エーゲ海の宝石、サントリーニ島。紺碧の海を望む真っ白な家並み、夕陽が沈む瞬間に丘を染めるオレンジ色のグラデーションは、世界中の旅人を魅了してやみません。ギリシャにあるこの小さな島は、特にインスタグラムなどSNSの影響もあり、ここ10年で人気が急増し、今やヨーロッパのみならず世界中の観光客の憧れの的となっています。
しかしながら、その人気の裏で浮かび上がったのが「観光公害」という深刻な問題でした。美しい景観が毀損され、地元住民の生活にも影響が出るほどの観光客の増加を受けて、ついにサントリーニ島が「観光客数の制限」という画期的な方針を打ち出しました。
今回は、なぜサントリーニ島が観光客数の制限に踏み切ったのか、その背景と実際の影響、そしてこれからの持続可能な観光のあり方について掘り下げていきたいと思います。
サントリーニ島が抱える課題とは?
サントリーニ島は、全長約18kmと小さな島ながら、年間訪問者数は100万人以上にも上ります。その多くは夏のハイシーズンに集中して訪れるため、わずかな土地に一気に押し寄せる観光客により、交通渋滞、水資源のひっ迫、ゴミ処理問題など、様々な社会インフラが限界を迎えていました。
特に近年問題視されていたのが、クルーズ船での訪問者の急増です。1日に最大で1万人近いクルーズ船の乗客が島に上陸し、わずか数時間で島の中心部に密集するという現象が頻発していました。そのため、観光スポットでは人があふれ、写真映えするスポットでは常に行列ができ、本来の美しさが人混みによって感じにくくなっているという声も増えていました。
また、短期間で大量の観光客が訪れることで、地元のサービス業に過度な負荷がかかり、住民の生活の質を損なっているとの指摘もあります。家賃の高騰や物価の上昇も見られており、地元の若者たちが島外に移住を余儀なくされるケースも増えているそうです。
サントリーニ島の新たな施策:年間訪問数の上限設定
こうした背景を受けて、ギリシャ政府およびサントリーニ島の自治体は、観光の持続性を考慮し、「観光客数の制限」という新たな方針を決定しました。
新たな施策では、年間訪問者数に上限を設け、特にクルーズ船に関しては1日に上陸できる観光客数を制限する予定です。詳細な数値は今後の自治体の運用指針に基づいて決定されますが、観光業者との調整を図りながら、科学的なデータと地元住民の意見を反映したバランスのとれたマネジメントを目指すとのことです。
この施策は「観光業の排除」ではなく「観光の質を高める」ための手段としてとらえられています。観光客一人ひとりがサントリーニ島でより深く、より豊かな体験ができるようにするには、一時的な訪問者数を減らすことで、真の魅力を保ち、将来世代にも残していく必要があるという考え方です。
世界的な傾向:持続可能な観光への移行
サントリーニ島の方針転換は、実は特異なケースではありません。近年、ベネチアやバルセロナ、アムステルダムなど多くの観光都市でも同様の問題が表面化し、一部の都市では観光税の導入や、入場数の制限など様々な対策が試みられています。
世界的に「オーバーツーリズム(過剰観光)」の影響が認識され始め、各国で持続可能な観光への取り組みが加速しているのです。こうした動きは、観光に携わる業界にとっては大きな転換点であり、今後の観光のあり方を問い直す重要な議論の一つとなっています。
私たち観光客にもできること〜持続可能な旅に向けて〜
ここで一度、私たち一人ひとりが観光という行為の意味を見直してみる必要があるかもしれません。
「行くだけで満足する旅」から「土地に敬意を払い、心から体験する旅」へ。
例えば、観光地を調査して繁忙期を避けて訪れる、ゴミを持ち帰る、地元の店舗やレストランを積極的に利用する、多くを消費するのではなく質の良い体験を選ぶ。このような取り組みは私たち個人のレベルでも十分可能です。
また、SNSなどを通じて情報を拡散する際には、場所の美しさだけを切り取るのではなく、その土地の文化や歴史、そこに住む人々の営みにも目を向けて発信する意識が重要になるかもしれません。
まとめ:未来につなげる旅をサントリーニから学ぶ
サントリーニ島が打ち出した「観光客数の制限」という大きな決断は、観光による経済効果と地域の持続可能性というジレンマの中で、ひとつの答えを提示したものといえるでしょう。
旅は、心を豊かにし、人生を彩る素晴らしい経験ですが、その美しい風景や人々との出逢いがいつまでも続くようにするためには、訪れる私たち一人ひとりの意識も変わっていかなければなりません。
「美しい場所を守る旅」—これから私たちは、そうした視点を持った新しい旅のスタイルを模索する時期に来ているのかもしれません。
サントリーニ島の取り組みをきっかけに、観光の未来とその責任について、私たち自身も思いを巡らせてみませんか。