2024年6月、教育現場における重大な課題が報じられました。タイトルは「わいせつ処分歴 私学75%確認せず」というもので、Yahoo!ニュースを通じて多くの反響を呼んでいます。この記事では、性犯罪や不適切な行為によって処分歴のある教員が私立学校で再び教壇に立ててしまう現状と、その背景にある制度上の課題について明らかにされています。
ここでは、今回の報道内容をもとに問題の本質を探り、子どもたちの安全を守るために私たちがどのような視点を持ち、改善に向けて社会がどう対応すべきかを考えていきたいと思います。
■ 教員の「わいせつ」処分歴とはどういうものか
まず、「わいせつ」処分歴とは、教員が児童・生徒に対して不適切な性的言動、接触をした場合などに文部科学省や都道府県教育委員会が懲戒処分を行い、その結果として教員免許が失効、または何らかの行政処分を受ける経歴を指します。中には、刑事事件として立件されるケースもあります。
こうした処分歴は、再発を防ぐために「教員採用時のチェック事項」の一つとされるべきですが、法的整備が不十分な部分もあり、特に私立学校ではその確認が義務ではなく、組織ごとの判断に委ねられているのが現状です。
■ 私立学校の75%が処分歴を確認せず:報道の概要
今回報じられた調査によれば、日本の私立学校や教育機関のうち、およそ75%が教員の採用において過去のわいせつ処分歴を確認していないことが明らかになりました。調査は文部科学省が2023年度中に全国の私立学校法人を対象に行ったもので、「確認していない」と答えた回答者が全体の4分の3を占めたという結果です。
公立学校の場合は、都道府県教育委員会が採用を管轄しており、教員免許の取得および管理も一元的に行われているため、処分歴のある人物が再び教壇に立つことは制度上、事実上排除されやすくなっています。
ところが、私立学校の場合はそれぞれが独立した法人であり、採用権限も学校単位、もしくは法人単位で管理されています。従って、過去に教員免許を失効した者が再び別の権限で教員として採用されてしまう、もしくは資格のないまま授業を担当する可能性も残るのです。
■ 見えてきた制度の課題
これまで、処分歴の保存・共有は都道府県単位での対応に留まっており、全国的なデータベースの整備は遅れてきました。しかし、教員という職業が子どもとの密接な接触を伴う職種であることからも、その人物の過去の経歴を適切に把握することは極めて重要です。
今回のように、私立学校の多くが処分歴の確認をしていない背景には、
・わいせつ行為による処分歴を共有する仕組みが整っていない
・プライバシーへの配慮から過去の経歴を詳細に確認できない
・教員免許が失効しても、定められた年数後に再取得可能な制度がある
といった制度的な制約や課題が背景にあると考えられます。
さらに、教員採用における人材不足も無視できません。一部の学校では「人手確保」を最優先とするあまり、採用過程でのチェックが形式的になっている場合もあるとされます。これは、教育の質や生徒の安全が本質的に問われる問題でもあります。
■ 被害を防ぐために必要な取り組みとは
文部科学省では、2024年度から「教員免許総合単位制度」の見直しや、全国で処分歴を共有する仕組みづくりを進める方針を打ち出しています。また、処分歴のある人物について、私立学校に情報提供を行う制度の構築も検討されています。
こうした施策と並行して求められるのが、社会全体での「教員の倫理観育成」と「採用体制の見直し」です。具体的には以下のような点が重要です。
1. 私立学校に対する確認義務の法制化
現在、私立学校には処分歴の確認が努力義務として伝えられているだけで、実際の義務はありません。今後は、採用時に過去の重大な処分歴を確認し、それを校長や理事会が判断材料として扱う体制づくりが急務とされます。
2. 処分歴情報の履歴管理と共有体制の強化
プライバシーに十分配慮しつつも、重大な不適切行為を行った教員の情報については教育関係者間で共有できる仕組みを整備することが必要です。被害の再発を防ぐためにも、リスク管理の観点から全国的な情報管理システムが求められます。
3. 教員再教育と再発防止プログラムの導入
処分歴がある人物であっても、更生の機会を与えるという観点から、教員としての再教育や、性的問題行為の心理的アプローチに基づいた更生プログラムとの連携も考慮すべきです。すべてのケースで排除するのではなく、社会としての支援のあり方も同時に議論が必要でしょう。
■ 子どもを守るために、私たちができること
今回の報道は、保護者や地域社会にとっても、教員採用の透明性と安全性を考える重要な契機です。私たちは、学校に子どもたちを預ける以上、その環境が安全で適切なものでなければなりません。
私学も公立と同様、「教育」は社会に対する公共的役割を担っている以上、一定の監視機能と責任の共有が欠かせません。保護者としては、子どもの通う学校がどのような採用プロセスを経て教員を選定しているか、また学校運営にどれだけ透明性や情報開示の取組みがあるかを関心を持って見守ることが、安全性の高い教育環境への一助になります。
さらに報道や情報に敏感でいること、制度の課題について知ること、そして声をあげることも社会を変える力になります。
■ おわりに
教員は、子どもたちにとって人生における大きな影響をもたらす存在です。だからこそ、子どもたちを守るためには、教員自身の適正や過去についても社会全体で真剣に向き合う必要があります。
今回の「わいせつ処分歴 私学75%確認せず」という報道は、私立学校を含むすべての教育機関が今こそ採用・管理制度を見直し、信頼に足る教育環境を築くための一歩として受け止めるべきではないでしょうか。
すべての子どもが、安心して学び、成長できる社会を目指して、私たち一人ひとりが関心をもち、支えていく。そんな未来のために、今回の課題を次の改善へとつなげていきましょう。