2024年4月、福岡県で発生した盗撮事案は、社会に再び盗撮という行為の深刻さと、性犯罪における再犯の可能性について警鐘を鳴らすこととなりました。この記事では、「二度と盗撮しない」と誓ったにもかかわらず、そのわずか1か月後に再犯に及んだ40代の男について、報道内容に基づきながら、盗撮への社会的関心、再犯を防ぐための更なる取り組みの必要性、そして私たち一人ひとりができることについて考えてみたいと思います。
■事件の概要
福岡県警は、制服姿の女子中学生のスカート内をスマートフォンで盗撮したとして、福岡市内に住む40代の男を県迷惑防止条例違反の疑いで現行犯逮捕しました。この男は、事件の約1か月前にも同様の盗撮行為を行って逮捕されており、その際には「二度としない」と誓っていたといいます。
犯行は昼間、駅ナカの商業施設に設置されたエスカレーターで発生しました。男はエスカレーターを逆走する形で女子中学生の後ろに回り込み、スマートフォンをスカートの中に向けて撮影行為を行っていたとされます。警察による取り調べに対し、男は容疑を認め、「出来心でやってしまった。もうしないと誓っていたのに、またしてしまった」と話しています。
■盗撮行為の深刻さと被害者への影響
盗撮は軽犯罪と思われがちですが、被害者の心に深い傷を残し、精神的な苦痛につながる重大な性犯罪です。知らない間にプライベートな身体の一部が撮影され、それがインターネット上に拡散されたり永久に保存されたりする危険性もあります。特に学生や若年層が被害者となるケースが多く、成長期に受けたこうした被害は将来の人間関係や学業、就業にまで悪影響を及ぼす恐れがあります。
こうした犯罪の背景には、スマートフォンの普及と小型カメラ技術の進化があります。現在では、誰もが手のひらに収まる機器で高画質な動画を簡単に撮影できるため、盗撮行為が以前よりもずっと行いやすくなってしまっています。
■再犯の問題
今回の事件が注目を集めた大きな理由のひとつが、「再犯」です。一度逮捕された人物が、短期間のうちに再び同じ違法行為に走った事実は、対策の難しさと予防の必要性を浮き彫りにしています。「出来心だった」「魔が差した」という言い訳では済まされない問題であり、本人の認識の甘さだけでなく、社会や法制度が再犯を防止する仕組みとして未だに不十分であることを示しています。
特に性犯罪の場合、再犯率が比較的高いという統計も存在します。心理的な要因や衝動のコントロールができないケースもあり、行動療法や専門的なカウンセリングを含む継続的な支援が必要だとされます。単なる「反省」では再犯防止には不十分であり、再教育、治療、そして社会復帰支援といった多面的なサポート体制が求められています。
■法律や技術による対策の限界と可能性
現在の日本では、盗撮行為は各都道府県の「迷惑防止条例」によって規制されており、これに違反すれば罰金や懲役刑が科されます。さらに、SNSなどに画像や映像を拡散する行為には、名誉毀損や肖像権の侵害といった別の法的問題も発生します。
また、商業施設や鉄道会社では防犯カメラの設置、エスカレーターをミラー付きにする、駅員や警備員による巡回の強化などの取り組みが進んでいます。しかし、それでも完全に犯罪を防ぐことは難しいのが現状です。
一方で、スマートフォンの機能を制限する特殊なアプリや、撮影時に特有の音を出す義務化など、技術的な規制も検討されています。こうした取り組みは一定の効果が期待できるものの、悪意のある者がそれを回避する可能性もあるため、あくまで補助的な手段として位置づけるべきでしょう。
■社会全体での取り組みが必要
盗撮行為を根絶するためには、罰則や技術的対応に加えて、何よりも一人ひとりの意識の変革が不可欠です。私たちの日常生活の中で、「見て見ぬふり」をしない、被害を目撃したときにはすぐに声をかけたり警備員に通報するなど、小さな心がけが大きな犯罪抑止力となります。
また、教育現場での性犯罪に関する啓発活動や、早い段階から「他者の権利を尊重する」意識を育むことも重要です。特に若者にとってスマートフォンは日常的なツールであり、その利便性と同時に、他人のプライバシーを侵害してはならないというモラルを教える教育が求められます。
■再犯防止のための社会支援の強化を
加害者に対しても、再犯を防ぐための「出所後支援プログラム」や「性犯罪者特別プログラム」などの整備が進められていますが、日本ではまだ十分とはいえません。性犯罪に関しては、衝動や嗜好が関係することが多く、専門的なアプローチが必要です。
現在、欧米諸国では認知行動療法や再発防止プログラムの導入により、再犯を大幅に減少させた実績があります。日本においても、こうした実践例を参考にしながら、精神科医療、心理学的支援、社会福祉制度を組み合わせた多面的なアプローチが求められています。
■被害を防ぐためのヒント
女性や若年層を中心に、盗撮防止のための日常的な工夫も紹介されています。例えば、エスカレーターではスカートの後ろを手で押さえる、周囲に不自然な距離でついてくる人がいないか確認する、バッグや手提げで自分の死角を遮るなどの対策が挙げられます。もちろん、被害者側が常に警戒しなければならないという社会構造は変えるべきですが、現状では自己防衛も一定の効果を持つという側面があります。
■おわりに
「二度と盗撮しない」と口では誓いながら、再び同じ行為に及んでしまった加害者の行動は、私たちに多くのことを問いかけています。単なる「反省」では行動は変わらない場合があり、個人の力だけではどうしようもない衝動もあるかもしれません。だからこそ、社会全体が連携し、罰則、治療、教育、予防、支援の5つの軸を包括的に活用することで、このような犯罪の再発を防ぐことができるのです。
被害者が安心して日常生活を送れる社会を目指して、私たち一人ひとりがこの問題に関心を持ち、行動していくことが何よりも大切です。盗撮という見えにくい犯罪をなくすために、まずは「盗撮は絶対に許されない悪質な犯罪である」という認識を広く社会に浸透させていく必要があります。