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マクドナルド、6月に大幅値上げへ 原材料費高騰と経営戦略の狭間で問われる“体験価値”

2024年6月3日、報道各社が伝えた日本マクドナルドホールディングス株式会社による大幅な商品価格の改定が、全国の消費者や業界関係者に大きな波紋を広げている。6月19日から実施されるこの価格改定では、一部商品を除くメニュー全体の約7割に及ぶ価格が引き上げられるという。ハンバーガー単品は150円から170円に、ビッグマックは450円から480円に、チーズバーガーは200円から230円への値上げが予定されている。消費者心理にダイレクトに影響を与える日常食の値上げに、世間からはさまざまな声が寄せられている。

この動きの背景にあるのは、原材料費やエネルギーコスト、人件費などの上昇だ。日本マクドナルドは今回の発表のなかで、「国内外の原材料価格、物流費、人件費などの上昇により、企業努力だけでは吸収しきれない水準」と説明している。2023年以降も続く世界的なインフレ傾向は日本にも波及し、特に輸入に大きく依存する外食産業にとって、価格調整は避けがたい課題となっている。

今回の価格改定を発表した日本マクドナルドホールディングスは、日本における「マクドナルド成長の立役者」とされるサラ・エル・カサノバ氏の後任として、2020年にカサノバ氏から社長兼CEOを引き継いだ日色保(ひいろ・たもつ)氏の陣頭指揮のもとで運営されている。日色氏は長年、消費者向けマーケティングやグローバルなブランド戦略に携わってきた経歴を持ち、マクドナルドジャパンが再度成長軌道に乗るための改革に取り組んできた人物だ。

日色氏は早稲田大学を卒業後、1990年にマクドナルドに入社。その後、フードサービス業界のマーケティングや商品開発など様々な職位を経験しながらキャリアを積み重ねてきた。同氏が注目されたのは、特に2010年代後半以降のマクドナルドジャパンが直面した“信頼回復”の局面だ。食品の安全性や品質への不信感が消費者の間で広がるなか、品質管理の強化、ブランド戦略の再構築、モバイルオーダーやアプリサービスの導入などを通じて、顧客満足度の向上とデジタル化を両輪にマクドナルドの再生を牽引してきた。

2020年に社長に就任して以降は、コロナ禍における需要の変化へ迅速に対応し、ドライブスルーやデリバリーに注力。一方で、人手不足への対策、厨房効率の見直し、サステナビリティ施策の導入など、社会的責任を果たす経営にも力を入れてきた。特に、顧客からのフィードバックをコアとした経営スタイルには定評があり、「お客様の声に耳を傾けることで、企業は長期的に愛され続ける」と語っている。

今回の価格改定にあたっても、日色氏は「厳しい決断だったが、今後も高品質な商品とサービスを継続して提供するために必要な措置」と説明している。また、マックフライポテトやマックシェイク、チキンマックナゲットなど、多くの人気商品を取りそろえる中で、改定幅は最小限に抑える努力を重ねたとも強調。これまでの改革と同様に、顧客との信頼関係を保ちながら対応する姿勢が見て取れる。

このような経営戦略の核心には、グローバルな視野に立ちつつも、“日本の消費者の嗜好”を深く理解し、ローカライズされた商品開発やキャンペーン展開を重視する方針がある。例えば、てりやきマックバーガーや月見バーガーといった、海外メニューにはない“日本独自メニュー”もその戦略の一環である。これらのローカル商品は、消費者の文化や食の好みに寄り添いながらブランドへの親しみを維持する重要な役割を担っている。

また、経済学や経営学の観点から見ても、今回の価格改定は供給側のコストプッシュ型インフレによるものとされ、マクドナルドだけでなく他の外食チェーンやコンビニエンスストアでも同様の動きが広がっている。消費者の財布が厳しさを増す中で、企業の価格設定はますます高度な判断が求められることになるだろう。

その一方で、テクノロジーを活用した価格変動制の導入も検討され始めている。日色氏も過去のインタビューで、「将来的にAIを用いた需要予測やダイナミックプライシングの導入が可能になる」と示唆しており、消費パターンに応じた柔軟な価格設定が実現すれば、価値を感じるタイミングで消費者に商品を提供できるようになる。

最終的には、「ただの価格調整」ではなく、「企業の持続性を保つための進化」であると捉える視点が必要だ。特に日色氏が掲げる理念の一つに「我々が提供しているのは、食事そのもの以上に“体験”である」という考えがある。清潔な店舗、笑顔あふれる接客、テクノロジーを活用した利便性など、総合的な顧客体験がブランド価値を形成する中で、価格調整もその品質を保つための一要素に過ぎない。

今後も物価環境と消費者心理の間で難しい舵取りが予想される中、日本マクドナルドがいかにしてブランド価値を維持し、新時代のニーズに対応していくのか。その動向に注目が集まっている。価格戦略の裏には、日色保氏をはじめとする経営陣の深い戦略的思考と、“顧客とともに歩む姿勢”が浮かび上がっており、外食産業の新たな未来を指し示す手がかりがそこにある。