「心ない言葉も トイレ清掃ボラ30年」
ある女性の歩みが、今多くの人々の心を打っています。女性は、静岡県沼津市に住む山本ゆかりさん。彼女は、30年もの長きにわたり、公園や道路など公共の場所のトイレ清掃ボランティアを続けてきました。誰もがつい避けたくなるような仕事。ときには感謝どころか、心ない言葉を浴びせられることもありました。それでも山本さんは、毎日トイレと向き合い続けました。
この記事では、山本さんのこれまでの歩みを振り返りながら、人知れず社会を支える“縁の下の力持ち”としてのトイレ清掃ボランティアの大切さと、日々人を支える行動に宿る温かさについて紹介します。綺麗な環境が当たり前と思われがちな現代社会において、自らの信念だけで黙々と公共空間の美化に身を投じてきた一人の女性の物語には、私たちが当たり前と思っている多くのことを、見つめ直すヒントが溢れています。
30年間、誰のために、なぜ?
山本ゆかりさんがトイレ清掃ボランティアを始めたのは、今からおよそ30年前のこと。きっかけは、子ども時代の記憶と地域への思いでした。小学生の頃、公園のトイレが非常に汚れていて、嫌な思いをしたことがあった山本さん。子育てを終えた後、「誰かがやらなくてはこの状況は変わらない」と一念発起。清掃道具を手に取り、一人での活動を始めたのです。
それ以来、ほぼ毎日、雨の日も風の日も欠かさずに、沼津市内の公園や市街地の公衆トイレ、駅周辺の施設などを自らの手で掃除し続けてきました。その数は200箇所以上に及ぶといいます。
行動は静かでも、想いは熱く
山本さんの活動は、決して派手なものではありません。誰かに見せるためでもなく、名誉や報酬を求めるためでもなく、「自分自身が汚れている場所を見たくないから」「地域に気持ちの良い環境を提供したいから」という想いだけで続けられてきました。
しかしその道のりは決して平坦ではありませんでした。ときには「何をしているの?迷惑です」と無理解な言葉を投げかけられたことも。さらに、トイレを利用した人がせっかく清掃した直後に汚してしまったり、ごみにまみれていたりすることも少なくありませんでした。
それでも、山本さんは黙々と自分の使命と向き合い続けました。「ほんの一瞬でも綺麗だったと感じてもらえれば、それでいい」と、彼女はこぼします。
「ありがとう」の言葉に支えられて
長年にわたる活動の中で、山本さんの存在を知り、感謝の言葉をかけてくれる市民も増えてきました。通勤中の会社員、小さな子どもを持つ母親、近くの学校の学生など、様々な人たちが「いつもありがとうございます」「お疲れさまです」と声をかけてくれるのです。
ある日、山本さんが掃除をしていたところ、80代の男性がベンチに腰かけてずっと見守っていたといいます。帰り際、その男性はそっと一言、「あんた、天使みたいだな」と微笑んで去って行ったそうです。
何物にも代えがたいその一言に、山本さんは涙が止まらなかったと言います。心の奥からこみ上げる喜びと、報われたという思いが、日々の苦労を和らげてくれました。
地域を照らす、小さな光
山本さんの活動は、沼津市にも少しずつ認められ、最近では一部の清掃道具が提供されたり、地元メディアで取り上げられたりするようになってきました。しかし彼女は言います。「私は特別なことをしているつもりはないんです。本当は、誰でもできること。ちょっとした気遣いの積み重ねが、大きな変化を生むんです」
公共トイレがきれいであるということは、単に衛生的ということにとどまらず、地域のモラルや人々の心の在り方を映す鏡でもあるのかもしれません。山本さんは、誰かのためにというよりも、「自分がそうしたいから」行動していると語ります。
私たちが学ぶべきこと
私たちの日々の暮らしの中で、どれだけ多くの「当たり前」に支えられているかを改めて考えさせられる今回のエピソード。街に溢れるゴミが片付いているのも、トイレが清潔に保たれているのも、そこには誰かの見えない労働と善意があります。
何かを変えるには、大きな力や立場が必要だと思いがちですが、実は毎日の小さな行動こそが、最も強力な社会変革の一歩なのかもしれません。山本さんのように、黙って行動する人の存在が、社会をより良い方向へ導いているのです。
そして、そんな努力に私たちができることは感謝の気持ちを伝えること。それは特別なことをする必要はありません。「ありがとう」の一言、その人がいてくれることの意味を理解し、尊重する姿勢が、社会を優しくする第一歩だと思います。
最後に
山本さんの生き方は、あらゆる人にとっての道しるべです。他人に優しく、自分にも正直に。目立たなくても、自分が信じる道を歩み続けることの尊さ。清掃という行動を通して、30年にわたり地域を支えてきた山本さんの姿勢から、私たちは多くのことを学ぶことができます。
これから私たちができること。まずは、身近な場所を少し綺麗にすることから始めてみるのはどうでしょうか。そして、そのような活動をしている方を見かけたら、ぜひ一言「いつもありがとうございます」と伝えてください。その言葉が、誰かの背中をそっと押してくれるはずです。