「適性ないのに管理職に 後悔の声」
現代の働き方改革や多様なキャリアの在り方が求められる中、「管理職」という役割に対する意識が大きく見直されつつあります。かつては一つの会社に長く勤め、その果てとして「管理職」に昇進することが一般的なキャリアパスとされていましたが、今日ではその考え方に疑問や葛藤を持つ人が増えてきています。
2024年6月に配信されたYahoo!ニュースの記事「適性ないのに管理職に 後悔の声」では、実際に管理職に就いた人々が感じた苦悩や、周囲からの期待、昇進という流れの中で適性を見極める難しさなど、現代の働く人々が直面するリアルな姿が描かれています。この記事をもとに、今回は「なぜ管理職に適性が求められるのか」「管理職と向き合うために必要な考え方とは何か」などを掘り下げてみたいと思います。
■「昇進=喜び」ではない時代
職場における「昇進」は長らく、努力の成果・キャリアの証として評価されてきました。ただ、この認識は今や大きく揺らいでいます。記事で紹介されている40代の女性は、「これまで頑張ってきた成果が認められた」と感じつつも、実際に管理職になった後に強いストレスと孤独を感じたといいます。
彼女は、プレイヤーとしては非常に優秀だったものの、「人を動かす」「判断する」「部下のメンタルに配慮する」といった管理職ならではの役割に戸惑い、「適性がなかった」と語っています。企業にとっては期待の人材だったかもしれませんが、本人の意志や性格とのギャップは、日々の業務に確実に影響を及ぼします。
■「適性」とは何か?
では、「管理職の適性」とは具体的にどのようなものなのでしょうか。
よく挙げられるのは、コミュニケーション力やリーダーシップ、判断力、部下育成への意欲、そしてメンタルケアの観点です。これらは業務遂行能力とは別の軸で求められるため、プレイヤーとしてどんなに優秀でも管理職としての資質とは必ずしも一致しません。
記事でもあったように、管理職に就く=より高い専門性を発揮できる、というわけではないことから、自らのスキルや性格と役割との「ミスマッチ」がストレスや後悔の原因になることがあるのです。
■“断る”という選択肢
近年では、こうしたミスマッチを避けるため「昇進を断る」という選択をする人も増えています。例えば、「部下を率いるのは向いていない」「今の専門職のままキャリアを磨きたい」といった理由から、自ら管理職の道を選ばない人もいます。
ただし、中には昇進を断ることで人事評価が下がるのではないか、という不安もあるでしょう。しかし、昨今の企業の多くでは「専門職のキャリア」を認める動きも進んでおり、必ずしも管理職にならなければ昇給・昇進できないという環境ではなくなってきています。
大切なことは、自分の価値観や得意なこと、そして働き方の在り方をしっかりと見つめ直し、自分にとって「幸せだと思える働き方」を見つけることです。
■管理職である前に、一人の“人間”
管理職になることで多くの課題に直面するのは当然のことです。ただ、それによって自分が苦しんだり、本来のパフォーマンスを発揮できなかったりするのであれば、それは望ましい状況とは言えません。
特にメンタルヘルスの観点からも、周囲のサポート体制や、相談できる環境の整備は今後ますます重要になってくるでしょう。企業においても、「適性を見極めたうえでの昇進」や「職種の選択肢を増やす」ことが求められており、人事だけでなく個人一人ひとりが、どのような立場で働くことがベストなのかを考える時代になっています。
また、「管理職にならなかったから劣っている」と感じる必要はありません。それぞれの立場に、それぞれの役割と重要性があるからです。
■これからの働き方に必要なこと
本記事を通して改めて感じたのは、私たち一人ひとりが「自分に合ったキャリアとは何か」を主体的に考えることの重要性です。外から与えられる「理想の働き方」や「正解」にただ従うのではなく、自分自身の特性や希望をもとに取捨選択していく姿勢が、これからの時代には必要不可欠です。
企業側もまた、そのような個人の思いを汲んだ育成・評価制度を整備し「多様な人が、それぞれの強みを活かして活躍できる職場環境」を作っていく姿勢が求められます。
■最後に
「適性ないのに管理職に」と後悔を感じる人の声は、決して少なくないという現実があります。この声は、個人だけの問題ではなく、組織としても大きな課題と考えるべきです。
昇進や管理職という言葉にただ価値を見出すのではなく、「自分にとって適切な役割とはなにか」「長く働き続けるにはどの道がベストか」と、丁寧に向き合うことが、今後の働き方には不可欠なのではないでしょうか。
職場の多様性が求められる今、誰もが「自分らしい働き方」を選べる社会であってほしい——。その一歩として、昇進に対する価値観が見直され始めた今こそ、私たち一人ひとりがキャリアの可能性に向き合うタイミングなのかもしれません。