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「6割が返済困難:新型コロナ特例貸付が映す“生活再建”の限界と今後の支援」

新型コロナ特例貸付の「6割が滞納」に — 生活再建の課題と今後の支援のあり方

2020年から続く新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、生活に困窮する人々を一時的に支援する目的で実施された「新型コロナ特例貸付制度」。厚生労働省は2024年5月、この特例貸付に関する実態調査の結果を公表し、制度の返済を開始すべき対象者のうち約6割が返済を滞納していることが明らかになりました。この数字は多くの人々にとって他人事ではなく、今なお続く生活の困難さや支援体制の課題を浮き彫りにしています。

本記事では、コロナ特例貸付制度の概要、今回の調査結果の背景とその意味、そして今後の支援のあり方について掘り下げて解説していきます。

■ コロナ特例貸付制度とは

コロナ特例貸付とは、新型コロナウイルス感染症の影響により収入が減少した世帯や失業を余儀なくされた人々に対し、無利子・保証人不要で一時的な生活資金を貸し付ける制度です。主に「緊急小口資金」と「総合支援資金」の2種類があり、自治体を通じて社会福祉協議会が貸し付けを行ってきました。

この制度は2020年3月から開始され、2022年9月末までにおよそ約285万件、総額6,800億円以上が貸し付けられました。原則として、2023年1月以降に順次返済が開始されることになっていましたが、多くの借り手にとって、返済開始は大きな負担となっている実態が浮かび上がりました。

■ 約6割が負債返済を滞納:厚労省の最新報告

厚生労働省が2024年5月24日に発表した調査結果によれば、すでに返済が始まっている約119万件のうち、約71万件が返済の遅延、もしくは未払いの状態にあるということが判明しました。つまり、全体の約6割が「返済の滞納」という現状に直面しています。

これらの内訳としては、返済に必要な手続きが行われていない、返済期日を過ぎても支払いがされていない、あるいは返済計画が立てられていないなど、さまざまな理由が存在します。特に、生活が依然として安定していない人々にとって、当初の計画通りに返済を進めることは容易ではありません。

■ 生活再建に立ちはだかる「現実」

多くの滞納者が直面している現実は、いまだに生活の再建が見通せないという厳しいものです。

医療・介護・飲食・観光など、人との接触が多い業種では、収入の回復が鈍いとの報告もあります。また、非正規労働者やひとり親家庭など、もともと生活が不安定だった世帯にとっては、特例貸付制度が一時的な救済にはなっても、その後の生活までを完全に支えるには不十分だったことが、この高い滞納率につながっているとも考えられます。

また、支援の「出口戦略」が十分に練られていなかったことも、この問題を深刻化させている一因と考えられます。返済開始のタイミングで、十分な生活再建の支援や就労サポートが行われなかったことで、多くの人が「返せない借金」を抱えることとなってしまったのです。

■ 滞納への対応と猶予措置

厚労省は、滞納に直面する個人に対して、「返済猶予が可能である」ことや、「償還免除(返済が不要となる制度)」の手続きもできることを改めて強調しています。

特に、現在も所得が一層減少している、あるいは失業中であるといった人々は、「償還免除」の対象になり得る可能性があります。ただし、多くの利用者がこの制度の詳細を充分に理解しておらず、手続きを行っていないという現状も明らかになっており、周知と手続きの簡素化が今後の課題となります。

さらに、自治体や社会福祉協議会においても、滞納を一律に「債務不履行」として処理するのではなく、個々人の事情に寄り添った対応が求められています。

■ 支援のあり方が問われる今、私たちができること

今回の調査結果が示すのは、パンデミックのような非常時における公的支援の重要性と、その「継続性」の大切さです。一時的な支援に終わらせず、生活再建に至るまでの道のりを行政・地域・社会全体でどう支えるかが喫緊の課題となっています。

私たちにできることは、単に制度を批判したり、不正受給を問題視するだけではなく、今まさに困難に直面している人々が必要な支援を受けられるよう、情報共有を進めることです。「返済が難しい」「手続きの方法が分からない」といった悩みを抱える人に向けて、正確な情報を提供したり、専門家へ相談に繋げる動きを広げていくことも、大切な取組みの一つといえるでしょう。

また、行政やNPO、社会福祉協議会といった支援団体がより多くの人にアクセスできるよう、周囲の人々が架け橋となることも意義深い行動です。

■ おわりに

新型コロナ特例貸付は、多くの人々が生活の危機に直面した中で設けられた、非常に重要な公的支援制度でした。しかし、約6割が返済を滞納しているという現状は、今なお多くの人々が「コロナ後」の生活再建のスタートラインにも立てていないことを物語っています。

一人ひとりの生活は数字だけでは語りきれない複雑な背景を持っています。だからこそ、個々の事情を尊重しながら、多方面からきめ細やかな支援を展開していくことが重要です。この制度によって始まった支援の輪が、将来にわたって持続し、困難を抱えるすべての人々を包み込む“セーフティネット”となるよう、私たち一人ひとりが理解を深め、助け合う社会づくりが求められています。