「唯一無二」の舞台へ――早田ひな、勝負に懸ける静かな覚悟
2024年夏、パリ五輪がついに幕を開ける。卓球女子は、長年にわたるし烈な代表争いの末、選ばれし三人が世界の大舞台に立つ。日本中の期待を一身に背負うその一人が、「早田ひな」である。身長167cmと卓球選手としては高めの体格を活かしたダイナミックなプレースタイルと、時には静かに、時には激しく闘志を燃やすその姿は、日本卓球界の希望の星となっている。
6月3日、2024年パリ五輪に向けた日本女子卓球代表のユニフォームがお披露目された。鮮やかな青とピンクで彩られた新ユニフォームに身を包んだ早田は、記者団の前でも堂々とした態度を崩さなかった。だが、その胸に秘められた想いは、決して軽くはなかった。
現在、厳しい国際ランキングシステムに基づいて代表が選ばれる中でも、生き残ることの難しさは筆舌に尽くしがたい。パリ五輪の卓球女子団体戦の代表に内定しているのは、早田ひな、張本美和、平野美宇の三人。団体戦の中心選手としてリーダーを任される早田に課された期待と責任は、計り知れない。
それでも、彼女はどこか凛とした空気をまとっている。若い頃から数多くの国際舞台を経験してきた彼女が、地に足のついた自信を持つのは当然と言えるのかもしれない。
福岡県北九州市出身の早田は、5歳で卓球を始めた。地元の卓球クラブでメキメキと頭角を現すと、福岡・希望が丘高校に進学。高校時代からすでに「天賦の才」と称され、2016年には全日本ジュニアで初優勝。そこから国内外の大会で数々の実績を積み重ね、日本代表の常連となっていった。
だが、その道のりは順風満帆だったわけではない。東京五輪の代表選考では涙を飲み、悔しさを味わった。五輪は、4年に一度しか訪れない。誰もが出たいと願う舞台だ。しかし、実力や情熱だけで行けるものではない。選手たちは文字通り「命」を削るように鍛錬を繰り返し、その一瞬のために人生を懸けている。
早田も、またその一人だ。そして、彼女はこの4年間の間に確実に成長し、進化してきた。
特に注目されたのは、2022年と2023年の全日本卓球選手権大会において、シングルス連覇を達成したことだ。シングルスだけでなく、ダブルス、混合ダブルスでも好成績を残し、名実ともに日本女子卓球界のエースとして君臨した。リオ、東京、と世界を魅了してきた水谷隼や石川佳純の後を継ぐ選手としても、彼女に寄せられる期待は大きい。
その早田が、いよいよ「唯一無二の舞台」=パリ五輪の地に立つ。彼女自身も、「自分自身のベストプレーを尽くすことはもちろん、チームのために、自分が何をできるかをいつも考えている」と語る。団体戦では、選手間の信頼関係とチーム力が勝敗を分ける。早田がチームの「柱」として据えられたことに、連盟や関係者の厚い信頼が感じられる。
お披露目イベントでは、新ユニフォームについて「とても爽やかで、エネルギーをもらえるようなデザイン」と笑顔を見せた。しかし、それは一瞬のこと。ふと目を落とす彼女の横顔には、「戦う人間」の静かな決意が宿っていた。
対戦国のライバルたちはいずれも強豪国だ。中国の絶対的エース、孫穎莎や陳夢をはじめとする世界トップレベルの選手たちは、パリでも最大の脅威となるだろう。しかし、日本女子卓球団体は、決してそれに怯えていない。むしろ、その壁を乗り越えようとする強い意志がチームに満ちている。
早田にとって、今回の五輪は「キャリアの集大成」となるだろう。まだ24歳という年齢ながら、彼女にはそれだけの覚悟と準備が整っている。東京五輪で涙を呑んだあの時の悔しさを、今度こそ”歓喜”へと昇華する。そんな舞台が、今、目の前に広がろうとしている。
最後に、早田がかつて語った言葉を紹介したい――
「私は、どんな舞台でも勝負ができる選手になりたいと思っています。仲間を信じ、自分を信じること、それが私のスタイルです」
2024年7月、夏のパリ。多くの希望と重圧を背負いながら、それでも胸を張って戦う彼女の姿を、私たちは忘れることはないだろう。そして、その覚悟と努力のすべてが、メダルという形で報われる日が来ることを、日本中が信じている。