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MCUさん死去──日本HIPHOPに笑顔と遊び心を刻んだレジェンド、享年50歳

2024年6月、芸能・音楽業界に大きな衝撃を与えるニュースが報じられた。人気ヒップホップグループ・KICK THE CAN CREW(キック・ザ・カン・クルー)のメンバーであり、ソロアーティストとしても活躍してきたMCU(本名:佐々木允)は、6月17日、都内で心不全のため逝去した。享年50歳という、あまりにも早すぎる死に、音楽業界からは悲しみと惜別の声が相次いでいる。

MCUは、1990年代中頃から地下HIPHOPシーンで活動を開始し、1997年にKREVA、LITTLEと共にKICK THE CAN CREWを結成。2000年にメジャーデビューを果たし、その後の日本のヒップホップシーンに与えた影響は計り知れない。「マルシェ」「sayonara sayonara」など、キャッチーなサウンドと鋭いリリックで一世を風靡し、日本のヒップホップをポップカルチャーとして大衆に広めた先駆者の一人として知られる。

MCUのラップスタイルは、どこか肩の力が抜けた柔らかなフロウと、ひとひねり効かせたユーモラスな言葉選びに特徴があった。彼の存在はKICK THE CAN CREWの中でもひときわ「癒し」と「遊び心」を司る重要なポジションにあった。時にパーティーラップのような明るさを持ち込み、またある時は感情の機微を表現するナラティブなラップで聴き手を引き込んだ。

グループ活動だけでなく、MCUは2003年にソロデビューを果たし、「A.K.A」シリーズなど、個人としての音楽的探求も続けていた。特に「A.K.A.」シリーズでは、普段のキャッチーなMCUの印象とは対照的に、よりダークで内面に深く切り込むような世界観が展開された。彼自身のリリシズム、哲学、視点が詰まった作品群は、コアなファンにとってのバイブルとも言える存在だった。

2004年にはKICK THE CAN CREWが活動を休止し、メンバーそれぞれがソロ活動に専念することとなる。その中でもMCUは、ミュージシャンとしての表現だけでなく、テレビ番組やラジオなど多方面で活躍を続け、その親しみやすいキャラクターと飾らない人柄で世代を超えたファンを魅了した。

KICK THE CAN CREWは2017年にグループ結成20周年を記念し、13年ぶりとなる新作アルバム『KICK!』をリリース。日本武道館での公演なども成功させ、再び注目を集めた。MCUもその中心でマイクを握り、歳を重ねても変わらぬ笑顔とパフォーマンスを見せていた。

2024年初頭にもMCUはSNS上でライブの様子を発信し、今後への意気込みを語っていた。「まだまだやりたいことがある」「ステージに立ち続けたい」──。そんな言葉が、多くのファンの心に今も残っている。

また、MCUは若いアーティストの発掘・プロデュースにも意欲的で、シーンの活性化に貢献することを常に念頭に置いて活動していた。どんなときも「HIPHOP」というカルチャーの持つ可能性を信じ、音楽を通して社会と繋がろうとする姿勢は、彼の生涯を通じて一貫していた。

ファンや関係者にとって、今回の訃報は信じがたいものである。SNS上では「嘘であってほしい」「あの笑顔が忘れられない」「MCUの曲に何度も救われた」といったコメントがあふれている。音楽評論家の宇野維正氏も、「MCUの存在は、日本のHIPHOPにおけるある一つの方向性──つまり“楽しさとカッコよさと優しさの融合”を象徴していた」と語っている。

KICK THE CAN CREWの他のメンバーであるKREVAとLITTLEは、今回の訃報に対し沈黙を守っているが、その心中は察するに余りある。ファンの間では「いつかMCUへのトリビュートライブが行われるのではないか」との期待の声も上がっている。

MCUは、音楽以上のものを残したアーティストだった。彼の言葉、音楽、そして生き様は、数多くの人々に生きる勇気と笑顔を与えた。ラッパーとしてだけでなく、一人の表現者として、そして笑顔とユーモアを絶やさない人として、彼は多くの人々の記憶に深く刻まれている。

「人生は一度きり、だったら面白がったほうが得だろ?」

過去のインタビューでMCUが語っていたフレーズが、今あらためて胸に響く。肩肘張らず、でもどこか芯が通った、そんな彼のあり方こそが、多くの人に愛された理由だったのだろう。

MCU──佐々木允。その名前は、これからも日本のHIPHOP史の中で、色褪せることなく語り継がれていく。彼の作り上げた音楽、伝え続けたメッセージ、そして何よりも温かい人柄は、これからも世代を超えて受け継がれていくに違いない。心よりご冥福をお祈りするとともに、その偉大なる功績に深く感謝の意を表したい。

ありがとう、MCU。あなたの音楽は永遠です。