都心の道路に立ち、「通せんぼ」する人——そう聞くと、一体何の仕事かと不思議に思う方も多いのではないでしょうか。実はこの仕事、建設工事や道路工事の現場で通行人や車両の安全を確保する「交通誘導警備員」のこと。今回話題になっているのは、都内のある現場でこの交通誘導警備員に日給1万6000円という高額報酬が提示されているというニュースです。
この記事では、「通せんぼの人」とも揶揄されるこの仕事の本質や、なぜ今このような高い日給が話題となっているのか、その背景や実態について掘り下げてみたいと思います。
交通誘導警備員の役割とは？
「交通誘導警備員」と聞いてイメージするのは、工事現場やイベント会場、または駐車場などで赤い誘導灯を持って指示を出している姿ではないでしょうか。彼らの主な役割は、人と車の通行を円滑かつ安全に進めること。特に工事現場では、重機や車両が出入りする中で通行人や運転手が不意の事故に遭わないよう、的確に誘導することが求められます。
一見すると簡単な業務に見えるかもしれませんが、実際には事故を未然に防ぐための重要な責任を担っており、集中力や状況判断力、人とのコミュニケーション能力などが必要です。また、気温の変化が激しい屋外で長時間立ち続けなければならない肉体的な負荷もあります。
なぜ今、日給が上がっているのか？
記事によると、都内某所で交通誘導警備員に「日給1万6000円」を支払う求人が話題になっています。この金額は、警備業界の中でも比較的高い水準。東京都の最低賃金が時給1113円（2024年4月時点）であることを考えると、その約1.5倍以上の時給となる計算です。
この背景にはいくつかの理由があります。
1. 慢性的な人手不足
交通誘導警備員は、高齢者層を中心に活躍している職種ですが、近年は人手不足が顕著になっています。特に若者の担い手が少なく、慢性的な人員不足が続いているのです。このような状況の中、高額な日給を提示することで応募者を集めようという動きが強まっています。
2. 東京再開発ラッシュとインフラ整備
東京都心では再開発事業が進行しており、道路工事や建設現場が相次いでいます。加えて、老朽化したインフラの改修や国際的なイベントに向けた都市整備も進んでおり、工事現場の数が増加傾向にあります。工事現場が増えればその分、交通誘導警備員の需要も高まるため、必然的に人員確保のための賃金引き上げが行われるのです。
3. 資格や研修の充実による専門性
交通誘導警備員として現場に立つためには、警備業法に基づいた指定研修を受講する必要があります。さらに、通行車両や歩行者を安全に誘導するには一定の資格や経験も求められることから、単純労働とは異なる専門職としての価値が高まっています。その結果、ベテランの警備員には高い報酬が提示されやすくなっているのです。
「通せんぼ」以上の価値を担う現場の縁の下の力持ち
インターネット上では「立ってるだけの仕事」「通せんぼしてるだけに見える」といった誤解を持たれることもある交通誘導警備。しかし、実際には過酷な環境の中で市民の安全を守っている縁の下の力持ちなのです。
例えば、通学中の子どもたちや年配の通行人が安心して横断歩道を渡れるのも、彼らの的確な判断と誘導があってこそ。また、大型車両が狭い工事現場から安全に出入りできるのも、彼らが前後左右の安全を確認して誘導しているからに他なりません。
現場での一日は想像以上にハード
実際の勤務では、真夏の炎天下や真冬の厳しい寒さの中での業務が当たり前。立ちっぱなしでの勤務時間が6〜8時間にも及ぶこともあり、体力的に厳しいと感じる人も少なくないようです。水分補給や休憩時間の確保、熱中症対策など、現代の労働環境に配慮されたサポート体制も徐々に整えられてきていますが、それでもハードであることに変わりはありません。
だからこそ、きちんとした報酬が支払われるべき職業であり、今回の日給1万6000円という水準は、労働の対価として適正であるとの声も多数見られます。
今後の交通誘導警備のあり方と課題
現場の安全維持に貢献する交通誘導警備員ですが、今後の課題としては人材の確保と育成が挙げられます。若い人材の参入が少ないことから、高齢化が進んでいるのも実情です。そのため、より魅力的な労働環境を整備することや、業務のデジタル化・効率化によって負担を軽減する取り組みが求められています。
また、世間一般の「ただ立っているだけ」という誤解を解消し、交通誘導警備の社会的重要性をもっと広く認識してもらう啓発活動も今後必要でしょう。
まとめ：見落とされがちな「安心の要」に光を
工事現場やイベント会場の陰で、事故や混乱を未然に防いでくれている交通誘導警備員。ありふれた風景のようで、実は社会にとって必要不可欠な存在です。
今回の「通せんぼの人に日給1万6000円」という話題は一見すると驚きを持って受け取られるかもしれませんが、その裏には人手不足や業務の厳しさ、安全への配慮といった現実が詰まっています。
安全は誰かが守ってくれているからこそ成り立つもの。このような現場労働に対する理解と感謝の気持ちを新たにし、より良い労働環境づくりとその社会的評価の向上が求められる時代になってきています。
私たちが何気なく歩く道、そのすぐ脇で汗を流す人たちに、改めて目を向けてみてはいかがでしょうか。
