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都市とともに息づいた経営者──角和夫氏が遺した関西再興の軌跡

阪急阪神ホールディングス元会長・角和夫氏 逝去──関西経済を支えた名経営者の歩み

2024年6月25日、関西の鉄道・流通・不動産・エンターテインメント業界に多大な影響を与えた実業家、阪急阪神ホールディングス株式会社の元会長・角和夫(すみ・かずお)氏が亡くなられました。享年74歳。角氏は長年にわたり、阪急阪神グループの経営に深く携わり、関西経済界でも“重鎮”として知られていました。

今回は、その角和夫氏の功績と足跡をたどりながら、関西の発展とともに歩んだ氏の経営哲学やビジョンについてご紹介します。

角和夫氏の経歴と人柄

角和夫氏は1950年、大阪府に生まれました。1974年に旧阪急電鉄に入社。その後、グループ内で様々な要職を歴任し、2006年には阪急ホールディングスと阪神電気鉄道との経営統合という大きな節目のタイミングで、統合会社である阪急阪神ホールディングスの初代社長に就任しました。この大規模な経営統合は、関西私鉄業界の枠を超えた一大出来事であり、角氏の手腕が大きく評価された瞬間でした。

穏やかで人当たりがよく、それでいて盤石な計画性とリーダーシップを兼ね備えていた角氏は、社内外からの信頼も篤く、「社員ファースト」「現場主義」を大切にする姿勢が随所に見られました。多忙な経営課題の中でも現場に足を運び、従業員や顧客との対話を重ねながら会社づくりを進めていました。

阪急阪神ホールディングスの統合と再興

2006年の統合は、阪急グループ・阪神グループの伝統とカルチャーを融合させるという非常に繊細かつ難易度の高い挑戦でした。それぞれ100年以上の歴史を誇る老舗企業だけに、文化や理念の違いをいかに統合するかは大きな課題となっていたのです。

角氏は「お互いの良さを尊重し、1+1を2以上にするような融合を目指す」と語り、社員同士の交流を積極的に促進することで、社内の一体感を高めていきました。その結果、阪急阪神ホールディングスは安定した経営基盤のもとで成長を続け、鉄道事業だけでなく商業施設、不動産開発、エンターテインメント事業など、多角的な展開を進め成功を収めました。

とくに梅田エリアでの開発や、「阪急百貨店うめだ本店」のリニューアル、「阪神梅田本店」の再開発など、大規模プロジェクトを次々と手掛け、関西の中心地の再活性化に大きく貢献しました。これらの再開発事業は、関西の魅力をさらに高め、国内外からの観光客誘致にも寄与しています。

エンタメと文化への理解

角氏の特色のひとつとして、エンターテインメントや文化事業への深い理解があります。阪急阪神ホールディングス傘下には、宝塚歌劇団や阪神タイガースといった国民的人気コンテンツがありますが、それらの伝統やファン文化を大切にしながら、経営面での強化も進めてきました。

宝塚歌劇団については、劇場の設備改修やブランディングの見直し、若手人材の育成などを通じて、新しい時代にも支持される舞台を送り出し続けてきました。また、阪神タイガースの支援にも力を入れ、スポーツによる地域振興にも努めました。

このように、角和夫氏は“交通と文化”“商業と暮らし”といった多彩な要素を結びつけることで、グループ全体のブランド力を高め、関西の暮らしやビジネス環境を豊かにしていきました。

長期的視点に基づいた経営

角氏の経営ビジョンでもう一つ特筆すべき点は、「短期の利益追求ではなく、中長期の成長を見据えた戦略」に焦点を当てていた点です。とくに地方都市での再開発や郊外住宅地の活性化など、「街づくり」に近い視点で事業を推進してきました。

例えば、神戸や西宮などの沿線地域では、高品質な住宅供給や商業施設の整備を通じて、家族層や高齢者層からの支持を獲得しており、「住みやすさ」を基準としたエリア戦略は他社にも大きな影響を与えました。

また環境問題や高齢化社会といった社会課題にも向き合い、鉄道の利便性を高めることで自家用車の依存を下げたり、バリアフリー設備の導入を積極的に進めるなど、社会的責任(CSR)を意識した経営を実践していました。

地域社会との共生を目指して

角氏はまた、経済界だけでなく地域社会とも深くかかわりを持ち、さまざまな行政・民間プロジェクトにおいてアドバイザー的な役割も果たしてきました。関西経済連合会(関経連)の副会長や関西経済同友会の幹部も務め、自社の利益を超えて、地域全体の発展を志していました。

「企業が成長するには、地域社会も一緒に豊かになることが必要です」という信念のもと、地元自治体との協力や文化支援活動などを積極的に展開。また、災害時には交通インフラの早期再開に努めるなど、地域に根差した企業としての使命を果たしていました。

おわりに──“都市の鼓動を支えたリーダー”の遺産

角和夫氏の逝去は、大きな損失であるとともに、改めてその功績の数々を多くの人々が認識する機会にもなりました。鉄道という都市の“血流”を担うインフラから、商業、文化、生活にわたるまで、幅広い事業を通じて角氏が果たしてきた役割は、計り知れません。

「人を真ん中に考える経営」「時間をかけてでも良質なものをつくる」という言葉に象徴されるように、角氏の姿勢は多くの経営者や社員に影響を与えてきました。その遺志は、今後の阪急阪神グループの成長の中に確かに生き続けていくでしょう。

角和夫氏のご冥福を心よりお祈り申し上げるとともに、偉大な足跡を改めて讃えたいと思います。