2024年6月、中国海軍の空母「山東」が日本の排他的経済水域(EEZ)に近い南鳥島沖を初めて航行したことが明らかになり、日本国内で注目を集めています。この動きは安全保障上の観点からも重要であり、国際社会の関心も高まっています。今回の記事では、中国空母「山東」の南鳥島沖への進出が示す意味や背景、今後の日本周辺海域における動向などを丁寧に読み解いていきます。
中国空母「山東」の概要と背景
「山東」は中国が独自開発した初の国産空母で、2019年に正式就役しました。全長は約300メートル、排水量はおよそ7万トンにおよび、多くの艦載機を搭載し、空中戦能力や海上作戦能力を大幅に高めています。「山東」は従来の「遼寧」に続く空母として、南シナ海方面での軍事演習や航行実績を積んできましたが、今回初めて日本の東方、太平洋側に進出してきたことになります。
南鳥島とは、日本の最東端に位置する無人島で、東京都に属し、周辺は日本の排他的経済水域(EEZ)に含まれています。日本にとっては重要な海洋研究の拠点であり、同時に資源調査などの戦略的意味合いもある場所です。この地域で中国空母が航行するのはかつてないことで、緊張感をもって受け止められています。
空母「山東」が果たす役割とは?
中国は近年、空母戦力の拡充に力をいれており、これまで南シナ海や台湾周辺での展開が中心でした。しかし今回の進出は、「第一列島線」(日本南西諸島から台湾、フィリピンに至るライン)を越えて、いわゆる「第二列島線」に向けた活動であると解釈できます。つまり、中国が太平洋における艦隊投射能力を身につけ、より外洋での運用を試みる段階に入っていることを示しています。
また、「山東」の行動には、艦載機による発着訓練、対空・対艦演習、複数艦での連携訓練などが含まれるとみられています。実際、今回の航行でもその他の艦艇とともに隊列を組み、空母を中心とした空母打撃群(Carrier Strike Group)として活動していました。このような編成は、米国海軍が行っている空母を中心とした遠洋展開の模倣ともされ、中国海軍の作戦能力向上が如実に明らかになっています。
なぜ日本近海への進出なのか?
中国がこの時期に南鳥島沖まで空母を展開した背景には、さまざまな意図が考えられます。
第一に、自国の海軍力のプレゼンス(存在感)を示す目的です。アジア太平洋地域においては、米軍の展開力に依存する構造が続いていますが、そこに対抗するかのように、中国も艦隊展開を強化しています。とりわけ日本の東側、つまり太平洋の外洋に自国の空母を展開できる能力を示すことは、戦略的意義が大きいといえるでしょう。
第二に、近年活発化している日米の海洋連携に対する牽制ともみられます。日米は南西諸島や台湾周辺での共同訓練を重ねており、それに対する対抗措置として、空母をさらに外洋に展開して自由な行動能力を持っていることをアピールする狙いがあると考えられます。
日本の対応と今後の展望
今回の事態を受けて、日本の防衛省は速やかに中国空母の動向を確認し、戦闘機によるスクランブル発進や情報収集体制の強化を図りました。また、哨戒機や艦艇による追尾を実施し、航行経路や行動内容を継続的に監視しました。こうした対応は、日本が平和的な海洋秩序の維持に努めていることを示すものであり、慎重かつ冷静な姿勢と透明性を保つことが国際社会から信頼を得る基盤となります。
一方で、今回の事案は今後の東アジア、特に日中間の海上安全保障の枠組みに新たな課題を突きつけたとも言えます。中国の空母運用が常態化する可能性や、定期的に空母打撃群が太平洋へ展開される事態も考えられるようになれば、日本としてはそれに即した防衛・抑止力の適正な維持と対応が問われることになってきます。
国際社会との連携も重要です。ASEANやインド太平洋におけるパートナー国、さらには国連海洋法条約に基づいた協調的な取り組みによって、各国がルールに従った行動をとるよう促すことが、地域の緊張緩和につながっていきます。
冷静な視点で未来を見据える
今回の中国空母「山東」による南鳥島沖の進出は、単なる軍事行動に留まるものではありません。それは、アジア太平洋地域の安全保障構造が変化しつつあるという大きな流れの一端を示しています。そして私たちは、こうした変化に対して脅威のみを感じるのではなく、いかに協調的・建設的な対応が取れるのか、冷静な視点を持って関わっていくことが求められています。
国際社会では複数の価値観が並立し、また安全保障の在り方についても各国のアプローチに違いがあります。だからこそ、日本は透明性と法の支配を重視した対話を続け、国際ルールの中で安定と平和を築く役割を果たしていくべきです。
このような大きな動きがあるたびに、私たち一人ひとりがその背景を理解し、「知ること」から始めていくことが大切です。中国の空母がどこを航行したかという事実のみに注目するのではなく、その周辺で起きている戦略的思惑や、地域の安定のために必要な対応とは何かを深く考えるきっかけになればと思います。
今後も私たちは、変化する世界情勢に対して正確な情報と理性的な視座を持ち、未来の平和をどのように築いていくべきかを共に考えていく必要があります。