」問題です。再配達率は依然として高く、労働力の無駄につながっている状況が続いています。政府の統計によると、2022年度の宅配便再配達率は約11%。うち多くが不在による再配達とされ、業界・ドライバーの負担が積み重なっています。
こうした現状を改善するため、置き配のさらなる浸透とそのルール化が求められているのです。
■ 新ルールのポイントは「本人の同意」
国が検討する新ルールでは、基本的に荷主(通販業者など)があらかじめ受取人の同意を得た上で置き配を指定できるようにする方向です。つまり、無断で荷物を置くのではなく、利用者の合意を前提とした信頼関係のもとでサービスを展開するルール作りが進められる予定です。
このルールの整備によって、荷物の盗難や置き場所についてのトラブルが少しでも軽減されることが期待されます。また、利用者にとっても、ルールが明文化されることで、自分の希望に合った受取方法を安心して選べるようになるでしょう。
■ 消費者としてできること
置き配が社会的にスタンダードになる方向に進む中、私たち消費者にもできることがあります。
まず第一に、自分の住居環境でどのような置き配が可能か・安全かを見直すことです。たとえば、玄関前での置き配が不安な場合は、宅配ボックスの利用やマンションの管理会社との相談を検討しましょう。また、盗難や雨濡れを防ぐためのカバーの設置、防犯カメラの使用、家族や隣人との連携も有効です。
次に、利用している通販サイトや配送業者のオプション設定を確認し、自分の希望する配送方法を選択することが大切です。Amazonや楽天市場などでは「配送指示メモ」を使って、置き場所や受取方法を指定することが可能です。定期的に設定を見直し、自分と家族のライフスタイルに合った受取方法を活用しましょう。
■ 今後への期待と展望
置き配が標準となる配送の新時代には、テクノロジーの進化や新たなライフスタイルの登場もカギを握ります。例えば、スマートロックと連携して室内まで配達する「宅内配送」や、自動宅配ロボットの導入なども次世代の物流として検討されています。
同時に、信頼できる地域社会や近隣住民との関係構築も、安全な置き配を支える土台となるでしょう。誰もが便利で安心できる配送サービスを享受できるよう、制度と現場、利用者すべてが協力して、新たな配送文化を形成していくことが求められています。
■ おわりに
置き配を「標準」とする国の新ルール検討は、私たちの暮らし方と物流の関係を見直す大きなステップです。
便利さの裏にあるリスクへの配慮、安全性の確保、そしてそれを支えるルールと技術革新。複雑な社会背景を踏まえつつ、関係者全員が納得できる形で置き配が広がっていくことが望まれます。
これからの配送のスタンダードとして、置き配がどのような形で私たちの生活に根づいていくのか。制度のゆくえとともに、ひとり一人ができる工夫と配慮を通じて、より良いサービスの実現に貢献していきたいものです。