近年、20代という若い世代の間で「終活」に取り組む人が増えていることが注目されています。これまで終活といえば、主に高齢者が自身の人生の終わりを見据えて行う準備であり、遺言の作成や財産の整理、葬儀の希望、エンディングノートの記入などが代表的でした。しかし、最近の調査によって、意外にも20代の若者が終活に関心を持ち、実際に具体的な行動を取っていることが明らかになっています。
この記事では、葬儀社「よりそう」による調査結果をもとに、若年層で広がる終活の背景や、彼らが抱える思いや不安、そして今後の社会に与える影響などについて考察していきます。
終活に取り組む若者の増加背景
この調査では、終活の相談を行った20代が、2020年度に比べて2023年度には約4倍に増加していることが分かりました。従来のイメージとは一線を画すこの傾向に、多くの人が驚きを隠せないのではないでしょうか。
その背景には、コロナ禍における価値観の変化があります。予期せぬ病や災害、事故によって若くして命を落とす人が増えたことで、20代であっても「自分の死」や「残された家族への影響」についてリアルに考える機会が増えたと考えられます。
また、SNSの普及により、個人の人生観や死生観がより開かれたものとなり、「死＝忌避すべき話題」という考え方から脱却しつつあることも一因でしょう。終活はもはや、年配者だけのものではなく、「今をどう生きるか」に向き合う若者の選択肢の一つとして認識され始めているのです。
若者が抱える不安と終活
20代で終活を始める人々は、実際にどのような思いを抱えているのでしょうか。調査結果によると、20代相談者の中には「家族に迷惑をかけたくない」「遺された人に少しでも安心してほしい」という声が多く見られました。
例えば、「ペットを飼っているけど、自分に何かあった時に誰が面倒を見るのか心配」「自己表現として、自分らしい葬儀を残したい」といった現実的かつ感情的な理由が挙げられています。このような思慮深い行動は、単純に「早すぎる終活」ではなく、かえって「自分と向き合い、他者を思いやる」行動として高く評価されるべきかもしれません。
加えて、核家族化や単身世帯の増加、地域コミュニティの希薄化といった社会的背景も大きな影響を与えていると考えられます。身近に頼れる人が少ない今の時代、万一のときに備えて早い段階から自立的に考え始める若者が増えているのは、ある意味で現代社会の縮図とも言えるでしょう。
終活を「前向きな人生設計」として考える
終活は、「死」と向き合うというイメージから、どこか暗く、重々しいものと思われがちです。しかし、実際には「自分の理想の人生を再確認する」「これからをより良く生きるための準備」という側面も大きいのです。
例えば、エンディングノートの記入を通じて、自分が何を大切にして生きているのか、どんな人間関係を築きたいのか、達成したい夢は何かを見直すことができます。そして、不測の事態に備えると同時に、今この瞬間を大切に生きることの大切さに気づかされるでしょう。
20代で終活を行う人たちも、決して命の終わりを嘆いているわけではなく、むしろ「終わりを見据えるからこそ、その過程を豊かに生きていたい」と考えています。これは、終活がネガティブなものではなく、むしろ前向きな人生設計ツールであることを如実に示しています。
若年層に向けた終活支援の必要性
こうした動きを受けて、今後は若い世代に対する終活支援のニーズも高まっていくことが予想されます。現在は高齢者向けに設計された終活サービスやガイドブックが中心ですが、20代・30代に親しみやすく、実生活に即したアイデアやツールの提供が求められるでしょう。
例えば、ミニマリズム的な視点でモノを整理する「生前整理は断捨離の延長」といったアプローチや、人生100年時代における長期的なキャリア設計、ペットの引き取り先を含む家族への配慮など、若者ならではの視点を持った終活が重要となります。
また、企業や自治体が終活セミナーやワークショップを若年層向けにも展開することで、「終活=老後の話」ではないというイメージの刷新にもつながります。若者が自発的に人生と向き合える環境づくりは、より温かく多様性に富んだ社会の構築にも貢献することでしょう。
まとめ：誰にでも訪れる”その日”に向けて
若くして終活に取り組む人が増えている現象は、単なるブームではなく、今を生きる私たちにとって非常に大きな意味を持っています。死を想うことは生を見つめ直すことでもあり、その準備が早い早いほど、より豊かで充実した生き方を送ることができるかもしれません。
「終活」を通じて、日々の生活を見直し、大切な人への思いやりを深める。それは決して重苦しいことではなく、むしろ一人ひとりの人生をより確かに、より心豊かに彩ってくれる大切なプロセスなのです。
若いからこそできる終活がある。自分自身と未来のために、一度立ち止まってみませんか？
