2017年12月22日、アメリカ合衆国のドナルド・トランプ大統領(当時)は、近年では最大規模とされる税制改革法案「減税・雇用法(Tax Cuts and Jobs Act)」に署名し、正式に同法を成立させました。この法案は、企業や個人に対して大幅な減税を実施する内容であり、トランプ政権にとっては就任以来の重要政策の一つとされてきました。
本記事では、この大型減税法案の主な内容、成立までの経緯、アメリカ国内での反応、そして今後予想される影響について、幅広くわかりやすく解説いたします。
■ 減税・雇用法の背景と目的
トランプ大統領は選挙期間中から一貫して「アメリカ第一主義(America First)」を掲げ、経済成長と雇用創出を最優先課題としてきました。その中で、企業の税負担の軽減や中間層家庭への減税は、アメリカ経済の再活性化を図る重要な政策方針とされていました。
アメリカの法人税率はこれまで世界的に高水準とされており、35%という税率は先進諸国の中でも有数の高さでした。これが多国籍企業による税逃れや、生産拠点の海外移転の原因の一つとも指摘されていました。こうした背景を受けて、税制改革による企業経済の底上げ、そしてより魅力的な事業環境を整備することがこの法案の主目的となっていたのです。
■ 主な法案の内容
今回可決された減税法案の要点は以下の通りです。
1. 法人税率の引き下げ
注目すべき点は、法人税が35%から21%まで劇的に引き下げられたことです。これは1986年にレーガン大統領が実施した税制改革以来の大改革といわれ、アメリカにおける税制構造そのものを揺るがす内容でした。企業にとって税負担が減ることで、国内投資を促し、海外からの資本呼び込みを促進することが期待されています。
2. 個人所得税の減税と控除の見直し
個人に対しても一定の減税が行われました。所得に応じた減税措置が導入され、とくに中間層への恩恵が図られたとされています。また、標準控除の額がほぼ倍増され、課税対象所得が減少する形になりました。ただし、州税や地方税に対する控除の上限が設けられるなど、一部の州では控除の恩恵が縮小された世帯もあると報じられています。
3. 子どもに対する税額控除の拡充
子育て世代を支援する目的で、子ども1人あたりの税額控除額が1,000ドルから2,000ドルに拡大されました。また、低所得世帯にも利用できるような制度設計がなされています。
4. 相続税の控除額引き上げ
相続税についても課税対象額が大幅に引き上げられ、大多数の家庭にとって相続税の負担が軽減される構造になりました。
■ 法案成立までの道のり
この法案は与党・共和党によって主導されました。上院、下院ともに共和党が多数派を占めていたため、理論上は可決が可能でしたが、税制という国民生活に直結する重要な法案だけに、党内でも意見が分かれる場面が多くありました。また、野党・民主党からは赤字の拡大や格差の拡大を懸念する声が挙がり、最終的に法案は共和党のみの賛成で可決されることとなりました。
その後、トランプ大統領が法案に署名し、減税・雇用法は正式に成立しました。これはトランプ政権にとっては、一つ目の大型立法成果となり、政権初年度の象徴的な実績とされました。
■ この法案がもたらすとされる影響
この税制改革が実施されることによって、いくつかの経済的効果が期待されています。
【企業活動の活性化】
法人税の大幅減税により、企業の利益が増加し、設備投資、研究開発、人材採用などへの再投資が期待されています。実際、一部の大企業では、減税を受けた資金を用いて従業員への一時金支給や最低賃金の引き上げといった施策を打ち出す動きも見られました。
【株式市場への好影響】
投資家の間でも企業利益の拡大が好感され、税制改革法案が進展した2017年末には株価が上昇傾向を示しました。とくにS&P500やNASDAQなどの主要指数が過去最高値を記録するなど、市場の楽観的な見方が強まりました。
【経済成長と雇用の拡大】
トランプ政権はこの税制改革によって年率3%以上の経済成長を実現することを目標としており、企業の活動が活性化することで新たな雇用創出が期待されています。
■ 一方で懸念される点も
経済活性化が期待される一方で、いくつかの課題や懸念も指摘されています。
【財政赤字の拡大】
大規模な減税は政府の税収減となるため、今後10年間で1兆ドルを超える財政赤字を生む可能性があるといわれています。将来的に医療や社会保障などの公共サービス予算への影響が懸念されており、財政健全化との両立が課題となります。
【格差の拡大】
法人税と高所得層へのメリットが大きいことから、中低所得層の恩恵が限定的であり、経済格差が広がるとの指摘もあります。とくに都市部と地方部、または各州間で控除の影響に差が出ているため、それに対する政策対応が求められています。
■ 結びに代えて
今回成立した「減税・雇用法」は、アメリカ経済の成長を後押しするための画期的な施策として注目されました。大胆な法人税減税と個人への減税によって多くの企業と家計に恩恵をもたらす一方で、長期的には財政責任や経済格差への対応が問われることにもなります。
税制改革は国家運営における重要政策であると同時に、国民一人ひとりの生活に直接関係するものです。その影響はすぐには現れないかもしれませんが、今後数年にわたってアメリカ国内外へ様々な波及効果をもたらすことでしょう。
私たちにとっても、こうした大国の税制や経済政策の動向を注視することは、国際社会における経済の流れや、グローバルなトレンドを理解する手助けになります。公正で持続可能な経済成長に向けた取り組みとはどのようなものか、今後も注目し続けていきたいところです。