近年、国内外のアーティストによる大規模ライブツアーにおいて、「関西飛ばし」という現象がファンの間で話題となっています。これは、東京や福岡、札幌などの主要都市ではライブが開催される一方で、大阪や京都、神戸といった関西エリアの会場がツアー日程から外されるケースが出てきていることを指します。かつては東京に次ぐ動員数や規模を誇る“西の拠点”として数多くの公演が行われていた関西エリア。その関西がなぜ今「飛ばされる」状態になってきているのか。本記事では、その背景や現在の状況、ファンやアーティストの声までを取材をもとにひも解いていきます。
大型ライブツアーと関西のこれまでの関係
大阪城ホールや京セラドーム大阪、さらには神戸ワールド記念ホールなど、関西には多くの大規模イベントを行える会場が揃っています。これまでは、全国ツアーといえば東京と大阪の両方で公演が行われるのが当然とされてきました。K-POPグループや洋楽アーティスト、日本の人気グループまで、関西のファンにとっては地元でライブを楽しむことができる環境が長年保たれてきたのです。
ところが、2023年以降、SNSなどで報告されるライブスケジュールの多くにおいて、「大阪が外れている」「関西がない」といった声が目立つようになりました。実際に、国内外の大物アーティストが日本ツアーを開催する際、東京公演や名古屋、福岡などは押さえられているにもかかわらず、大阪がスケジュールに組み込まれていない例が散見されます。これが「関西飛ばし」と呼ばれるようになりました。
会場の取りづらさとスケジュールの逼迫
この現象の背景には、いくつかの要因があると考えられています。まず一つは、関西エリアの人気会場の予約の取りづらさです。大阪城ホールや京セラドームといった大規模会場は、アーティストのライブだけでなく、スポーツイベントや企業による催し物、展示会など、様々な用途で利用されています。そのため、アーティストが希望する時期に会場を確保することが難しいのです。
また近年は、新型コロナウイルスによる影響で延期・中止になったイベントが立て続けに再調整され、予約が一気に集中する「会場ラッシュ」となっています。この状況が会場の供給不足を一層深刻化させ、特に人気の高い関西圏ではスケジュール調整が困難になっています。
さらに、新幹線や飛行機によるアクセス時間の制約も影響しています。アーティストやスタッフの移動効率、さらに機材の輸送面で、短期間に多都市を回る過密スケジュールとなるツアーでは、距離の遠い会場はどうしても後回しにされやすくなってしまうのです。
コストとリスクの問題
もう一つ重要な要因が、コストとリスクの問題です。大型ライブには数千万円から数億円の制作費がかかり、興行主にとっては非常に大きな投資となります。関西圏の会場は動員数こそ多いものの、音響設備や舞台装置の持ち込み、設営・撤収のコストなどが他の都市に比べて高めになってしまう場合もあります。
また、コロナ禍を経て、チケットの販売数が読みづらい状況が続いており、かつてのように「とりあえず会場を押さえる」ことが難しくなっています。そのため、主催者側がより「確実に集客が見込める都市」に集中してしまうのも無理からぬことです。
ファンの声:「地元で見たい」という純粋な願い
関西のファンにとっては、「地元でライブが見られない」というのはやはり寂しい現実です。SNSでは「なんで関西だけないの?」「大阪でもやってほしい」「わざわざ東京まで行かないといけないのはつらい」といった嘆きの声も多く上がっています。特に学生や会社員など、遠方への移動が簡単ではない人々にとっては、ライブが地元で開催されることが大きな意味を持ちます。
また、地元でのライブがあることで、地域に経済的な恩恵がもたらされるケースもあります。宿泊施設や飲食、交通機関など、観光産業にも直接的な波及効果が期待されており、ライブをきっかけに地域全体が活気づくことも決して珍しくありません。その点からも、「関西飛ばし」はアーティストとファンだけでなく、地方の経済にとっても重要な問題となり得ます。
アーティスト側の理解と対応
こうしたファンの声をアーティスト側も無視してはいません。実際、多くのアーティストは「関西でもライブをやりたい」と語っており、スケジュールや会場の問題がなければ積極的に関西エリアでの公演を組もうとする傾向があります。あるアーティストは自身のSNSで「大阪でのスケジュールが取れなかったことが悔しい」と率直に語り、ファンに対して謝意を表していました。
また、一部のアーティストは「ライブビューイング」や「オンライン配信」などを通して、物理的に会場に来られないファンに向けた新たな観覧方法を提供する試みも行っています。とはいえ、「画面越し」と「現場」の違いはやはり大きく、地元でのライブ開催を求める声はこれからも決して小さくならないでしょう。
まとめ:関西を再びライブの聖地へ
「関西飛ばし」という現象は、スケジュールの都合や会場の混雑といった現実的な制約によって発生しているものであり、特定の地域を意図的に排除しているわけではありません。しかし、それにより地元のファンが悲しい想いをしているのもまた事実です。
今後、音楽業界全体でライブツアーの計画において、地域ごとの特性やニーズをより丁寧に汲み取りながら進めていくことが重要です。地方都市であっても、熱心なファンが多く、十分な需要があることを改めて認識する必要があります。
関西は、音楽・エンタメ文化の盛んな地域であり、数々の名ライブが生まれてきた場所でもあります。再び多くのアーティストが関西の地を訪れ、ファンとの熱い時間を共有できるような環境整備とスケジュール調整が進むことを、多くの人が期待してやみません。その動きが実現すれば、「関西飛ばし」という言葉が過去のものとなる日も、そう遠くはないかもしれません。