「誰でもエリートになれる時代は終わった」——東大中退・リクルート出身の実業家、佐藤航陽氏が語る“これからの個人が生き残る道”
「今は、“努力すれば誰でも成功できる”という物語が成り立たなくなりつつある時代に入っている」。そう語るのは、自らも異色の経歴をもつ起業家・佐藤航陽氏だ。
今、国内外の企業経営者やビジネスパーソンの間で注目を集めている佐藤氏は、東北の高校から東京大学文学部に進学するものの中途退学。その後、人材業界の大手であるリクルートに身を置きながら、20代でITベンチャーを立ち上げ、以降IT業界を中心に複数のビジネスを立ち上げてきた。
その佐藤氏が近年一貫して語っているのが、「情報資本主義」の時代における個人と企業の“生存戦略”だ。今回のインタビューでも、彼は若者や働く人々に対して、あまりに現実離れした理想や、過去の成功事例にとらわれた自己啓発的な価値観から脱却する必要性を訴えている。
「努力すれば報われるという時代は終わった」
佐藤氏が語るように、かつて高度経済成長期から平成を通じて長らく広まっていた「努力は必ず報われる」という価値観は、現在の情報化時代、そしてAIとデジタルテクノロジーが高度化する社会において、もはや機能しなくなってきている。
「以前は、同じことをたくさんの人がやっていれば、全体のレベルが相対的に上がった時代だった。でも今はAIがその役割を果たしてしまっている。同じ知識やスキルを持った人は、AIにすぐ置き換えられてしまう。そのような“平均”や“汎用性”のある人材は、むしろ競争の中で淘汰されやすい」と佐藤氏は語る。
つまり、「基本を身につければ食べていける」「人並みに努力すれば誰でも一流企業に入れる」といった幻想は、既に過去の話であり、今の社会では通用しない。
では、現代において個人が生き残るには、どうすればよいのか?
佐藤氏は、「実際の需要と供給を見極め、自分にしか提供できない価値を見つけること」が最も重要だと強調する。ときにその価値は、キャリアの中で偶然見出されることもあれば、自分自身の内面や欲望に素直になる中で発見される場合もある。
「成功する人の多くは、“自分の好き”を突き詰めて、それが結果的に誰かからの需要と一致しただけ。そこには明確なロジックや再現性よりも、“偶発性”や“個人の衝動”が鍵になっている」とも述べている。
実際、佐藤氏自身も、東大中退といういわゆるレールから逸れる決断をし、その後のキャリアも「意図した成功の連続」ではなく、「トライ&エラーの繰り返しによる偶然の発見」だったと振り返る。彼はテクノロジーや社会構造の変化を人よりも早く察知し、そこに賭けることで道を切り拓いてきた。
“普通”であることがリスクになる時代
佐藤氏の指摘は現代の就職市場や教育のあり方にも通じる。「正社員になるのが安定」や「有名企業に入っていれば一生安泰」といった常識が崩れ始め、かつて“安全牌”とされていた選択肢が、今や「時代に取り残される危険なルート」とすら言われるようになってきた。
また、近年の大学入試改革や高等教育制度の変化を見ても、「偏差値」や「マークシート的な能力」で測れる学力では、もはや個人の本質的な力とは言えずなってきている。そしてそれは、東大という“学歴の象徴”すら中退した佐藤氏の判断にも現れている。
佐藤氏は、こうした時代において重要なのは「正解のない問いに自分で答えを出す力」だと繰り返す。つまり、“用意された問い”に対する“正しい答え”を選び取るのではなく、自分で課題を見つけ、答えを創り出し、実行していく主体性こそが、今の世の中で通用する“汎用スキル”になってきているのだ。
情報社会だからこそ、大切なのは“個人の哲学”
「SNSやメディアが発達した今では、誰もが“他人の人生”を簡単に覗き見ることができる。その結果、多くの人が“他人と同じように生きること”を目指してしまう。でもそれはかえって、自分の人生における選択肢を狭めてしまう可能性が高い」と佐藤氏は警鐘を鳴らす。
情報過多の時代だからこそ、自分が何を価値とし、何を目指すのかという“個人の思想”や“哲学”が非常に重要になっている、と彼は語る。それがなければ、他人や時代の過剰な情報に流され、“何者にもなれないまま”キャリアを終えてしまうリスクすらあるからだ。
だからこそ佐藤氏は、若い世代に対して「他人が提示する“正解”や“成功”にとらわれないでほしい」と呼びかける。「むしろ、自分自身が“何に腹が立つのか”とか、“どんなときに感動するのか”という、自分の感情を手がかりにしたほうがいい。そこにしか、本当に意味のある価値は生まれないから」と。
未来に希望はあるか? 佐藤氏が語る“生き方”の指針
佐藤航陽氏は、自身の著作や講演、メディアでの発言を通して、「過去のルールにとらわれず、新しい戦略で世界を見つめ直そう」と私たちに問いかけている。
その姿勢からは、単なる批判者ではなく、時代の変化に対してポジティブな可能性を探る“戦略的楽観主義者”の姿勢を垣間見ることができる。
確かに、「努力すれば誰でも成功する」という物語は終わったかもしれない。しかし逆に言えば、「どんな人でも、自分だけの価値を見出せば生き残れる」という自由で多様な時代が始まっているのだ。
情報があふれ、AIが社会のあらゆる場面に浸透し、既存の常識が次々と塗り替えられていくいま——必要なのは、世間の“正解”に従うことではなく、自分なりの“問い”を持ち、試行錯誤を続けること、そして偶然の触媒としての“直感”を信じることなのかもしれない。
佐藤航陽氏の言葉は、そのことを静かに、しかししっかりと私たちに伝えている。