近年、相撲界では観戦マナーを巡ってさまざまな議論が持ち上がっています。伝統と格式を重んじる大相撲では、その特性上、観客にも一定の振る舞いが求められます。しかし、ここ最近の本場所では観客によるマナー違反が目立ち、SNS上をはじめとして多くの相撲ファンの間でも問題視されるようになってきました。
そして今回、「相撲で客がマナー違反 親方の思い」という記事が報道され、かねてより相撲界に身を置く親方の苦言が注目を集めています。本記事では、その内容に触れながら、観戦する側の心構えやマナーについて考えていきます。
観戦中のマナー違反が話題に
本記事の中心となっているのは、春場所（大阪場所）でのあるひと幕です。結びの一番で人気力士が取組を終えた後、テレビ中継の映像に映ったのは、観客席から土俵に向かって大量の座布団が投げ込まれる様子でした。この行為は大相撲の世界では昔から見られてきた文化であり、実力下位の力士が横綱に勝つような「金星」の時に喜びを表す形で投げられることが習慣化していました。
しかしながら、投げられた座布団が他の観客に当たる可能性や、選手への危険を伴うことから、相撲協会は近年、この座布団を投げる行為を公式に「禁止」しています。にも関わらず、今場所ではその規制を無視するように多数の座布団が投げ入れられたのです。
また、それだけでなく、取組中の大きな掛け声や、場内の静寂を破るような応援の仕方をする観客も確認されています。観戦を楽しむ気持ちは誰しも持っているものですが、過度な私語や不適切な行動が周囲の鑑賞体験を損なってしまう可能性があるのです。
親方の思い、そして願い
今回、報道された記事内では、長年相撲の世界で土俵に立ち続けてきた元横綱の親方が、こうした観客のマナー違反について苦言を呈しました。その言葉は優しさと厳しさのバランスを持っており、「相撲はただのスポーツではなく、『心』を大切にする武道である」と強調しています。
彼の言葉には、力士たちの並々ならぬ努力と覚悟、そして命をかけた取組に対する深い敬意がにじんでいます。親方は、観客一人ひとりがその覚悟を理解し、静かに見守る姿勢こそが相撲という文化の本質であると語ります。
特に注目されたのは、「声を出しての応援ではなく、心の中で力士の頑張りを感じ、拍手でその努力を称える」ことの大切さについての言及です。これはスポーツとしての相撲に限らず、人としての配慮とマナーを問われる言葉でもあり、多くの人々に響くものがありました。
相撲観戦の魅力とは何か
相撲観戦の醍醐味は、ただ勝敗を見届けることにあるわけではありません。その根底には、力士たちが約7秒間の取組に全身全霊をかけて臨んでいる姿や、土俵上の美しい所作、礼儀、静と動のコントラストがあります。
取り組み前に行われる塩撒きや、目を合わせて慎重に間合いを測る様子。さらには勝負の後に勝った力士も敗れた力士も、再び礼に始まり礼に終わるという流儀には、代々受け継がれてきた「礼の文化」が根付いており、それを尊重してこそ、観る側も相撲を「感じる」ことができるのです。
ところが、過度な応援やマナー違反は、その静謐な瞬間を壊してしまいます。力士の集中力を削ぐ恐れもありますし、周囲で観戦しているファンの体験を阻害することにもなりかねません。全ての人が「観客」としての意識を持ち、共にその一瞬に心を込めることで、相撲観戦の深みがより増していくのです。
ファンとしてできること
大相撲という伝統文化を未来に繋げていくには、力士だけでなくファンの協力も不可欠です。マナーを守ることはもちろん、その場の空気を感じ、力士へのリスペクトを持って接することが期待されます。
SNS時代において、個々の発言や行動が簡単に拡散される現代では、マナー違反が話題になればなるほど、相撲そのものの評判が問われることにも繋がりかねません。国技と称される相撲だからこそ、観戦する我々一人ひとりがその文化の担い手であるという自覚を持ちたいところです。
また、マナー違反が目についたときには、感情的に批判するのではなく、冷静な視点で「なぜそれがいけないのか」を知人や家族同士で共有することも大切でしょう。優しく声に出して伝える、あるいは手本となるような姿勢を示すこと。そうした行動が積み重なって、より良い観戦環境が形成されていきます。
伝統と現代が交差する場所としての相撲
大相撲は、日本の伝統文化であると同時に、今では海外から多くの観光客も訪れる日本を代表する「ショーケース」ともいえる存在です。当然、観戦する人々の多様性も増し続けており、昔ながらの価値観と現代の常識が複雑に交わる場となっています。
それでも、守るべき礼儀と思いやりの心は、時代が変わっても色あせるものではありません。力士たちが命をかけて土俵に立っているという事実、そしてその姿を正面から見つめ拍手を送るという観る者の想い。その間にある無言の信頼関係が、相撲という文化の美しさであると感じるのです。
おわりに
相撲観戦において、観客一人ひとりの行動が文化全体に影響を及ぼすことを、今回の記事は改めて教えてくれました。私たちファンができることは、観る側としての責任を果たすこと。それは、マナーを守ることに留まらず、相撲という日本の誇りを大切に育て続けるための一歩でもあります。
土俵上で繰り広げられる熱い勝負と、そこに漂う張り詰めた空気。その一瞬、一瞬を、心静かに、そして尊敬の念をもって見届ける——そんな”本当のファン”を増やしていくことが、これからの相撲界にとって最も大事な応援になるのではないでしょうか。
