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価格に“価値”を込める時代へ――セブンイレブン社長が語った「戦略の遅れ」が映す小売の未来

2024年現在、日本の小売業界はかつてないほどの変革期にあります。その中心にあるのが、日々変動する原材料価格やエネルギーコスト、人手不足など、多様な要因が絡み合った“価格戦略”というテーマです。そんな中、国内最大手コンビニエンスストアチェーンのひとつであるセブン‐イレブン・ジャパン(以下セブンイレブン)の佐藤社長が、現在の価格戦略について「少し遅れた感がある」との認識を示したことが話題となっています。本稿では、その背景や意味、そして今後の小売業界に与える影響について、分かりやすく解説していきます。

■セブンイレブン社長が語る「価格戦略の遅れ」とは

ニュースによると、セブンイレブンの佐藤社長は、直近の各種報道や決算会見の場で、昨今の物価上昇に対する自社の価格戦略について振り返りました。その中で「多少価格戦略に遅れた部分があった」という認識を示しています。

背景には、2022年から続く原材料費や物流費の高騰、さらには電気代の上昇などがあり、小売各社は商品価格を上げざるを得ない判断を迫られてきました。特にコンビニ業界においては、気軽に手に取ってもらえる「リーズナブルさ」が大きな価値のひとつであり、価格改定には慎重にならざるを得ない事情があります。

それでも、他社が既に価格見直しに踏み切る中で、セブンイレブンも業界内競争の中で価格転嫁を進める必要があったわけですが、その対応について社長自ら「少し遅れた」と反省の意をにじませた形となります。

■「価格を上げる」という難しさ

企業が商品価格を上げることは、消費者にとって決して嬉しいニュースではありません。一方で、企業側も原材料費や人件費、輸送コストの高騰といった現実に直面しており、収益の安定化のためには価格改定が必要です。

特に、日常的に使われる商品を多く扱うコンビニでは、価格感度が非常に高く、小さな値上げでも消費行動に大きく影響を与える可能性があります。そのため、企業は「どのタイミングで」「何の商品を」「どの程度の幅で」値上げするかといった判断に、非常に細心の注意を払わないといけません。

今回のセブンイレブンの社長発言は、そうした配慮の中でも、慎重になり過ぎた面があったという自己分析ともいえるでしょう。

■値上げの中で問われる「付加価値」と「信頼性」

では、価格を上げる際、企業はどのようにして消費者の理解を得るべきなのでしょうか。その鍵となるのが「付加価値」と「信頼性」です。

例えば、セブンイレブンは元々「おにぎり」や「お弁当」など、品質へのこだわりで評価されてきました。具材や調理工程に工夫を凝らし、外食に負けないレベルの味を提供することにより、価格以上の価値を感じてもらう戦略を長年にわたって構築してきました。

今後も価格改定を行うのであれば、それに見合った品質の維持、あるいはそれを超える価値の提供が求められるでしょう。これは単に高品質な商品を提供するという以上に、「この価格でも納得できる」と感じてもらえるような信頼の積み重ねが必要ということです。

■他業界や他企業にとっての教訓

セブンイレブンの価格戦略に関する姿勢は、他の小売業界やサービス業界にとっても大きな示唆を与えてくれます。日本では長年、デフレマインドが根付いており、「安さ=正義」とする価値観が強く存在していました。しかし、これからは「適正価格=持続可能な価値」という時代に移りつつあります。

企業が継続的に良い商品やサービスを提供し続けるには、相応のコストがかかるのが当然です。そして、そのコストを健全な形で価格に反映させていくことは、長い目で見れば消費者にとっても持続可能な恩恵となります。

つまり、消費者側も「適正な価格で良いものを買う」という意識へとシフトしていくことが求められるでしょう。

■今後のセブンイレブンに期待されるもの

セブンイレブンは、全国に約21,000店舗を展開し、日々膨大な数の顧客と接する企業です。その影響力は小さくはなく、一つの戦略判断が、業界全体に与える影響も大きいと考えられます。

その中で、今回のように自らの戦略を振り返り、素直に「遅れた」と認めたことは、企業として非常に誠実な姿勢であるといえます。今後は、消費者との対話をさらに強化し、納得のいく品質や価格形成を推進していくことが期待されます。

また、セブンプレミアムといったプライベートブランド商品の進化や、SDGsを意識した環境にやさしい取り組み、省資源包装への対応など、新たな価値提供の可能性も広がっています。

価格だけでなく、商品全体の価値をいかに高めていくかという点で、ますます注目される存在となるでしょう。

■まとめ:変化の時代における企業の正直な姿勢

今回の「価格戦略に少し遅れた」という佐藤社長の発言には、多くの意味が込められています。価格を上げるという難しい決断の中で、消費者への配慮を忘れず、またその一方で企業としての持続性を確保しようとする姿勢。そこには、変化の時代における日本企業のあり方が映し出されています。

私たち消費者もまた、単に価格の上下に一喜一憂するのではなく、「なぜ価格が変動するのか」「その価格にどんな価値が込められているのか」といった視点を持つことが大切です。

価格は単なる数字ではなく、企業と消費者の信頼関係を映す鏡でもあります。セブンイレブンをはじめとした企業と私たち消費者が、より良い関係を築いていくためにも、正直で透明性のある戦略が今後ますます求められることでしょう。