Uncategorized

日産、6708億円赤字予想の真相──一過性損失と見据えるEV未来戦略

2024年5月9日、日産自動車株式会社が2025年3月期の業績予想として、6708億円の連結最終赤字を見込む発表を行いました。この規模の赤字は日本を代表する大手自動車メーカーにとって非常に大きなインパクトであり、国内外の経済や自動車業界に与える影響も少なくありません。本稿では、日産が今回の大幅な赤字を計上する背景、その影響、そして今後の展望について、わかりやすくお伝えしていきます。

日産が赤字予想に至った背景

今回の赤字予想の主な要因は、「米国会計基準への移行による一時的なコストの計上」および「税制改革の影響」とされています。現在多くの日本企業がグローバル展開を進める中で、国際的な会計基準への対応は避けて通れない道です。日産もその一環として、これまでの日本基準から米国の会計基準(US GAAP)へ移行することを決定しました。

この移行に伴い、従来であれば数年にわたって分散されるはずだった費用が、会計上の要件により一度に計上されることとなり、今期の純損益に大きなマイナスインパクトを与える結果となったのです。また、法人税などの税制においても負担が大きくなり、税引前損益を圧迫しています。こうした事情から、営業利益や売上高は堅調であるにもかかわらず、最終的な損益としては大幅な赤字が予想される形となっています。

堅調な営業利益の裏にある事業戦略

興味深いのは、「営業利益」ベースでは、前年度比で増益を見込んでいる点です。つまり、本業そのもの、すなわち自動車の開発・販売・サービス提供に関しては回復基調が見られ、事業は順調に動いていることを示しています。

特に、北米市場におけるSUVや電気自動車(EV)の販売が堅調で、新型車種の投入も評価されています。さらに、コストダウンやサプライチェーンの見直しを進めることで、製造面でも効率化を達成しており、実際のビジネスの健全性は以前と比べて向上しているとも言えるでしょう。

つまり、今回の赤字は「構造改革に伴う一過性の損失」であり、本業の利益水準や企業価値そのものが大きく損なわれているわけではない点に注目する必要があります。

会計基準の変更とは何か?

今回赤字の大きな要因となった「会計基準の変更」について、多くの方にとっては馴染みがなく、なぜそれが損益に影響するのか疑問に思われるかもしれません。

実は、企業が算出する損益には様々な会計ルールがあり、例えば日本の会計基準と米国の会計基準では、資産の計上方法、減価償却、税金の扱いなどに違いがあります。日産が移行した米国基準では、研究開発費やリース契約の取り扱いなどが変わることにより、今まで費用として扱われなかったものが費用計上される場合などもあります。

これは企業の決算を国際的により比較可能なものとし、資金調達や株式市場での透明性を高めるメリットがある反面、移行初年度はどうしても損益が歪むリスクも持ち合わせています。日産もこうした移行の過程で、大規模な損失計上を余儀なくされたというわけです。

将来の成長に向けた取り組み

このような形で赤字予想が報じられると、その企業が「危機的状況にある」と見えることもありますが、日産の場合は将来に向けた前向きな投資や改革に取り組んでいる最中であることも理解しておきたい点です。

特に注目されるのが、「2030年ビジョン」に基づくEVの開発と生産拡大、そして電動化と自動運転技術に対する投資です。2020年代に入り、自動車業界は100年に一度の転換期と言われる中、EVやソフトウェアにおける技術革新が進んでいます。日産は「アリア」や「サクラ」といったEVを市場に投入し、その知見を元にさらなるモデル展開を図っている段階です。

また、世界各地での生産体制の見直し、パートナー企業との連携強化(ルノーや三菱自動車など)など、人材や資源を有効に活かした事業改革を進めています。この過程で生じる会計的な損失は短期的には苦しいものの、中長期的な競争力強化のための「必要投資」と捉えることもできます。

投資家や市場の反応

投資家や経済メディアの多くは、今回の赤字発表を受けて、短期的な株価下落を懸念しつつも「一時的なものであり、本業は堅調である」との評価を下しています。実際、日産の企業価値や技術力、EV市場における存在感は引き続き維持されており、長期的には持ち直しが期待できるとの見方も根強いです。

まとめ:一過性の赤字と未来への布石

今回、日産が発表した6708億円という巨額の赤字は、決して日産が業績不振に陥っているわけではなく、むしろ会計基準の変更や税制改革といった一過性の要因によるものであることがわかりました。そして、本業の事業運営は堅調に推移しており、EVや次世代技術への投資、グローバル戦略の再構築など、将来の成長に向けた取り組みが着実に進められている点にも注目したいところです。

私たちがこのニュースから受け取るべき教訓は、「数字の表面だけを見るのではなく、その背後にある要因と企業の戦略」を理解することの重要性です。日産は今後の自動車業界をリードする存在であり続けるべく、変革の真っただ中にあるのです。

今後も日産の動向に注目しつつ、私たち消費者も、持続可能なモビリティ社会の実現に向けて企業がどのような取り組みを行っているかに目を向けていくことが大切なのではないでしょうか。