2024年、日本国内で百日ぜき(別名:百日咳、英語名称:Whooping Cough)の感染者数が急増しています。5月27日~6月2日の1週間で、全国で確認された患者数がついに3000人を超えました。これは国が現在の方法で統計を取り始めた2000年以降で最多となり、従来の流行とは明らかに異なる規模となっています。
本記事では、この百日ぜきの感染拡大状況やその背景、予防法についてわかりやすく解説し、私たち一人ひとりがどのように対策を講じるべきかをお伝えします。
百日ぜきとはどんな病気か?
百日ぜきは「ボルデテラ・パータシス(Bordetella pertussis)」という細菌によって引き起こされる呼吸器の感染症です。特徴的なのは、長期にわたる激しい咳で、多くは1~2週続いた後、突発的で連続的な咳発作が数週間〜数か月続くこともあります。
特に重症化が懸念されるのは、生後6か月未満の赤ちゃんや、基礎疾患を持つ高齢者、免疫力の低下している方々です。この疾患は飛沫感染や接触感染によって広がるため、感染拡大のスピードも速く、クラスター(集団感染)発生の引き金にもなり得ます。
2024年の感染状況:なぜ今、百日ぜきが増えているのか?
今波の感染拡大にはいくつかの要因が指摘されています。2024年6月の時点での厚生労働省の報告によると、直近1週間の全国の患者報告数は3,037人。人口10万人あたりでは2.44人にのぼっており、6週連続で増加傾向です。
その背景にある一因として見られているのが、パンデミックによる生活様式の変化です。新型コロナウイルス感染症の拡大防止策として、私たちは長い期間「三密回避」「マスク着用」「手指消毒」などの対策を徹底してきました。その結果、インフルエンザや他の感染症の流行が激減しましたが、それによって私たちの免疫が弱まってしまった“免疫負債”が生じたのではないかと専門家は見ています。
また、百日ぜきワクチン(DPTワクチン)の予防接種を受けていないあるいはブースター接種を行っていない年齢層の増加なども、感染拡大に影響を与えていると考えられます。
地域別の感染状況
報告された感染者数を地域別に見ると、東京都が最多で299人、次いで神奈川県で259人、大阪府で192人と、人口密集地域での感染が顕著です。また、福岡、愛知、北海道などの地域でも100人を超える患者が報告されています。
特に教育機関や保育施設など、集団生活が行われている場所での感染が多く、中には学校閉鎖や学級閉鎖に至った例もあります。これは家庭内での感染リスク増大にもつながっており、二次感染防止の重要性が叫ばれています。
百日ぜきの症状と診断方法
百日ぜきには、以下のような段階的な症状の進行があります:
1. カタル期(1~2週間):鼻水や喉の痛み、軽い咳が出る。風邪に類似した症状。
2. 痙咳期(2~4週間):特徴的な連続した激しい咳と、その後にヒューっと息を吸い込む「笛のような呼吸音」が出る。夜間に悪化することが多い。
3. 回復期(数週間):症状が徐々に軽減されていくが、咳はしばらく続く。
診断には症状の聞き取りに加えて、鼻咽頭ぬぐい液からの細菌培養、PCR検査、抗体検査などが用いられます。特に小児では症状が典型的に出ない場合があるため、早期受診が重要です。
治療と予防法
治療には、マクロライド系抗菌薬(クラリスロマイシンなど)が一般的に用いられます。カタル期の早い段階で抗菌薬を使用すると、症状を和らげ、他者への感染を防止する効果があります。ただし、痙咳期以降になると薬の効果は限定的となるため、早期の治療開始が鍵です。
予防については以下の点が重要です:
– ワクチン接種の確認:日本では乳児期(生後3か月から)に4回、学童期に1回の五種混合または四種混合ワクチン(DPT-IPV)が推奨されています。追加接種が推奨される場合もあるため、母子手帳などで確認しましょう。
– 手洗い・うがいの励行:一般的な感染予防として、手洗いやマスク着用が有効です。
– 咳エチケットの徹底:咳やくしゃみをする際には、口を覆う、ティッシュで鼻をかむなど周囲への配慮が必要です。
– 家族への配慮:特に乳幼児や高齢者が同居している家庭では、咳の症状があれば早めに医療機関を受診し、家庭内での感染拡大を防ぎましょう。
デジタルツールの活用も
現在、厚生労働省や地方自治体では公式サイトで感染症に関する最新情報を随時更新しています。また、感染症研究所のホームページや、感染症疫学センターが公表している「感染症発生動向調査」も有用な情報源となります。
スマートフォンのアプリでも、症状チェック、ワクチン接種スケジュールの管理が可能なものもあるため、家族全員の健康管理に活用するのもおすすめです。
最後に:今、私たちができること
百日ぜきは決して過去の病気ではなく、現代においても感染爆発のリスクを持つ疾患です。社会全体での感染対策はもちろん、私たち一人ひとりが正確な知識を持ち、早期の対応や予防を心掛けることが、感染拡大を抑える鍵となります。
これから梅雨を迎え、気温や湿度の変化による体調不良も起きやすくなってきます。日々の体調管理とともに、咳症状が見られたときの「いつもと違う」サインを見逃さず、医療機関に相談することが大切です。
2024年の百日ぜきの状況は、私たちに「感染症の予防は今もなお重要である」という現実を突きつけています。家庭、学校、職場など、生活のあらゆる場面で予防意識を高め、皆が安心して暮らせる社会を築いていきましょう。