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中国・ロシア共同声明から対日批判が消えた理由──揺れる三国関係とアジア外交の行方

2024年5月22日に行われた中国とロシアによる首脳会談の共同声明に注目が集まっています。当初、中国とロシアのメディアで報じられた声明には、日本に対する強いけん制と受け取れる文言が含まれていましたが、その後中国外務省の公式日本語訳からそれらの記述が削除されていたことが明らかになりました。この記事では、その経緯や背景について解説しながら、日中露三国の外交の現在と今後の展望について考察してみたいと思います。

中国とロシアの関係の強化

2024年5月16日、ロシアのプーチン大統領が中国・北京を訪問し、習近平国家主席と会談を行いました。この首脳会談は、ロシアによるウクライナ侵攻が続く中で行われたもので、国際社会からの視線も強く注がれていました。

共同声明では、両国が「戦略的包括的パートナーシップ」を改めて確認し、またいかなる第三国による妨害、圧力にも屈しないという姿勢を打ち出しました。このような姿勢は、米国やNATO諸国、また日本などが主導する「自由で開かれた国際秩序」に対抗する形とも受け取られます。

日本に関する文言の扱い

当初、中国とロシアの共同声明、あるいはそれを基にしたメディア報道には、日本に対して明確にけん制する文言が含まれていました。たとえば、日本がNATO諸国やアメリカとの安全保障協力を強化していることについて、「アジア太平洋に対する軍事的圧力の拡大」、「他国の正当な安全保障上の利益を損ねる行為」といった批判と受け取れる記述が見られました。

ところが、後日、中国外務省が発表した日本語版の公式共同声明からは、これらの記述が削除されていたのです。中国外務省のウェブサイトには中国語や英語の共同声明が掲載されていましたが、当初報じられていた文言と比べて、トーンがかなり抑えられていることが指摘されています。

この削除の意図について、中国政府から正式な説明はされていませんが、日中関係に対する配慮、あるいは外交的なバランスを取る動きの一環ではないかという見方もあります。

背景にある中国の対日思惑

中国は、経済的にも地政学的にも日本との関係を重視しています。米中間の戦略的競争が激化している中で、日本はアジア太平洋地域において重要な位置を占める国です。日本との対立が激化すれば、自国の経済運営や外交に深刻な影響を及ぼすことは避けられません。

近年、中国は従来の強硬一辺倒の外交姿勢を見直し、多面的な接近を図る傾向があります。具体的には、「戦狼外交」と呼ばれた強硬外交路線を部分的に修正し、協調的なメッセージを送る場面も増えてきています。今回の声明文削除も、その一環と考えられます。

しかし、それでも現実には南シナ海や東シナ海での領有権をめぐる緊張、台湾を巡る問題など、日中間にはいくつかの懸案事項が存在します。中国側が日本を明確に批判する文言を声明から削除したからといって、日中関係がすぐに良好になるわけではありません。ただ、少なくとも外交的な火種を意図的に抑制しようとする努力の一端は見られると言えるでしょう。

ロシアとの関係で浮き彫りになる中国の立ち位置

一方、ロシアは国際社会の中で孤立を深めており、中国との連携を強化することで、自国の立場を支えている状況です。特に経済面では、中国はロシアの主要な貿易相手国であり、エネルギー輸入の拡大、ルーブルと人民元の直接決済などで協力関係を深めています。

ただし、中国にとってもロシアとの連携には慎重にならざるを得ない側面があります。中国は欧米市場へのアクセスを維持したいという思惑もあり、ロシアとの蜜月があまりに目立つと、制裁や信用リスクの対象となり得るからです。したがって、中国としてはロシアとの連携姿勢を見せつつも、外交文章などでは曖昧さを残し、柔軟な対応が可能な状態を維持しようとしているように見えます。

アジア太平洋地域の安定を目指して

このような背景の中で、アジア太平洋地域は新たな安全保障の枠組みや経済関係の再構築が求められています。日本はアメリカ、オーストラリア、インドといった民主主義国家との連携を強めていますが、一方で中国やロシアを排除する形にしてしまうと、地域の分断を生むリスクもあります。

日本にとっても、中国およびロシアとの安定した関係を築くことは、地域の平和と繁栄のために非常に重要です。今回のように、共同声明から対日批判の文言が削除されるという動きは、小さな変化かもしれませんが、一つの外交的なシグナルとも捉えることができるでしょう。

これから求められるのは、信頼構築のための対話の継続と、国際的なルールや秩序を尊重する姿勢です。一方的な圧力や威嚇的な行動ではなく、互いの立場を理解し合う中での歩み寄りが、長期的な安定につながります。

まとめ

今回の中露共同声明における日本へのけん制発言の削除は、中国が日本との関係をいかに慎重に扱おうとしているかを示す出来事でした。表向きはロシアとの連携強化を進めつつも、過度な対立を避けようとする中国の姿勢は、アジアにおける安全保障の潮流にも影響を及ぼす可能性があります。

今後も、日本は関係各国との対話を重ね、地域の安定と平和に向けてリーダーシップを発揮していく必要があります。政府の外交判断だけでなく、私たち一人ひとりの国際社会に対する理解と関心もまた、未来の平和な世界を築く上で重要な要素となるのではないでしょうか。