日本の選挙掲示板、「余白が大きすぎる」と話題に──その背景と広がる共感
選挙のたびに町のあちこちで目にする「選挙掲示板」。政党や候補者のポスターが一堂に貼られるこの掲示板は、私たちの暮らしに比較的馴染みのある存在です。しかし、2024年6月現在、インターネット上でこの選挙掲示板が思わぬ形で注目を集めています。
話題となっているのは、掲示板に貼られているポスターの数が非常に少なく、そのために空いているスペース――「余白」があまりに大きく、逆に目を引いてしまう、という声がSNSで多く上がっているというものです。
一見すると何でもない話題のようですが、この「余白」が持つ意味や、それを通じて人々が感じ取っている政治参加や社会構造の問題など、様々な視点から考察してみたいと思います。
選挙掲示板とは？
選挙掲示板は、公職選挙法に基づき選挙期間中に各自治体が設置する公共の掲示スペースです。候補者が公平に選挙活動を行えるよう、市町村の目の届く場所に同一規格の掲示板が置かれ、各候補者が決められた位置にそれぞれのポスターを貼り出す形となります。
選挙区ごとに定められた数の候補者枠があり、そのマス目に従ってポスターが貼られていきます。これ自体は、長年変わっていない非常にオーソドックスな仕組みです。
しかし、SNSで注目されたのは、この掲示板の「まだ貼られていない」「誰のポスターもない」スペース。空白のマス目だけがずらりと並ぶ掲示板が、「まるで現実の政治離れを象徴しているようだ」として、写真付きで拡散されていきました。
なぜ余白が多くなっているのか？
掲示板の余白率が高くなっている背景には、いくつかの要因があります。
第一に、立候補者数そのものの減少があります。特に地方選挙において、立候補者が定数ギリギリ、もしくは定数を下回ることも少なくありません。自治体によっては、無投票で当選が決まってしまう地域もあり、有権者が選択する余地すらないというケースも見られます。
第二に、選挙活動への負担が大きいことです。立候補には相応の費用と時間、そして体力が必要になります。ポスター作成、設置には人手も必要で、ボランティアの確保すら困難になっている地域もあります。
さらには、政治活動のオンライン化が進み、若手候補者ほどSNSやYouTubeなどのデジタルメディアを活用する傾向が強まりました。「掲示板という旧来的メディアへどれほどリソースを割くべきか」についても再考されている段階であり、ポスター掲示へ消極的な姿勢を取るケースも出てきています。
ネット上での反応、「余白」に込められた共感の声
SNSで拡散された掲示板の写真には、さまざまなコメントが寄せられています。「誰も立候補していない街の現実」「空白がまるで政治への無関心を映しているよう」といった声が多くみられました。
ある投稿者は「まるで美術館のミニマリズム作品のようにさえ思える」と表現するなど、予想外の芸術的見方をする人も。確かに、無数の空白が整然と並ぶ掲示板には、何か抽象的な“意味”があるようにも感じられます。
また、多くの人がこの光景に対し、日頃からぼんやりと抱えていた「政治との距離感」を再認識する契機となったようです。
「もっと候補者が増えればいいのに」「手軽に出馬できるように制度を見直してほしい」「ポスターが一枚も貼られていないのを見て、逆に関心が湧いた」など、応援する気持ちを示す声も見られました。
また、都心部よりも地方の自治体でこのような現象が顕著であることから、地域格差や人口減少の問題と重ねて捉える人も少なくありません。掲示板というたった1枚の”風景”が、今の日本社会のいびつな構造をストレートに映し出していると感じる人もいるようです。
掲示板の「余白」から見えてくる政治参加の課題
この話題は一見すると軽いジョークのように見えますが、実は私たちに重要な問いを投げかけています。それは、「誰が政治に関わるのか」「どのように関わっていくのか」という点です。
かつては地域の顔役や会社の推薦などで、多くの人々が選挙に関わってきました。しかし現代では、生活の多忙さや社会とのつながりの希薄さから、立候補者として表舞台に立つ負担が大きくなっています。結果として、候補者が不足し、掲示板に空白が目立つという現象が生じているのです。
同時に、これは「政治は一部の人のものではなく、私たち全員の問題である」という原点を再確認する好機でもあります。
「空いているマス」は、「まだ誰も名乗り上げていない席」と捉えることができるかもしれません。それは、将来の候補者やリーダーが現れる可能性を孕んでおり、決して否定的にのみ捉えるべきものではないでしょう。
これからの選挙掲示板の在り方とは？
今回の話題を受けて、私たちが考えるべきことのひとつは、今後、選挙掲示板というフォーマット自体の在り方です。
近年では、選挙公報の電子化や政見放送のSNS配信など、選挙情報の発信手段の多様化が進んでおり、従来の掲示板方式に対する見直しも検討され始めています。一方で、掲示板はインターネットを利用しない世代にとって貴重な情報源であることも忘れてはなりません。
仮にデジタルとアナログを融合する形を模索するのであれば、例えば掲示板にQRコードを表示し、各候補者のSNSや動画リンクにアクセスできるようにする、といったアプローチも考えられるかもしれません。
また、せっかく設けられる掲示スペースを、地域住民への啓発活動や、選挙啓発ポスター、美術作品の展示などに活用する例も出てきています。「政治を身近にする場」としての掲示板の活用方法には、まだまだ可能性があると言えるでしょう。
おわりに：一枚の掲示板が語る、私たちの未来
今回話題となった「余白の多い選挙掲示板」。これは偶然に生まれた社会現象でありながら、私たち自身が政治や地域にどう関わっていくべきかを、静かに問いかけているように思えてなりません。
この空白を「何もない」とするのか、「これからの余地」と考えるのか。その視点の違いが、私たち自身の未来を大きく変えていくのではないでしょうか。
選挙掲示板は単なる情報発信の場ではなく、民主主義のシンボルとも言えます。そして、その掲示板に映る一人ひとりの意志と行動こそが、より良い社会への一歩となるのです。
まずは自分の住んでいる地域の掲示板を、立ち止まって眺めてみることから始めてみませんか？
その「空白」の意味に、あなた自身の言葉と未来を投げかけてください。
