岸田首相「政治資金規正法」改正案を閣議決定 進むか「政治とカネ」問題の解決
2024年6月6日、岸田文雄首相は自民党が中心となって調整を進めてきた「政治資金規正法」の改正案を閣議決定し、国会に提出する運びとなった。長らく国民の不信感を招いてきた「政治とカネ」の問題に対し、政界自らがメスを入れるかたちでの法改正は、今後の政権運営や来たる解散総選挙の行方にも大きく影響することが予想される。
今回の改正案では、政治資金収支報告書の透明性の向上や、政策活動費の使途公開の強化などが主な内容として盛り込まれている。とはいえ、野党や一部の有識者からは「抜け穴が多く、実効性に欠ける」「本質的な改革には程遠い」との批判も根強く、国会での審議は波乱含みだ。
この改正案を推進した岸田文雄首相は、1957年生まれの広島県出身。早稲田大学卒業後、銀行勤務を経て1993年に衆議院議員に初当選。宏池会(岸田派)に所属する保守本流の政治家で、第100代内閣総理大臣として2021年10月に就任した。
彼の政治姿勢は「聞く力」を標榜し、国民や党内の声を丁寧にすくい上げながら政策を進めるスタイルを特徴としている。しかし、その姿勢が時に「決断力に欠ける」と受け取られる場面もあり、支持率の浮き沈みを繰り返す局面もあった。
今回の改正案は、昨年末から今年初頭にかけて明るみに出た「裏金疑惑」に端を発する。複数の自民党派閥が、政治資金パーティーの収入の一部を政治資金収支報告書に記載せず、議員個人に分配していたとされるこの問題では、安倍派(清和政策研究会)を中心に多くの現職議員が批判を浴び、関係者の処分が相次いだ。政権の中核を担う自民党が信頼を失う一因ともなり、岸田首相は「信頼回復なくして政権運営なし」として、対応に追われた。
政治資金規正法は、政治資金の流れを透明にし、国民に開かれた政治を実現するための重要な法律である。1948年に制定されて以降、たびたび改正が行われてきたが、その都度、政治家による抜け道の発見や、実効性の薄さが問題視されてきた。
今回の岸田政権による法改正案では、パーティー収入について年間5万円を超える購入者の氏名の公開義務を引き下げ、さらに政治資金の使用明細の公開時期を短縮する案などが盛り込まれている。一方で、「政策活動費」という名目で議員に支給される資金については、「10年後の公開」とされており、情報の即時性という観点からは課題が残る。
この点について、野党各党は一斉に「骨抜き改革だ」と批判しており、今後の国会審議でも与野党間で激しい論戦が予想される。特に立憲民主党や日本維新の会は、独自の法改正案を提出しており、対案をぶつけ合うことで、より透明性の高い制度設計が求められることとなる。
岸田首相は、閣議後の記者会見で「国民の政治への信頼回復が私の責務であり、今回の改正はその第一歩です」と強調した。その表情には、政治改革にかける強い意志がにじんでいた。
岸田氏が総理に就任してからの約2年半、実にさまざまな危機に直面してきた。コロナ禍の後始末、ロシアのウクライナ侵攻に伴うエネルギー価格の高騰、それに関連した物価上昇、さらには防衛増税への反発といった内外の問題に加え、自民党内の派閥力学にも苦しんできた日々だった。
その岸田首相にとって、今回の「政治とカネ」の問題は、自民党という巨大政党が抱える構造的問題と真正面から向き合う試練とも言える。世論調査では依然として政権支持率は低空飛行が続いており、夏以降に噂される衆議院の解散総選挙に向けては、「政治に対する信頼の再構築」が最大の課題とされている。
今回の法改正が、国民の怒りや不信を真摯に受け止めた真の「リセット」につながるのか、それともまた形式的な「ガス抜き」に終わるのか――その答えは、これからの国会審議と、政府・与党がどこまで本気で改革に取り組むかにかかっている。
岸田文雄首相という人物は、かつて外務大臣としても活躍し、オバマ米大統領の広島訪問を実現させたことで国際的な評価を高めた人物でもある。その慎重かつ穏健な姿勢には一定の信頼があるが、今日のような困難な政局においては、時に果断な決断も必要とされる。
「自民党が生まれ変わらなければならない。そのきっかけを作るのが私の役割だ」。そう語ってきた岸田首相が、今回の法改正を政治生命をかけた賭けとするのかどうか。その覚悟が試される局面が、まさに今、始まっている。
国民は政治家に「清廉潔白」を求めているわけではない。嘘をつかず、ごまかさず、不正があれば気づいた時点で正す。最低限の誠実さと責任感があるかどうか、その一点が最大の関心事なのだ。
日本の民主主義と政治の信頼を取り戻すために、今回の法改正がどれだけの意味を持つのか。それは岸田首相はじめ、現職の国会議員一人ひとりの真摯な姿勢にかかっている。政治家自身が変わらなければ、政治そのものも変わらない。その自覚こそが、いまもっとも求められている。