妊娠の報告が素直に喜べない—そんな自分に戸惑う気持ち
私たちがSNSを開けば、「妊娠報告」「出産報告」「家族が増えました」といった明るく温かな投稿が数多く目に飛び込んできます。幸せな報告の数々に、「おめでとう！」とコメントし共に喜ぶことが一般的なマナーとされている今の時代。しかし、そのような報告に心から笑顔で応えることができず、心のどこかで涙がこぼれてしまう——そう感じたことのある人は、実は少なくないのかもしれません。
「2度の流産を経験した私には、妊娠報告を見るたび、心にズキンと痛みが走る」、そんなある女性の声が取材を通して注目を集めています。その正直な想いが多くの共感を呼び、SNS上でも「わかる」「辛いのに他人に言えない気持ち、すごく共感する」といった声が寄せられています。
この記事では、流産を経験した方の気持ちに寄り添いながら、なぜ妊娠報告が辛く感じてしまうことがあるのか、またそのような揺れる感情にどう向き合えばよいのかを、少しずつ紐解いていきたいと思います。
言葉にしにくい感情：「おめでとう」が苦しくなる瞬間
周囲の幸せを素直に喜べない——このような感情に罪悪感を覚える人はとても多いです。特に、妊娠や出産に関する報告は、心の拠り所とする一方で、自身の経験によってはそれが深い傷をえぐるきっかけにもなってしまいます。
取材を受けた女性は、2度の流産を経験しています。「妊娠検査薬で陽性が出て、やっと授かることができた」と喜びもつかの間、大きな希望と共に始まった命が、ある日突然、静かにその動きを止めてしまったーーそんな現実を2度も経験した彼女にとって、妊娠・出産の「おめでとう」が、時に刃のように胸に刺さる言葉になってしまうのです。
妊娠報告がなぜ辛いのか。それは、自分が望んでも叶わなかった現実と対比されることによって、自分自身の悔しさや無力感、そして「なぜ私だけが」といった思いが鮮明によみがえるためです。幸せを感じる瞬間に、声にならない悲しみがふいに心を包み込む。この感情は非常に繊細で、そして、言葉にすることも容易ではありません。
「これくらいのことで」と自分を責めないで
流産の経験は身体的な痛みだけでなく、心にも深い傷を残します。医師の診断がつくのは身体の状態ですが、心の痛みは目に見えにくく、どれだけの時間で癒えるかも人それぞれです。また、「妊娠できただけでもありがたいと言うべきなのかもしれない」と自身の感情を押し殺してしまう方も多く、それがさらに心の負担を重ねてしまう原因となっています。
もし、SNSで妊娠報告を見て辛くなってしまうことがあっても、それは決して「器の小さい人間」ということではありません。感情は誰にも止められない自然な反応であり、「羨ましい」「悔しい」「悲しい」といった気持ちは、自分が真剣に向き合ってきた証でもあるのです。
また、「泣いてもいい」「どうしても辛いときは距離を置いてもいい」と自分に許可を出すことも大切。無理にポジティブに振る舞おうとせず、まずは自分の心とちゃんと向き合い、「今の自分はこう感じているんだ」と認めることが、一番の癒しへとつながります。
同じ痛みを経験した者同士だからこそ、生まれる共感
最近では、SNSやオンラインコミュニティを通して、流産や妊活についてのリアルな声を発信する人も増えてきました。今回の記事に登場する女性のように、自身の経験を勇気を持って発信することで、「私だけじゃなかった」と感じられる方が多くいます。
同じ経験をした者だからこそ伝わる言葉、受け止められる思いがあります。「どんなに努力しても結果が出ないときがある」「なぜか周囲の幸せがまぶしく見えて苦しい」といった声は、どれも当事者でなければなかなか理解されにくい葛藤ですが、こうした実際の声が世の中に届くことで、少しずつでも「寄り添う気持ち」が広がっていくのではないでしょうか。
また、そのような声に共感する人が増えることで、妊娠や出産に関する情報発信のあり方も見直されつつあります。例えば、SNS上でのマタニティマークやエコー写真の公開について、「見るのが辛いときもあるから、投稿の前に一言配慮があると助かる」といった意見も出てきています。こうした双方向の理解が進めば、さまざまな立場の人たちが安心して過ごせる環境づくりにもつながっていくでしょう。
感情を恥じず、共に生きていく
「他人の幸せを素直に喜べる人でいたい」——それはとても素敵な願いです。でも、もしその過程で「喜べない自分に落ち込む」「ひとりで泣きたくなる夜がある」そんな経験をしたとしても、それもまた大切な自分自身です。
自分の感情を否定せず、そのまま受け入れ、生きていくこと。時に立ち止まり、泣ける場所を持つこと。そして、必要なときには信頼できる誰かにその気持ちを聞いてもらうこと。それらはすべて、前を向いて歩いていくための大切なステップです。
今は辛くても、いつかその思いが報われる日が来るかもしれません。もしかしたら、かつての自分と同じように涙を流す誰かに寄り添える存在になれるかもしれません。
この世界には、同じような経験をした人が他にも必ずいます。「あなたはひとりじゃない」——この言葉が、誰かの心を少しでも温めることができますように。
