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「“食べ残し”に価値を――広がる飲食店の持ち帰り対応と食品ロスへの挑戦」

近年、日本の飲食業界では「食べ残しの持ち帰り」を認める動きが広がりを見せています。食材やエネルギーの価格高騰、食品ロスへの意識の高まり、さらには環境問題への配慮など、さまざまな背景を受けて、これまで消極的だった飲食店が、その方針を見直しつつあるのです。「食事の楽しみ」だけでなく、「食べ物を大切にする心」にも注目が集まる今、食べ残しの持ち帰りを巡る変化を探ってみました。

■ 食品ロス削減に向けての一歩

日本国内における食品ロスの量は、年間約522万トン(令和3年度 農林水産省調べ)と言われています。これは国民一人あたり年間約41kg、つまり毎日お茶碗1杯分のご飯を捨てている計算になります。こうした現状を受けて、国や地方自治体は食品ロス削減のための施策を推進していますが、そこに大きな役割を果たすのが飲食業界の取り組みです。

飲食店での食べ残しは、店舗側にとって直接的な経済的損失にはならない場合が多いものの、廃棄コストや環境負荷の面では無視できません。一方で、利用者からすれば、体調や気分、量の想定違いなどの理由で完食できないこともあるでしょう。そんなとき、食べ残しを持ち帰るという選択肢の存在は、フードロスに配慮する人々にとっても歓迎すべきものです。

■ 変化を遂げる飲食店の姿勢

これまで日本の飲食店では、食べ残しの持ち帰りを「衛生面のリスク」や「食品事故の可能性」などを理由に原則禁止としてきた店舗が多くありました。しかし最近では、「自己責任での持ち帰り」に合意することを条件に、持ち帰り用の容器を用意する店舗や、持参した容器に対応する店舗が増えてきています。

たとえば、多くの飲食チェーンやホテルでは、あらかじめ「持ち帰り可」と明記し、厚生労働省のガイドラインを参考にした書面での確認を行うことで、持ち帰りを許可する事例が出てきています。また自治体によっては、飲食店が安全に持ち帰りに対応できるようマニュアルを用意し、セミナーを通じて衛生管理の徹底方法を伝えるなど、後押しをする取り組みも始まっています。

■ 医療・福祉の現場からの声も

このトレンドは、医療や福祉分野にも関わるテーマです。高齢者や病気療養中の人、食事制限を受けている人などにとって、「その場で食べきれないけれど後で食べたい」気持ちは一層強くなります。一度にボリュームのある食事を取ることが難しい方々にとって、持ち帰りができるという選択肢は、食の楽しみや自立支援にもつながるといえるでしょう。

また、学校給食や介護施設でも、食品ロスが問題視されており、食文化の在り方から見直しが進んでいます。外食分野での「持ち帰りOK」は、こうした他分野での取り組みにもポジティブな波及効果を与えることが期待されています。

■ 持ち帰り制度が普及するための課題

一方で、持ち帰りを認めるにはさまざまな課題も存在します。第一に「食中毒などのリスク管理」の問題です。持ち帰った食事は、適切な温度で保管されず、長時間放置された場合、細菌の繁殖が進む可能性があります。これにより体調を崩すような事態が発生すれば、店舗にも悪影響が及びかねません。

そのため、多くの店舗では「持ち帰りはお客様の自己責任となります」と明記した同意書を用意したり、注意喚起のラベルを添付したりするなどして、リスク回避に努めています。また、お店側としても「どのメニューは持ち帰りに適しない」といった具体的な説明をすることで、より安全な利用のガイドラインを伝える努力が求められます。

持ち帰り用の容器に関しても課題があります。使い捨てプラスチック容器は便利ですが、環境への悪影響も懸念されるため、リサイクル素材の導入や、ユーザー自身が容器を持参できる制度の推進など、さらなる持続可能な工夫が期待されます。

■ 利用者として意識したいこと

持ち帰り制度を活用する利用者には、「量を適切に注文する」ことが第一歩です。食べ切れるだけの量を頼むという基本のマナーは、フードロス削減だけでなく、料金的にも身体的にもメリットがあります。

しかし、どうしても食べきれないこともあるでしょう。そんなときに持ち帰りができるというのは、やはりありがたい配慮です。ただし、先述の通り食品の安全に注意し、できるだけ早めに食べる、直射日光を避けて保存するなどの工夫をしましょう。

また、持ち帰り制度を可能にしてくれている飲食店の理解と努力があってこそ成り立っている仕組みだということを忘れてはいけません。感謝の気持ちを込めて、店員さんに丁寧に申し出る、持ち帰る際には食事の形が崩れないよう丁寧に扱うなどの配慮も心掛けたいものです。

■ まとめ:「もったいない」から始まる新しい消費のカタチ

「もったいない」と感じる気持ちは、日本人の心に根付いた美徳の一つです。その精神を現代社会の中でどう生かすか。それを体現するひとつの方法が、食べ残しを無駄にしないための「持ち帰り」という選択です。

飲食業界がその仕組みを整えつつあり、消費者の意識も変わり始めています。すべての人が気軽に、そして安全に「持ち帰り」を活用できる社会が実現すれば、日本における食品ロス削減の大きな一歩となることでしょう。

これから外食を楽しむとき、少しだけ「食べ切れなかったらどうしよう」「持ち帰りが可能かな?」と意識をしてみませんか? 小さな一歩が、未来の地球に優しい選択へとつながります。