2024年5月、自由民主党所属の小泉進次郎衆議院議員が、自身の政治信念に基づいて農業政策に関する見解を述べた発言が話題となっています。該当の発言は、全国農業協同組合中央会（以下「JA全中」）が提案する農業政策に対する一定の距離を感じさせ、「忖度しない」との表現でその姿勢を明らかにしたものです。この発言を受けて、JA関係者の一部から反発の声が上がっていると報じられています。本記事では、この動きの背景にある農業政策の課題、政治家としての小泉氏の立場や姿勢、また今後の農業改革の方向性について考察してみたいと思います。
■ 小泉進次郎氏の発言とその背景
小泉進次郎氏は、環境問題や農業分野においても積極的に意見を発信し続けていることで知られています。特に第一次産業である農業の未来に関しては、先進的な技術の導入やグリーン成長との整合性を重視する姿勢を見せてきました。今回の「忖度しない」という発言は、国内の農業政策に大きく影響を持つJAの提案を鵜呑みにせず、あくまで政治家として中立かつ冷静な判断を重視する姿勢を表明するものでした。
この発言の背景にあるのは、日本農業が抱える深刻な課題への対応です。高齢化による担い手不足、国内消費の減退、食糧自給率の低下、そしてグローバルな気候変動への対応など、農業を取り巻く環境はかつてないほどの変化に直面しています。こうした時代において、小泉氏は「従来型の農業支援の在り方」と「これからの時代の農政」に間にあるギャップを突き詰めようと試みています。
■ JAの果たす役割と摩擦の芽
JAは日本の農業を支える重要な組織です。生産資材の供給、農作物の流通から、金融・保険サービスまで多岐に渡り農村社会を支え続けてきました。しかし一方で、組織の大規模化や一部の行政的側面が「既得権益」として見られることもあり、近年ではその在り方が議論の対象とされることも増えてきました。
特に農政改革を推進しようとする政治家からは、「もっと現場の農家が自由に意思決定する体制が必要」との声が根強くあり、ある程度JAの組織構造にメスを入れることが必要ではないかという意見も見られます。ただし、JA関係者やそこに属する農家にとっては、そうした議論が即ち支援体制の劣化と捉えられ、不安感を呼ぶことも事実です。
小泉氏が「忖度しない」と発言したことは、こうした複雑な関係を背景に持ちながら、特定団体の利害とは一線を画した政治判断を重視するという、政治家としての信念を明示したものでしょう。
■ 農政改革の必要性
現在、日本国内の農業は大きな岐路に立たされています。農家の平均年齢は約68歳とされ、若手の就農者は依然として少数にとどまり、後継者問題が深刻です。その一方で、テクノロジーの進展により、アグリテック（農業×テクノロジー）の導入が徐々に広まりつつあり、省力化や生産性の向上が期待されています。
こうした新しい時代の農業に対応するためには、既存の構造では不十分な部分も出てきます。新規参入の障壁を取り払い、地方自治体やベンチャー企業との連携、環境に配慮したサステナブル農業など、「変えること」を怖れずに進む必要があります。
当然、変化には痛みが伴うものであり、それに対するサポートや理解を得る過程もまた不可欠です。小泉進次郎氏のように、「誰に忖度するでもなく、何が今必要なのかを考える」姿勢は、多くの立場を超えて共感を持って受け入れられる可能性もあります。
■ 国民との対話を深める農政を
政治家が特定の団体ではなく、広く国民の利益を考えて政策を判断することは、民主主義の基本でもあります。各利益団体が自らの立場を主張し、その中で最適な解を導き出すことが、政治の役割です。
「忖度しない」との姿勢は、農業に限らず様々な分野において求められています。特に食糧安全保障が重要視される昨今において、国民一人ひとりが農業の未来に関心を持ち、多様な視点から議論に加わることが求められています。
小泉氏のような発言がきっかけとなって、より開かれた農政、対話を重視する制度設計が進んでいくことを期待したいものです。それはJAにとっても今後の存続と信頼性向上に寄与する道であり、農業全体の持続的成長にもつながります。
■ 今後に求められるリーダーシップ
今、日本の農業は国家的な観点からも極めて重要な課題です。世界的な食糧需給の変化、輸入依存の危うさ、さらには地球規模で続く気候変動の影響を考慮すると、自給体制の見直しや農村経済の再生が急務です。
こうした課題を乗り越えていくためには、単なる延命的な対策ではなく、本質的な制度改革と未来志向のビジョンを掲げたリーダーシップが不可欠です。小泉氏のように、過去にとらわれず、現場の声に耳を傾けながらも高い視座で物事を判断する政治家の存在が求められます。
もちろん、実際の政策転換には多くのステークホルダーとの協調と時間が必要です。しかし、まずはその一歩を踏み出す「決意」と「方向性」が重要であり、その意味で今回の発言は一石を投じるものとして注目されているのでしょう。
■ 終わりに ～私たちも農業の未来を考えよう～
政治の世界で交わされる議論は、時に遠い話のように感じられるかもしれません。しかし、誰もが毎日食事をする以上、農業はすべての人に関わる問題です。今後も、テクノロジー、環境、社会の変化に対応しながら、日本の農業がより強く、しなやかに発展していくためには、私たち一人ひとりが関心を持ち、意見を持つことが大切です。
「忖度しない」という言葉には、現場の農業者、消費者、そして未来の世代に対して真摯に向き合おうとする意志が込められているのかもしれません。その熱意を無駄にせず、今後の議論に期待を寄せつつ、自分にできる関わり方を探ることが、私たちに求められている姿勢なのではないでしょうか。
