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自民党「双璧」の退場──麻生・茂木氏交代が映す日本政治の静かな世代交代

日本の政界において一つの大きな転換点が訪れました。自民党の麻生太郎副総裁(83)と茂木敏充幹事長(68)が夏の内閣改造・党役員人事で交代する方向で調整が進められているという報道が、政界に一石を投じています。この報せは単なる人事異動ではなく、日本の保守政党として戦後長きにわたり政権を担ってきた自民党、そしてその中枢を構成してきたベテラン政治家たちの「時代の終焉」を象徴する出来事と言えるでしょう。

まず注目すべきは、麻生太郎氏の動向です。福岡県出身の麻生氏は、祖父が元首相・吉田茂という名門の政治家系譜に生まれました。1979年に衆議院議員に初当選して以来、40年以上にわたり国政の第一線で活躍してきました。特に2008年から2009年にかけては第92代内閣総理大臣として内閣を率い、リーマンショックによる世界的経済危機の対応に追われつつも、日本経済の再建に力を注ぎました。また、副総理兼財務大臣としても長きにわたり在任するなど、経済・外交の両面で自民党政権を支える重鎮として君臨してきた人物です。

そのユーモラスで歯に衣着せぬ発言で知られる一方、豊富な政治経験と国際感覚を併せ持つ麻生氏は、党内外において独特な存在感を放ってきました。ここ数年は副総裁として岸田文雄首相を支え続けてきましたが、近年は年齢と健康状態の問題も囁かれており、「そろそろ勇退の時か」との声が党内では水面下でささやかれてきました。

一方、麻生氏とともに今回の人事で交代が噂されている茂木敏充幹事長についても、その経歴を振り返れば、日本の政界におけるキャリア政治家としての実力が際立ちます。群馬県出身、東京大学法学部を経てハーバード大学大学院で行政学を学んだエリートであり、母校である読売新聞社に入社後、1993年に政界入りを果たします。以後、文部科学大臣、経済産業大臣、外務大臣といった閣僚ポストを歴任し、経済と外交の両分野に精通した政策通として知られる存在です。

特に外務大臣としては、アジア近隣諸国との関係強化や、日米同盟の再構築に向けた交渉を担うなどその手腕が高く評価されました。2021年には幹事長に就任し、岸田政権の屋台骨として党内をとりまとめる役割を担ってきました。党改革や選挙戦略において実績を上げつつ、一方で「次の首相候補」とも囁かれるほどの存在感を維持してきました。

しかし、今回の報道により、麻生氏と茂木氏という「自民党の双璧」ともいえる重鎮が同時に交代する可能性が現実味を帯びてきたことは、岸田政権が「次の世代」へのバトンを真剣に意識し始めた兆候と受け止めることができます。背景には、自民党が直面する世代交代の必要性という厳然たる現実があります。来る衆議院選挙や2025年の参議院選挙を見据える中で、有権者、とりわけ若年層からの支持を獲得するためにも、党の刷新が急がれているのです。

岸田首相自身は、党内における「派閥の論理」から一定の距離を取る姿勢を見せており、今回の人事においても、非派閥出身の若手や中堅議員を積極的に登用するのではないかとする観測も出ています。かねてより岸田首相は「聞く力」を重視し、従来の派閥主導型政治からの脱却を掲げてきただけに、今回の人事が本当に大幅な刷新となるか、内外からの注目が集まっています。

では、両ベテラン政治家の「その後」にも目を向けるべきでしょう。麻生氏は引き続き議員として活動を継続すると見られますが、第一線からは一歩引いた立場にシフトする可能性が高いと言われています。これまで自らが率いてきた「志公会(麻生派)」の今後も注目ポイントです。一説には、次代の麻生派を担う若手への早期の移譲も視野に入れているとされており、「麻生政治」のDNAがどう未来へと継承されていくのかが問われる局面となっています。

また茂木氏については、ポスト岸田を目指す政治家の一人として、党内での影響力を維持するための戦略的立ち位置が求められることになります。今後も閣僚や党要職への再登板の可能性があり、国政において「無傷のエース」として温存される可能性も否定できません。政治記者の間では「いったん幹事長から外れることで身軽になり、再度首相を狙う布石か」と見る向きもあります。

自民党にとって、現在の状況は安定と刷新のはざまで揺れる「正念場」です。その中で麻生太郎氏と茂木敏充氏という不動のキャラクターが前線を譲るという事実は、「日本政治が新たなフェーズに入った」ことを如実に物語っているのです。

今回の人事報道は、単に名前のある政治家が退くというだけでなく、政党内における力学の変化や、国民の求める政治の形が変わりつつあることを映し出しています。日本政治は今、静かな世代交代のうねりの中にあるのです。