老舗扇子店社長・大西里枝さんの訃報に寄せて――受け継がれる京扇子のこころ

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訃報に接して――深い敬意と哀悼をこめて

老舗扇子店の社長である大西里枝さんが亡くなられたとの報に接し、心よりお悔やみ申し上げます。伝統を現代の暮らしへと橋渡ししてきた方の訃報は、多くの人にとって大きな喪失です。扇子は暑さをしのぐ道具にとどまらず、所作や趣、季節の心を伝える日本文化の象徴でもあります。その歩みを支え、受け継いできた老舗の存在と、そこに関わる人々の努力に改めて思いを致します。

老舗が守ってきたもの――京扇子の価値

京扇子は、骨組みの竹、貼り合わせる和紙や絹、彩色や箔、仕上げの磨きに至るまで、専門の職人が工程を分担して作り上げる総合工芸です。一本の扇子の背後には、見えない手間と呼吸が重なっています。老舗は、こうした工程を束ね、品質を守り、時代に合わせた意匠や用途の提案を続けてきました。扇子が贈り物として愛されるのは、道具としての利便だけでなく、作り手の誠実さや心遣いが宿っているからでしょう。

暮らしの中の扇子――小さくて、大きな文化

扇子は、ビジネスやお茶席、舞や祭礼など、多彩な場面で息づいています。開閉の所作は静かで美しく、言葉を交わさずとも周囲への気配りを伝えます。季節の柄や色合いを選ぶ楽しみは装いを引き立て、一本を長く大切に使う行為は、持ち物とともに自分の時間を育てていくことにもつながります。使うほどに手に馴染み、紙や絹の風合いが変わっていくのも、天然素材ならではの魅力です。

初めての一本の選び方

サイズ感：手の大きさやバッグへの収まりで決める。一般的には男性用はやや大ぶり、女性用はやや小ぶりだが、使い手の心地よさを最優先に。
素材：和紙はしっとりと軽やか、絹は上品でしなやか。骨は煤竹や淡竹などで表情が異なる。
柄と色：季節感のある柄は年中使えるものも多い。シーンに合わせて無地や控えめな柄を選ぶと安心。
用途：日常用、礼装用、舞・稽古用など目的に合った設計がある。店で相談すると最適な一本に出会いやすい。

長く使うための手入れと保管

やさしく開閉：勢いよく弾かず、両手で空気を含ませるように開くと紙や骨に負担が少ない。
湿気を避ける：使用後は軽くあおいで乾かし、ケースに収める。高温多湿は紙の波打ちの原因に。
保管環境：引き出しや箱にシリカゲルなど乾燥剤を入れ、直射日光を避ける。
休ませる：汗ばむ季節は予備を用意し、日替わりで使うと傷みが偏らない。

受け継ぐということ――私たちにできる小さな実践

伝統は、特別な誰かだけのものではありません。一本の扇子を選び、日常の所作を整え、季節を楽しむこと。それが作り手の営みを未来へ手渡すことにつながります。贈り物として扇子を選ぶのも素敵です。好みや場面を想像して選ぶ時間そのものが、相手を思いやる文化を育てます。訃報に触れた今こそ、私たち一人ひとりができる形で、扇子のある暮らしを大切にしていきたいものです。