公表された「事実婚」という選択肢に寄せて
お笑いジャーナリストとして社会課題をやわらかく伝えてきた、たかまつななさんが「事実婚」でのパートナーシップを公表し、相手が元官僚であることも伝えられました。多くの祝福とともに、結婚のかたちについての関心が高まっています。今回のニュースは、当人同士の幸せな一歩であると同時に、「事実婚とは何か」「どんな準備が必要か」を考える良いきっかけにもなります。本記事では、政治的な主張に寄らず、事実婚の基礎、現実的な手続き、そして私たち一人ひとりにできることを整理します。
事実婚とは何か——法律婚との違い
事実婚は、婚姻届を提出せず、社会的に夫婦同然の生活実態を持つパートナーシップのことです。互いを配偶者として認め合い、生活の実体を共有する一方、戸籍上は未婚の扱いとなります。法律婚との主な違いは次の通りです。
- 姓の扱い:法律婚では同姓(または通称利用)を選ぶのが一般的ですが、事実婚では各自が本名をそのまま用います。
- 税制:配偶者控除・配偶者特別控除は原則として法律婚が対象です。事実婚では適用外となる場合が多く、世帯の税負担は制度設計の影響を受けます。
- 社会保険:健康保険の被扶養者認定や企業の家族手当などは、加入団体・就業先の取り扱いに左右されます。証明資料が充実していれば認められる場合もありますが、一律ではありません。
- 相続:法律婚の配偶者には法定相続権がありますが、事実婚のパートナーには原則としてありません。遺言や保険の受取人指定など、別途の備えが重要になります。
事実婚が注目される背景
近年、働き方やキャリア形成、姓の運用、子育て観、人生設計の多様化が進み、パートナーシップの形も一様ではなくなりました。事実婚を選ぶ理由は人それぞれ。生活の自由度、仕事上の名前の継続性、家族内の役割分担の柔軟さなど、多面的な動機が考えられます。大切なのは、どの形を選ぶにしても、当人同士の納得と尊重があること。それが周囲にとっても、理解や共感の土台になります。
ふたりを守るための実務ポイント
事実婚を選ぶ場合、安心して暮らすための準備は「書面化」と「証跡づくり」です。次のような項目を検討しておくと安心です。
- パートナーシップ契約書:家計の負担割合、家事・育児の分担、解消時の取り決めなどを合意文書にする。
- 公正証書化:重要な合意(生活費の負担、財産分与など)は公証役場で公正証書にすると証明力が高まります。
- 遺言書の作成:相続権が原則ないため、公正証書遺言で遺贈や遺言執行者を指定する。
- 保険・受取人指定:生命保険・死亡退職金等の受取人を相互に指定。最新の指定状況を定期的に見直す。
- 医療同意と連絡体制:緊急時に備え、同意手続きの代理や連絡先の指定を医療機関・勤務先に共有。
- 住居と財産の名義:不動産・賃貸契約・大口家電などの名義と費用負担を明確化し、領収書や振込記録を保管。
- 住民票・世帯の取り扱い:世帯主・続柄表記を確認。自治体によって書きぶりや証明の出し方が異なるため、事前に窓口で確認。
- 勤務先制度の確認:家族手当、慶弔、休暇制度などの適用可否や必要書類(同居証明、契約書写し等)を人事と相談。
子どもに関する留意点
将来、子どもを迎える可能性がある場合は、出生届、認知手続、親権、氏の扱いなど、家族法上の手続きを早めに把握しておきましょう。とくに親権の取り扱いは制度上の要件が複雑で、家庭裁判所での手続が必要になるケースもあります。出生前から、自治体・法務局・専門家(弁護士・司法書士・行政書士など)に相談しておくと安心です。
周囲の理解とコミュニケーション
パートナーシップの形は、外から見ただけではわからない事情や思いがたくさんあります。事実婚という選択に対して、祝福とともに静かに見守る姿勢が、当人たちの生活を支えます。また、職場や地域で必要な配慮や制度の確認を丁寧に行い、合理的な範囲で対応していくことが、誰にとっても暮らしやすい環境づくりにつながります。
たかまつななさんのニュースが投げかけたもの
社会課題を伝える活動を続けてきた彼女が、事実婚を公表したことで、多くの人が「自分に合ったかたち」を考える契機になりました。ニュースに触れて、「こうあるべき」という単一の正解を探すのではなく、選択肢を知り、対話し、必要な手当てを整える。そんな一歩一歩が、当人同士の安心とまわりの理解を広げていきます。
まとめ——選択を尊重し、備えで支える
事実婚か法律婚かに優劣はありません。大切なのは、互いを大切に思う気持ちと、現実的な備えです。契約、証明、手続きの準備を怠らず、困った時に支え合える体制を整えること。そして周囲は、その選択を尊重し、偏見なく向き合うこと。たかまつななさんの朗報をきっかけに、さまざまな家族のかたちが安心して選べる社会へ。私たち一人ひとりの理解と行動が、その土台になります。