Uncategorized

エンタメを蝕む“転売経済”──ファンの熱意が奪われる現代のジレンマ

近年、人気のエンタメ商品──たとえばコンサートチケット、限定フィギュア、トレーディングカード、さらにはゲームやアニメ関連のグッズなど──が発売と同時に完売し、直後にフリマアプリやオークションサイトに高額で出品されるという状況が後を絶ちません。いわゆる「転売問題」は、日本のエンタメ業界にとって深刻な懸念事項となっています。

2024年4月に報道された記事「転売横行 エンタメ商品狙われる訳」では、この問題に関する現状と取り巻く要因についての詳細が取り上げられており、私たちの「誰に渡るべきか分かっているはずの人気商品が、なぜ正規のファンではなく転売業者や一部の投資目的ユーザーの手に渡るのか」という問いに対する手がかりが詰まっています。

今回は、この転売問題がなぜここまで増加しているのか、どのような影響を社会やファンに与えているのか、そして今後の対策についても考えてみたいと思います。

転売がエンタメ商品を狙う理由

エンタメ商品が転売のターゲットになりやすい背景には、需要と供給のバランスが大きく関わっています。人気アーティストのライブチケットや限定生産グッズは、ファンの需要に対して供給数が極めて限られていることが多く、こうした「入手困難=プレミア感」の存在が、転売価格の上昇を促しています。

また、近年のスマートフォン普及とネット販売の拡大により、予約や購入のプロセスが誰にとっても容易になったこともあり、転売目的で商品を購入する動きが一層活発になっています。加えて、フリマアプリや二次流通サイトの存在も、商品を転売して利益を得る手段としての敷居を低くし、結果として「儲かる副業」として転売が注目されるようになってきました。

転売の実態とファンのジレンマ

記事にもあるように、たとえばトレーディングカードやアイドルグッズなどは、発売後に即完売し、数倍の価格で二次流通市場に出回っています。ファンとしては何時間も並んだり、抽選に応募したりしてようやく手に入れられるはずの商品が、転売業者の手に渡り「商品=投資対象」として扱われる様を見ると、純粋に応援したいという気持ちが打ち砕かれてしまいます。

実際、ファンの中には「転売価格でも欲しい」ために仕方なく購入する人もおり、そのような消費行動が転売ビジネスの利潤構造を支える結果ともなっています。一方で、「応援しているアーティストに利益が還元されないので、転売からは買いたくない」と購入を諦めるファンも多く、こうした不公平感がファンコミュニティに軋轢を生む原因にもなっています。

販売側も追いつかない対策体制

アーティスト側やメーカー側も、もちろんこの問題を黙認しているわけではありません。たとえば、入場時に本人確認を徹底するチケット販売方式や、限定商品の販売における抽選制の導入、購入履歴やIDごとの販売制限など、様々な取り組みがなされています。しかし、転売業者も巧妙に対策をすり抜けてくるため、「いたちごっこ」状態で本質的な解決には繋がっていないのが現状です。

また、一次流通での販売価格が適正であっても、商品が即完売する状況が続くことで、「欲しい人に届かない」ジレンマが解消されません。あるアーティストの現場では、「ファンクラブに10年以上入会しても、チケットが取れない」という声が上がり、転売による供給混乱が明らかにファン体験を損なっている事例が散見されます。

法律との関わりと規制の動き

日本国内でも2019年には「チケット不正転売禁止法」が施行され、ライブなどのチケットに関しては正規の再販以外での高額転売が禁じられるようになりました。しかし、エンタメ商品の中でもグッズやカードなど物理的な商品については現時点で明確な規制が存在していません。

一部の自治体では条例で転売行為の抑止に取り組んでいますが、全国的に効果を発揮するには限界があります。これに加えて、個人間取引や海外サイトを利用した販売など、法の目が届きにくい形での転売が横行しており、根本的な対応が求められているのです。

私たち一人ひとりにできること

では、このような状況の中、私たち一般ユーザーやファンは何ができるのでしょうか。

まず大切なのは、「転売からは買わない」という選択肢を意識することです。もちろん、欲しい商品やチケットがすぐに手に入らないことは悔しいものですが、需要がある限り転売業者は活動を続けます。よって、購入しないという行動が転売の市場価値を下げ、自然と減少へつながるという見方もできます。

また、販売元に対して「正規のファンに商品が届く仕組みを構築してほしい」といった声を上げていくことも重要です。消費者の声は大きな力を持ち、各企業がより良い販売方法の検討に繋げる契機となるでしょう。

さらに、SNSなどを通じて、ファン同士の情報共有を行い、悪質な転売事例や疑わしい販売情報には注意喚起することも一つの対策となります。

今後、より良いファン体験のために

エンタメは、私たちの生活に彩りや感動、心の豊かさをもたらしてくれる貴重な存在です。ただ、それを支えるはずのグッズやチケットが適切に流通せず、一部の業者による利潤の道具となってしまっては本末転倒です。

転売の背景には、もちろん経済的な要因やデジタル社会の進化など複雑な構造がありますが、それでも「誰のために作られた商品なのか」を忘れずに考える視点が大切です。

私たち消費者、そして販売元や行政も含めた社会全体でこの問題に取り組むことで、本来あるべき「ファンが楽しめるエンタメ市場」への回帰が期待されます。転売の波に抗いながらも、正規のルートで確実に「応援」の気持ちが届く未来を目指して、今こそ私たちの意識を問い直す時かもしれません。