2024年の参議院選挙を目前に控え、各政党が次々と公約を発表しています。経済政策、外交・安全保障、少子化対策、環境問題といった主要な論点については、各政党ともに積極的に論戦を展開していますが、「防災」に関する議論は、残念ながら目立った動きが見られないのが現状です。日本という国の地理的・自然的な特性を考えれば、防災についてはもっと重要視されるべきではないでしょうか。
今回は、2024年6月時点での参院選各党の公約における「防災」関連の位置付けや、現状の課題、そして今後求められる方向性について整理しながら、多くの方にとって共感や再考のきっかけとなるような形で考えていきたいと思います。
■ 災害大国・日本における防災の重要性
日本は地震大国とも言われ、近年でも大きな地震や災害が頻発しています。2024年元日に発生した能登半島地震では、多くの人命が失われ、地域社会に大きな影響を与えました。それ以前にも、熊本地震や東日本大震災、西日本豪雨、さらには近年頻発する大型台風による被害など、枚挙に暇がありません。
こうした背景を踏まえると、防災対策の徹底強化は喫緊の課題であり、国政レベルでの優先順位も当然高いものであるはずです。2040年ごろまでには、南海トラフ地震の発生確率が高まっているとも指摘されています。今まさに、その備えを進める時期であり、政治の世界においても継続的な議論と政策措置が求められるべきです。
■ 参院選公約に見る防災の扱い
しかしながら、主要政党の2024年参院選における政策公約を見ると、防災に関する取り扱いは決して厚いとは言えません。大半の政党が、防災政策を独立した柱として取り上げることはせず、都市整備やインフラ更新、エネルギー問題など、他の政策体系の中に包含される形で言及されているに留まっています。
与党の自民党は、地域の防災インフラの強化や地方自治体・民間企業と連携した災害対応の強化を掲げているものの、他の主要政策と比較してその比重は軽く見える印象があります。公明党は比較的詳細な防災対策を打ち出している一方、野党各党においては、地震や風水害への備えの必要性は言及されるものの、それを具体的な政策として体系的に示しているものは多くありません。
特に、能登地震など近時の被災事例を踏まえた再発防止策や支援体制の強化についての記載が不足している点は、やや物足りなさを感じざるを得ません。国土の7割が山岳地帯で、かつ都市部の過密さや高齢化も進んでいる日本にとって、防災は「事後策」ではなく「未然防止策」として組み立てていく必要があります。
■ なぜ防災が議論されにくいのか?
一体、なぜ防災についての議論が選挙政策から後回しにされてしまうのでしょうか。その原因の一つは、「災害の発生が不確実である」という特性にあります。経済政策のように短期的な効果が見えやすいものとは異なり、災害対策は投資に対する可視的なリターンが不明確であり、有権者に響きにくい面も否めません。
また、防災対策には莫大な予算がかかります。堤防の補強や災害情報のデジタル化、高台移転の補助、防災教育の充実など、「見えにくい成果」への継続的な投資を政治的に優先順位高く行うことは、選挙においては訴求力を欠くと判断されやすいのも実情です。
とはいえ、それでもなお災害は忘れた頃にやってきます。実際、能登半島地震も元日というタイミングで多くの人々の日常を奪いました。だからこそ、平時からの備えの重要性を再認識し、その意思決定を党派を超えて共有していく必要があると言えるでしょう。
■ 今後求められる防災政策のあり方
これからの時代の防災政策には、ハード(インフラ整備)とソフト(人の命を守る仕組み)の両面での強化が求められます。
まず、老朽化する公共インフラの点検と更新は急務です。特に地域の避難所や学校・病院といった施設の耐震化やライフラインの見直しは、人命を守るために不可欠な措置です。また、地方自治体が実施するハザードマップの最新化や、防災無線・SNSなどを活用した迅速な情報共有体制の整備も進めなければなりません。
加えて、ソフト面では防災教育の強化や、地域住民の自助・共助の意識を育む施策が重要です。学校教育において防災科目を充実させることや、企業・自治体が定期的に訓練を行うためのガイドライン整備などが具体的に挙げられます。
さらに、自治体間の連携を超えた「広域防災ネットワーク」の確立や、自衛隊・消防・医療機関との連携の効率化、デジタル技術を活用した災害予測モデルの高度化など、AI・IoT時代に応じた“新しい防災”にも目を向ける必要があります。
■ 選挙を通じて、市民も「防災」を問う意識を
私たち有権者ができることもあります。選挙は、政治家が国民から信任を受ける重要な場であると同時に、私たち国民が政策を選択するチャンスでもあります。「防災対策はしっかりなされているのか?」「災害弱者に対する配慮は考えられているか?」「予算の規模とその配分バランスは適正か?」といった視点を持って政策を比較し、投票という形でその声を届けていきましょう。
また、選挙に限らず、日頃から防災に関する情報に触れ、家族や地域での話題として取り上げていくことで、世論全体としての関心の高まりを促すこともできます。政治家や行政の意識を後押しするのは、まさに市民一人ひとりの声と行動なのです。
■ まとめ:防災は「今こそ」取り組むべき国民的課題
今回の参議院選挙において、防災があまり大きく取り上げられていないのは、非常に残念なことであり、同時に大きな課題でもあります。これまでの災害から学んだ教訓を次の災害に活かすためには、政治の側も、そして私たち国民も、未来を見据えて備えていく責任があるといえるでしょう。
見えにくいテーマだからこそ、政治のリーダーシップと市民の関心が交わることが求められます。「備えあれば憂いなし」という言葉は、決して机上の空論ではありません。その備えを、今こそ真剣に始めるべき時ではないでしょうか。
防災は、誰か一人の問題ではなく、私たち一人ひとりの問題です。選挙を契機に、改めてその重要性を考え直し、日本の未来を「災害に強い国」として築いていく一助としましょう。